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王都の噂(1)


カイルが王都へ旅立ってから、ソフィアたちは島の森の中を散策して食べられる植物や薬草の分布を調べたり、魔法の練習をしたりして過ごしていた。今日は箒の練習をするため、みんなで春風の丘にやって来ていた。箒は一つしかないため、アリーとミリーがトムに教わりながら練習している。ソフィアとリリアは草原に腰を下ろしてその様子を眺めていた。


「アリーちゃんとミリーちゃんも上手になってきましたね」

「うん、でも、リリアも凄いよ!もうすぐ向こう岸までいけるんじゃない?」

「ふふ、そうしたらソフィアさんも連れて行ってあげますね」


笑って話しながらも、時折王都の方向を見つめるソフィアにリリアは話を振った。


「カイルさんが王都に行かれて一週間ですね」

「うん、怪我とか、してなければ良いんだけど…」


心配そうに王都方面を見つめるソフィアに、リリアは笑顔で思ったままを言葉にする。


「ソフィアさんは、カイルさんの事が本当に好きなんですね」

「そ、んなこと…!」


ソフィアは顔を赤くして手と首を振ろうとするも、リリアの穏やかな笑みにそっと手を下ろした。


「…ううん、そうだね。私、出会ってはじめの頃から、きっとカイルの事好きだった。状況が状況だったから考えない様にしていたけど、それでもずっと一緒にいられたらって、思ってた」

「カイルさんに伝えないのですか?」


リリアの言葉に、ソフィアは小さく首を横に振る。


「カイルは、公爵家の嫡男で、王子様の側近だったの。親友の王子様を助けたいって、魔力を隠してずっと努力してきた凄い人なの。魔法使いの地位が認められれば、カイルは堂々と側近に戻れるわ。

…私みたいな迷惑ばっかりかけちゃう落ちこぼれなんかじゃ、釣り合わないよ」

「そんな事ないと思いますよ。ソフィアさんは、伝染病を治療して、私たちのことも助けてくれました。立派な魔女さんです」

「でも、カイルは優しいから、こんな事伝えたら困らせちゃうだろうし、もし、もしも万が一想いを受け入れてくれたら、カイルは私達のこと放っておけなくなっちゃう。私、カイルが望む場所に立てるように、私の出来る事ならなんだってしたいと思うよ。だけど私に出来ることは本当に少ないから…。だから、せめてカイルの重荷にはなりたくないの」

「ソフィアさん…」

「へへ、すでに返しきれないほどたくさん迷惑をかけちゃっているんだけどね」


戯ける様に苦笑を浮かべながらも、ソフィアの瞳には抱えきれない程の切なさが溢れていた。


「私の事だけじゃなくて、リリアこそ、ローガンさんのこと好きなんでしょう?」

「え、ええ⁈いえ、そんな恐れ多い!それこそ身分違いですよ!」


赤くなって首を振るリリアに、ソフィアはやり返す様にニッコリと笑顔を浮かべた。


「ふふ、自分の気持ちは否定しないんだね。だけど、ローガンさんだって危険を承知でリリアの事逃してくれたんでしょ?」

「そう、ですね。その事で、責められていなければ良いのですが…」

「教会内で魔の者を庇うなんて、勇気のある人なんだね」

「ふふ、普段は古い文献を読み耽って、歴史や神話の研究をするのが好きな方なんです。でも、教皇であるお父様やお兄様からはそんなものは意味がないと責められて…、よく俯いておられます。教会内では情けない次男だとよく陰口を言われていますけれど、でも、本当はとっても優しい方なんですよ!素敵な方なんです!…だから、使用人の私なんかじゃ釣り合わないです」


キラキラとした顔でローガンの素敵な所を説いていたかと思うと、切なげな顔を見せるリリア。ソフィアとリリアは目を合わせると、クスリと笑みを浮かべた。


「…私たち、似てるね」

「…ふふ、そうですね」


瞳を潤ませながら二人は手を取り合ってクスクスと笑いあった。




「おーい、ソフィア姉ちゃん、大変だ!」


偵察と称して島の周りを飛んでいたトムが、慌てた様にソフィアの元にやって来た。


「どうしたの?」

「対岸に、隠れ里の人が来てるんだよ!」

「えぇ⁈」


急いでトムの箒に乗せてもらい対岸へ渡ると、そこには村の代表だった男とエイデンがやって来ていた。トムとソフィアが箒で飛んでくるのを口をぽっかりと開けて凝視している。その目の前に箒はふわりと降りたった。


「あの、お久しぶりです。今日はどう…」


どうしたんですか?と尋ねようとしたソフィアの声を遮ったのは、呆然としたエイデンの声だった。


「…何で箒で飛んでんだ?」


意味が分からないとでも言いたげな2人の表情に、ソフィアは緊張感も抜けてがくりと肩を落とす事になった。



改めて話を聞くと、彼らはラピスラズリ島への移住を希望していた。


「あんたらを拒絶しといて何を都合のいい事言ってるんだと思われるかもしれない。しかしエイデンに言われたんだ。このまま神兵に怯えて隠れ住むんじゃなくて、子供達が伸び伸び過ごせる所に行こうってな。この力を、子供達に悪魔の力だなんて教えなくてもすむ未来にしたいんだって」


代表の男ーーマイクの言葉に、ソフィアはパッとエイデンに振り向いた。エイデンは真剣な顔でソフィアに向き合った。


「ソフィアさん、改めて、謝罪と感謝を。あんな対応して本当にすまなかった。そして妹を、エミリアを救ってくれてありがとう」


バッと頭を下げるエイデンに、ソフィアはフルフルと首を横に振ると微笑んだ。


「いいんです。同じ魔法使いの仲間じゃないですか」


それから、ソフィアは申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。


「それから、私も謝らなくちゃいけない事があるんです。始祖の魔女さまは、いなかったんです。もしかしたら、始祖の魔女様が現れるまで時間がかかるのかも…」


信じて貰えないかも知れなくとも、ソフィアはエイデンに託した手紙に始祖の魔女様の事も書いていたのだ。しかしエイデンは笑って首を振る。


「いや、俺たちはいるかも分からない人を期待して来た訳じゃないんだ。神兵に追われる恐れのない島で生活出来るだけでも有難いと思うし、その、良かったら、魔法の事も教えて欲しい。紙で伝えてくれた制御方法をやり始めてから、とても調子がいいんだ。

もちろん貰ってばかりのつもりはないぞ。力仕事は任せて欲しいし、色々とツテもあるから必要なものは何でも言ってくれ」


そこで、トムがズイと乗りだす。


「ふふん、それならまずアンタらも箒で飛べなきゃだな」

「ああ、島の行き来に必要なのは理解した。しかし…箒で、なのか…?」


困惑した表情を浮かべるエイデンに、トムも神妙な顔で重々しく頷く。


「ねえ、何でみんなそこに拘るの?そんなに変なの??」


ソフィアは情けない表情で二人のやりとりを見ていた。


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