別々の道程
カイルが王都へ立ってから、ソフィア達は真っ直ぐにラピスラズリ島を目指していた。
もう、ここから先に町はない。だから、こんなところまで神兵が来る事はないだろう。…そう、思い込もうとしていた。そうしなければ、カイルのいない不安に押しつぶされそうだったから。
カイルがいない今、何かあった時は私がみんなを守らなければ。カイルも、旅の間こんな風に気をはっていたのかと思うと、頼りきっていた自分が本当に情けなかった。
しかし、そんな時に限って嫌な予感はあたってしまう。最後の町で私たちの情報を聞き取ったのか、数人の神兵に見つかってしまった。
「見つけたぞ!魔の者どもだ!」
「みんな、走って!」
息を乱しながらもとにかく距離を空けようとがむしゃらに走る。焦った精神状態で土魔法を使おうとすると、自分達も巻き込んでしまう可能性があり距離が近い状態では迂闊に使うことが出来ない。
「きゃっ」
「ミリー!」
転んでしまったミリーに気づき、ソフィアは急いでミリーを庇う。しかしその隙に、神兵に目前まで迫られてしまった。
「ハハ、観念したか?あ?子供は殺さず捕まえるんだったか?まあ、数匹ゴミが死んだところでどうと言うことはあるまい」
神兵は笑いながら剣を振り下ろす。恐怖に引き攣るミリーの顔を見て、ソフィアは今やらなければと意を決した。
「地の精霊よ…!」
地面が陥没し、一瞬で視界から神兵達が消え去る。しかし、足元まで陥没した地面にミリーがバランスを崩して落ちかけてしまう。
「ミリー‼︎」
ギリギリで腕を捕まえて、必死の思いで引き上げる。心臓が壊れたのではないかというほどドクドクと暴れているが、ここで止まる訳にはいかない。
「みんな、走って!今のうちに逃げよう!」
ミリーの手を引いて、ソフィアは再び走り出した。
「はあ、はあ、はあ、」
日が沈むまでとにかく走り通した。下を向いて何とか息を整えようとすると、汗がポタポタと地面にシミを作り出した。やっと逃げ切ったことが分かり気が抜けたのだろう、ミリーがボロボロと泣き出した。
「うえ、こ、怖かったよー」
「うん、良く頑張ったね。ちゃんと走れて偉かったよ」
小さな体を抱きしめれば、ギュッとしがみついてきた。その小さな体は、追われる恐怖に震えていた。
「うう、いつまで追いかけられるんだろ…」
「大丈夫よ。ラピスラズリにつけば始祖の魔女様がいてくれる。きっと守ってくれるわ」
始祖の魔女様が表舞台に現れれば、こんな風に理不尽にこの子達が追われる事もなくなる。それに、カイルも堂々と王子様の側で活動出来る様になるはずだ。きっと、ラピスラズリ島に行けば何もかも上手くいくはず…!
「みんな、少しだけでも休憩して、早くラピスラズリ島を目指そう!私が見張っているから、今は心配せずに眠ってね」
「ソフィアさん、大丈夫ですか?カイルさんのように風魔法での警戒は出来ませんが、見張りくらいでしたらかわりますよ?」
「ありがとう、リリア。でも大丈夫よ!何かあった時は私の方が対応しやすいと思うし、今日は眠れそうにないから。その代わり、明日の朝ごはんはリリアにお願いしようかな」
「そう…ですか?では、朝ごはんはお任せ下さいね」
「うん、おやすみ」
みんなが横になり目を閉じたのを確認すると、ソフィアは無理矢理浮かべていた笑顔を消してギュッと胸元のラピスラズリを両手で握りしめた。
「私が、みんなを守らなくちゃ…」
不安を押し殺すように呟いた言葉は、暗い夜空に吸い込まれていった。
今日は夕方にもう1話投稿予定です!
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