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箒の使い方


「ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした!」


朝になり、目が覚めてから昨夜の顛末を聞いたリリアは、ガバッと頭を下げて謝罪してきた。


「もう大丈夫だから、顔を上げて?それにリリアは私と同い年でしょ?敬語もいらないよ?」

「いえ、私、敬語以外話したことがないのです。癖のようなものでしょうか」

「お貴族様に仕えてたからかな?」


トムの質問に、リリアはうーんと首を傾げる。


「そうですね、トム君たちくらいの歳には、もう側仕えとして働いていましたから…。あと、ローガン様はお貴族様ではなく、教皇様のご子息なので、ちょっと違うのですよ」

「え、じゃあその人、次の教皇なの?」

「いえ、ローガン様はご次男なので。次期教皇はご長男と言われています」

「へー、そうなんだ。でも、教会の人なのに魔法使いを助けてくれたんだな!」

「ええ!お優しい方なのです!」


再びラピスラズリ島を目指す一行は、リリアも加えて賑やかに森の中を進んでいた。




「あ、ソフィアお姉ちゃん、見て!花畑だよ」

「わあ、本当!綺麗ね」


声を上げたアリーの指さす方を見やれば、森の中にぽっかり空いた空間に広がる花畑がありソフィアは感嘆の声を上げた。ウズウズと瞳を輝かせるアリーとミリーに、ソフィアはクスっと笑みを浮かべる。


「カイル、少し休憩していこうか?」

「そうだな」

「やったー!」


リリアに花冠の作り方を教わりながら、楽しそうに花を摘むアリーとミリーに、トムも文句を言いつつ付き合っている。雲ひとつない青空の下、そよそよと風にそよぐ小さな花々の中に腰を下ろし、ソフィアは隣に座るカイルの横顔をそっと見つめた。


「ソフィアは、本当に俺の髪が好きだな」

「ふぇっ!あ、ごめんね!また見てた⁈」

「別に良いが」

「だ、だって、やっぱり赤髪は憧れだもの」


本当はカイルの顔を見ていた事を誤魔化せて、ソフィアはそっと息を吐いた。


「俺は、ソフィアの髪色も良いと思うけどな」

「ええ?何の変哲もないただのこげ茶色よ?」


不満げに髪先を弄っていると、風に靡いたソフィアの柔らかな髪のひと房をそっとカイルが手に掴んだ。


「いや…チョコレートみたいで、俺は好きだな」

「え、す、すき?チョコ?」


ブワッと顔を真っ赤にさせたソフィアが可愛くて、カイルは愛おしげに頬を緩めた。名残惜しげに髪を離すと、手元の花を摘んでそっとソフィアのチョコレート色の髪にさす。

深い青色の瞳が驚いた様に近くにある鳶色の瞳を見つめた。


「…カイル…?」


頬を染めるソフィアに手を伸ばそうとして、ハッとしたカイルは込み上げる想いを押し込める様に拳を握りしめた。そして何事もなかったかの様に花を指さす。


「赤、好きだろ?」

「え、あ、赤?花のこと?」


ソフィアは頬を染めたままアワアワと髪の花を確認しようとするが、カイルのさしてくれた花を取ってしまうのが勿体無くて、行き場のない手は膝に降ろされた。


「ソフィアお姉ちゃん、見てみてー!お花の冠出来たよー!」

「あ、うん!今行くね!」


アリー達に呼ばれたソフィアは、赤い顔を見られないようにカイルの隣から立ち上がる。しかし数歩歩いたところでくるりと振り返ると、髪の花に手を添えてカイルに恥ずかしげに笑顔を向けた。


「カイル、ありがとう!」


嬉しそうに頬を染めてはにかむソフィアの笑顔は、周りの花々が霞むほど綺麗だとカイルは思った。



ーーああ、馬鹿だな。


子供達の元へ走っていくソフィアの背中を見ながら、カイルは自分の行いに恥ずかしげに口を覆って下を向く。ソフィアの耳元で揺れる花は、カイルの髪色のように赤い花弁をしていた。

自分の色を、つい真っ先に選んでしまったことにカイルは頭を抱えた。



***



東の地に差し掛かった頃、六人で町に入ると目立ってしまう為、リリアに子供達を任せてカイルとソフィアは町に買い出しに向かった。食料品の購入ために商店街を歩いていたところ、とある雑貨屋で安売りされている商品を見てソフィアは瞳を輝かせた。


「カイル!あれ買っていこう!」

「…は?アレを?」


ソフィアに手を引かれるままついていくが、カイルは目線の先の商品に怪訝な表情を浮かべた。


 



「…空を飛ぶ練習?」

「そうよ、ラピスラズリ島は強い海流に囲まれているから、そこに行くには魔法で飛んで行くしかないの。春一番がないから習得は大変だと思うけれど、自分で飛べれば何かあった時にも逃げられるから、絶対に出来る様になった方が良いと思うの」


森に戻り合流した後、ソフィアは皆の前で提案した。笑顔で力説するソフィアだが、その手に握られている物に他の五人は怪訝な顔をする。それは、先程町でソフィアが買ってきたものだ。


「…で、何で箒があるの?」

「?飛ぶからよ?」

「?箒で、飛ぶの?」


疑問符を浮かべる五人に、ソフィアは驚いたように目を見開いた。


「え?だって、空を飛ぶと言ったら、箒でしょ??」

「え、何でわざわざ掃除道具で飛ぶのさ」

「だ、だって、カッコいいじゃない!箒で飛ぶの!」

「え〜、そうかなぁ?」

「ダサくない?」


アリーの言葉にショックを受けたソフィアは、涙目でリリアに迫る。


「り、リリアは、かっこ良いと思うよね?」

「えと、ソフィアさんがとっても箒が好きなんだなぁ、と思いました」

「答えになってない…。み、ミリー?」

「え…と…、ごめんなさい」

「こら、ミリーを困らせるな」

「カイル!カイルは、どう思う?カッコいいよね?」


涙目で目の前に迫られ、カイルはうっと息を飲んだ。


「俺は飛べれば良い。ほら、やり方を教えてくれ」


そう言って、カイルは顔を隠す様にクルリと後ろを向いて箒を手にもった。


「そんなぁー」


時代の違いに深くショックを受けて項垂れたソフィアは、顔を赤く染めたカイルの表情に気づくことはなかった。




その後ろではリリアと子供達がコソコソと言葉を交わしていた。


「トムくん、あのお二人は恋人同士ではないんですか??」

「あー、ね、そう思うよね」

「それがどうも違うみたいなのよ」

「まあ、あんなに仲がよろしいのに?」

「不思議だよなー。カイル兄ちゃんなんて、めちゃくちゃソフィア姉ちゃんのこと大事にしてるのにな」

「それを言ったらソフィアお姉ちゃんこそ、絶対カイルお兄ちゃんのこと好きだと思うわ」

「いろいろあるのですねー」

「あ、ソフィアお姉ちゃんが呼んでるよ!みんな行こう?」


そうして、青空の下この時代初の飛行教室は行われた。


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