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異端の子供達(1)

後半からカイル視点になります。

夏の暑さも落ち着いてきた頃、いくつ目かにたどり着いた町では、幸運な事に伝染病の感染は広がっておらず町にも活気が溢れていた。しかし、そこかしこに神兵の姿が見えることから、久しぶりに物資調達の為に一泊宿をとったら町を離れようということになった。今までの町で薬草を換金したり、カイルが獣を狩ってくれていたお陰で資金には余裕があった。


「なんだか広場の方が騒ついてるね」

「出し物でもあるのかもな。人が多い方が余所者は気付かれにくくてやり易い。今のうちに買い出しを済ませよう」


歩き出そうとするカイルにソフィアは待ったをかけた。


「あのね、カイルは剣を研いで貰いたいって言っていたでしょう?私、その間に食料品の買い出しに行ってこようと思うの」

「一人で大丈夫か?」

「うん!この時代にも慣れてきたつもりよ。心配しないで」


今までは大体カイルと行動していたため、ソフィアは一人でこの時代の人と関わることは少なかった。しかし、この時代に来てもう二つの季節が過ぎた。流石にそろそろこのぐらいの役には立てるようにならなければと、ソフィアはやる気をみなぎらせた。

やや心配そうながらも、ソフィアの様子を見てカイルは頷いた。


「カイルの好きなスープの調味料も買い足しておくからね!」

「!っそうか、楽しみにしてる」


少し恥ずかしげにそわそわとした様子を見せるカイルに、ソフィアは嬉しくなって笑顔を浮かべた。こちらの時代の調理法はまだ単純なものしかなく、ハーブなどの調味料も普及していなかった。料理なんかではお礼にならないけれど、ソフィアの料理を美味しそうに食べてくれるのが嬉しくて、ソフィアはいつも野営での調理を買って出ていた。カイルが狩ってきた獣の肉とソフィアが摘んだ果実やハーブ類を使った料理を食べながら、焚き火を囲んで二人で過ごす時間が大好きだった。




「あとは塩と胡椒も欲しいよね。でも、胡椒は少し高いかも…」


市場で買い物を済ませ、両手に荷物を抱えながらソフィアは残りの必要なものを考えていた。そして買い物に夢中になっていたせいで、広場の様子に気付くのが遅れてしまった。そうでなければ、きっと広場の不穏な空気に気付いただろう。


「おい、始まるってよ」


広場で人々の騒めきが響いてきてソフィアはそちらに目をうつした。


何をしているのだろう?


広場の中央には一段高く台座が組まれ、そこに薄汚れ髪も乱れた女性が引き立てられてきた。ソフィアは訳が分からず、荷物を抱えたままその場に足をとめた。


「今から魔の者の処刑を行う!」


「しょけ…い…」


その言葉を聞いた途端、ソフィアはまるで世界から音が消えてしまったかのような錯覚に襲われた。足元の地面がガラガラと崩壊していくような恐ろしさを感じて恐怖で体が動かなくなる。


あの女の人、魔の者って、言われてた…。私たちと同じ、魔女、なん、だ…


「ソフィア、見るな!」


ソフィアを探していたのだろう、息をきらし駆け寄ったカイルが咄嗟にソフィアの目を塞ごうとするも、ソフィアはその現場を見てしまった。


ザシュッと、刃が風を切る音、そしてナニか硬いものとぶつかる音、ゴロリとナニかが転がる音、そして視界を染める赤…


「…ぇ…、」


あまりの衝撃に口元を抑え足の力が抜けてしまったソフィアを抱え、カイルは周りに悟られぬよう急いでその場を離れた。


「あいつら魔の者のせいで伝染病が広まったんだろ?当然の結果だ」

「本当、怖いわ。早くみんな捕まれば良いのに」


追い討ちをかける様な周りの反応が、毒の様にソフィアを蝕む。ソフィアは外の世界を拒絶する様に耳を塞ぎ俯いた。

カイルは人目がなくなった途端にソフィアを横抱きに抱き上げると、とっていた宿の部屋へ急いで入りベットの上へソフィアを降ろす。


「ソフィア…」

「カ…イル…」


カイルの声に、呆然と青い顔あげたソフィアは、次いでギュッとカイルの服の袖を縋るように握りしめるとボロボロと涙を流し始めた。カイルは一瞬迷った腕を、そっとソフィアの震える肩に置いて抱きしめた。


***


くそッ、俺がもっと早くにソフィアの元に戻れればあんな光景を見せずに済んだのに。


カイルは自分の不甲斐なさに奥歯を噛んだ。広場の騒ぎに気付いた時、カイルはすぐにソフィアの元に戻ろうとしたが人の波の多さになかなか見つけ出す事が出来なかったのだ。


「魔力があるから…それだけで、あんな風に殺されてしまうの?何で、あんな事できるの…?私達、おんなじ、人間なのに…!」


何かが擦り切れてしまう様なソフィアの声が、絶え間なく流れる涙と共に零れ落ちる。


「私、ラピスラズリを継いだのに…なんにも、出来なかった…見ていただけだった…。助けられなかった…。ごめんなさい…ごめんなさい…」


今にも消えそうな震える声で懺悔するソフィアを、カイルは繋ぎ止めるように抱きしめることしか出来なかった。

この時代で俺たち以外の異端の力を持った者に会うのは、ソフィアは先ほどの女性が初めてだった。その仲間を目の前で殺されて、ソフィアにはとてつもない衝撃だっただろう。身を削る様に涙を流すソフィアを胸に抱きながら、この時カイルの中に湧き上がったのは怒りだった。

何故、ソフィアがこんな風に泣かなければいけないなのだろう。人々から魔の者へ向けられる恐怖や怒りの感情に怯えながらも、必死に人を助けようとする彼女が、何故いつも理不尽に傷つけられなければいけないのだろう。今まで治療を行って来た町でも、ソフィアは何度も心ない言葉を浴びせられてきた。それでも、ソフィアは自分の決めた事だからと笑顔を絶やさず治療を行った。自分はラピスラズリを継いだ魔女だから、と。

ソフィアに出会うまでは、カイル自身も魔の者が迫害されるのは当たり前だと思っていたが、人の為に必死で努力するソフィアを何も知らずに責める行為を、カイルは許容出来なくなっていた。そしてこの時代の現状に、強い憤りを感じていた。


ソフィアが泣き疲れ眠りにつくと、カイルはソフィアを優しくベットに横たえ布団をかける。涙の跡が痛々しく残る頬をそっと撫でながら、カイルはポツリとつぶやいた。


「これ以上、傷つかないでくれ」


ただでさえ、たった一人で全く知らない時代に飛ばされて不安の中にいるくせに、ソフィアは他人の事まで抱え込んでは自分を責める。

ソフィアに魔女長を継がせた、彼女が何よりも大切にする彼女の祖母を恨んでしまいそうになる。この時代では、魔法使いを守り導く立場なんて、優しいソフィアには酷すぎる。ソフィアは、きっとこれからも助けられなかった人達を思い泣くのだろう…。カイルはやり切れない思いに拳を握りしめた。


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