第1依頼 依頼主side; 調査依頼
扉を開けると、
そこは━━━
一言で言い表すなら、
シンプルだけど豪華な応接間だった。
壁は白で統一されていて、必要最低限の家具しか置かれていないシンプルさ。
しかし、置かれている家具類は豪華そうだった…。
俺が階段を降りて入ってきたドアが、ちょうどこの部屋の中心部分にあたるようだ。
左側は書庫のようで、厚さがさまざまなよく分からない本がたくさん並んでいた。
右側が応接間になっていた。
真ん中辺りに茶色の長テーブル。
そのテーブルを挟むように、金色で縁取られた赤くて長いソファーが2つ置かれていた。
ド派手な赤とは違い、少し暗めの落ち着きのある赤色のようだ。
アニメとかにでてくる貴族がよく座っているような感じだと言えば分かりやすいか?
そして、どちらのソファーも人が2~3人座れるくらいの長さがあり、そのソファーとセットで置いてあるクッションは、見ているだけでふかふか感が伝わってくる。
これは、絶対に座り心地がいいに決まっている。
むしろ、悪いはずがない!
そして、奥のソファーに腰かける1人の女性。
この人が、仕切っているのだろうか?
どこかのお嬢様なんじゃないだろうかというくらい気品に満ち溢れていた。
俺の存在に気づいたのか、伏し目がちだった瞳が、ゆっくり開かれるとまっすぐに俺を見てきた。
胸ぐらいまである銀髪、そして、紫色の瞳。
その瞳は、まるで、すべてを見透かされているかのような錯覚に陥りそうになった。
白いブラウスに黒いシフォン素材のロングスカートが彼女の上品さをさらに醸し出していた。
いくつくらいなんだろう?
雰囲気的には、かなり上な気もするが20代くらいか?
見たまんま、お嬢様っぽいし、名前も分かんないし、とりあえず、おじょーさまと呼ばせてもらおう!
「ようこそ」
おじょーさまが立ち上がり、微笑みながら俺に声をかけてきた。
「どうも」
お辞儀をして返した。
あっ……
この声…さっきの電話の人の声だ…。
と、1人納得していた。
顔をあげると、
おじょーさまと目が合った。
「……っ」
思わず息を飲んだ。
妖艶な瞳。
緊張が走り、体が強張る。
そんな俺に気づいたのか、優しくニコリと微笑んだおじょーさま。
一瞬で、緊張がほどける。
俺って…
案外単純だな…
おじょーさまは、右手をスッと動かして、
対面にあるソファーへどうぞと促した。
おじょーさまの動作を見た俺は、
「失礼します」と言って軽く会釈をしてからソファーへと腰かけた。
ソファーは、想像していた通りやっぱり座り心地はサイコーだった。
が、
笑顔が引きつっているのが、自分でも分かる。
ヤベぇ~
さっきとは違う緊張感が増してきた…
てか、
俺…場違いじゃね!
こんな素敵な部屋に、豪華な家具、そして、そして、ちょーぜつキレイで美人なおじょーさま。
俺、場違いじゃねっ!
大切なことなのであえて2回言わせてもらったが……
俺の今の服装…ヤバい!
髪もヒゲもぼーぼーの伸ばし放題、服だって着られればなんでもいい派だから、白無地Tシャツにくたびれたヨレヨレのジーパンだぜっ!
ヒャーハッハッハー!!!!
……
……
はぁ~
冷静になったぜ……
縮こまっていたら、おじょーさまが口を開いた。
「今回の依頼内容ですが……調査ということですが、具体的にお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「あっ、はいっ!実は━━」
コンコン━━━
俺が話そうとしたいいタイミングで、ノック音が聞こえた。
そういえば、降りてきた階段の延長線に大きな両開きの扉があった。
今は、俺が座っている位置の左側にはっきりと見える。
存在感を放つ豪華な扉が!
「はい、どうぞ」
おじょーさまが答えた。
扉が開き、
1人の男性が、失礼しますと軽いお辞儀をして部屋に入ってきた。
執事かなんかだろうか?
燕尾服がよく似合う。
前髪をかきあげていて、ワックスか何かをつけているのかピシッと決まっていた。
ずいぶんと若そうな感じだな?
20代後半くらいか?
まさか!
俺とあんまり変わらないとか?
しかも、黒髪、黒目に短髪、高身長ときたっ!
ヤベー
男の俺でも惚れそうなくらい見事に整った顔立ちだし、動き1つ1つにムダがない。
惚れ惚れするわ…
まんま執事という感じだ。
うん。
彼は…
そうだな…
う~ん…
うん!よし決めたっ!
執事くんと呼ぼう!
執事くんは、おじょーさまにコショコショと耳打ちして、それを聞いたおじょーさまが頷くと、扉のところまで戻り、入り口でお辞儀をするとワゴンを押しながら入ってきた!
?!
ワゴンだと!
初めて見たぞっ!
そして、カチャカチャと音をたてながら、
あれよあれよというまに、
俺の目の前には、コーヒーとクッキーが置かれた。
「緊張していらっしゃるように見えましたので、用意させました」
「あっ…すいません…。ありがとうございます。では、いただきます」
ペコッと頭を下げながら答えた。
いつのまに用意させたんだ!
いや~、頭あがらないッスわ!
執事くん、さすがだわ!
出来る男は、やっぱ違うね!
……何がさすがなのか、自分で言っててわからんが!
ていうか……冷静に考えたら俺がここに降りてくるのがわかっているんだから当たり前か…
はぁ~~
ちなみに、執事くんはお茶の準備が整うと一礼しておじょーさまが座っているソファーの一歩後ろに立ち、両手を後ろに回して、目を瞑りながら空気状態になっていた。
カンペキだっ!
「いただきます」
コーヒーを一口啜った。
!?
あまりのウマさに驚き目を見開いて固まってしまった。
一体、何なんだ!
ここに来てから、驚かされ過ぎているぞっ!
こんなに、ウマいコーヒーは飲んだことがないっ!
さては、これはさぞかしお高いコーヒーなのでは!
落ち着け…
落ち着け、俺っ!
「とても、おいしいコーヒーですね。こんなにおいしいコーヒーは初めて飲みました」
冷静を装って、言った。
言えたっ!
「フフフ…」
口元を左手で隠しながら笑うおじょーさま。
笑い方まで上品だ。
「客人の前ですよ?」
チラリと片目を開けて、おじょーさまにピシャリと軽く説教をする執事くん。
「申し訳ありません…あまりにも、分かりやすい反応でしたので…つい…」
あり?
俺…そんなに態度に思いっきり出てたのか…
ちぇっ
自分では、上手く隠せたと思ったんだけどなー
ううー
急に恥ずかしくなってきたぜ…
右手の人差し指と、左手の人差し指を合わせてチョンチョンしながら下を向いた。
恥ずかしさのあまり、おじょーさまの方を見ていられなくなった…
「お客様、そちらのコーヒーは、市販品のものでございます」
執事くんが、右手を胸に当てながら説明してくれた。
うおぉい!
マジかよっ!
思いっきり驚いた顔で、執事くんを見てしまった。
そんな俺を見て、フッと執事くんが笑った。
が、
すぐに、咳払いをし、
「ヤミー様っ」
と言ってきた。
それを聞いた、おじょーさ…じゃなかった、ヤミー様って…闇よろずだからか?
ちょいと、単純すぎやしないか?
まあ、いいや…
ヤミーさんが、執事くんの方を見てコクンと静かに頷いた。
「コホンっ!大変失礼いたしました…」
ヤミーさんがそう言うと、2人揃って、目を閉じ、軽くお辞儀をしてくれた。
そんな2人の所作があまりにもキレイ過ぎて、見とれながらも釣られて俺もお辞儀をした。
スッーとヤミーさんが目を開けて、
「改めまして、あなた様が、ここへ来た理由をお聞かせ願えますか?」
あっ、
そういえば…
すっかり、忘れてた…。
「話したくないことは、話さなくて構いません。こちらも無理には聞きません。ですので、ご安心下さいませ。もちろん、あなた様のことを口外するつもりも一切ございません。守秘義務は守ります。名前なども本名を名乗る必要はございません」
「分かりました。あなた方を信頼します。ただ…お、私は、説明をするのが苦手なので必要以上に長くなったり、同じことを何度も言ってしまったり、分かりにくいところなどが話している途中に出てくると思いますので、その時は、すみませんがご指摘ください…」
そう言い終わると、2人は驚き、目を見開いていた。
えっ…
俺、なんか変なこと言ったか?
もしかして、言葉使い変…だったか?
俺は、2人を交互に見てオロオロしていた。
そんな俺を見て、ヤミーさんがハッとなり慌てて口を開いた。
「申し訳ありませんっ!そのように正直にお話された方は初めてでして、驚いてしまいました。あなた様は、見知らぬ方にもお優しくできる良い方なのですね。ですが、どうかお気になさらずに、自分の言葉で思うがままにお話くださいませ」
優しく微笑むヤミーさん。
「あっ、ありがとうございます」
そんなことを言われたのは、初めてだった。
この人達なら、大丈夫だ!
信頼できる!
と、そう思えた。
根拠はないが、俺の中の何かがそう告げていた。
「初めまして、俺は、堂島 謙伍と申します。よろしくお願いします」
俺は、本名を名乗り事の顛末をゆっくりと、話し始めた。




