第1依頼 依頼主side; 頼みの綱
「はい!ご用件は?」
「━━っ!?」
出たっ……!!
出てくれた…
高すぎず、低すぎない心地よい女の人の声色が受話器から聞こえてきた。
心のどこかでは、所詮噂は噂だと、誰かが流したイタズラなんじゃないか、と疑っていた…
だが、実際に来てみて噂はホントだったということがわかった…
よかった…
信じてここまで来て、ホントによかった…。
「━━っ…」
俺は上を向いて目頭を押さえ、泣きそうになるのを必死にこらえた。
まだだっ!
泣くのは、まだ早い。
全てが終わったら泣こうと、あの日にそう自分で決めたじゃないか。
「ご用件は?」
俺が、いつまでたっても答えなかったからか再び問いかけられた。
「闇よろずと呼ばれている者に、調査依頼を頼みたい!」
俺は正直に真面目なトーンで話した。
「……」
「……」
しばらく無言が続いた。
この沈黙は、何を意味するのだろうか…
俺の心臓がバクバクと鳴り始める。
まさか…
ダメだったのか?
やっぱり、デマだったのか?
イヤな予感が頭をよぎる…
どのくらいたったのか、
数秒なのか、はたまた数分なのか、ものすごく長く感じた…
自分の心臓の音が周りに聞こえるんじゃないか?というくらい、辺りは静かだった…。
手にじわりと汗が滲んできて、呼吸することすら忘れそうになるくらい緊迫した空気が漂い始めた。緊張のせいか喉がやけに渇く。
「分かりました」
突然、受話器から声が聞こえた。
ハッとなり、受話器を握り締めた。
今、分かりましたって言ったよな?
聞き間違いじゃないよな?
「今、開けますので、下でお待ち致しております」
俺が口を開こうとしたとたん、淡々とした口調で告げられた。
そして、ガチャンと電話を切られた。
はぁ?
イヤ、ちょっと待ってくれ、
今、なんつった?
ツッコミどころが多すぎて、頭がついていかないぞ?
開けるだって?
いやいや、どこを?
下?
下ってどこだよっ!
意味わかんねー
ふざけてんのか?
ゴゴゴゴゴ━━━
あぁ?
今度は、一体何なんだよっ!
何かが動く音がした。
俺は、音の出どころを探した。
えっ━━
驚きのあまり目を見開いた。
俺の視界に飛び込んできたもの…
それは、
ヒミツの入り口が開く瞬間だった!
何この男心を刺激する冒険みたいな仕掛けはっ!
リビングに入って、すぐ右側に大きな本棚があった。
デカい本棚だな~ぐらいにしか思っていなかった、その本棚が!
本棚がっ!
本棚の側面の板がっ!
音をたてながら…
下がっているではないかっ!
下がり終わると、
そこに現れたのは、地下へと通じる隠し階段だった!
もう、驚きすぎて、言葉もでないや…
乾いた笑いしか出てこない…
降りて来いというように、階段の下にある扉のところのランプが灯った。
コンクリートの壁に手をつきながら、ゆっくりと慎重に階段を降りて行った。
ススス━━
静かに板が動き、入り口が閉まった。
あっ…
今度は、音しないのね…
ちょっと残念に思いながらも俺は階段を降り続けた。
扉の前に着くと、
深い深呼吸を1回だけした。
そして、右手をドアノブにかけて、
勢いよく扉を押し開けた━━━




