表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇よろず  作者: 星原 詩乃
2/8

第1依頼 依頼主side; 噂

ザッ━━━ザッ━━━


俺は、今、激しく後悔に(さいな)まれている…

俺の目の前には、青い屋根に白い壁のオシャレ()()()であろう建物がある。


過去形なのは、

建物の状態が最悪だからだ!


屋根の瓦はところどころ剥がれ、地面に落ちて割れていた。


壁には、ツタがこれでもかっていうほどまとわりついて絡まっている。


絡まっているツタの間からかろうじて見える白かったであろう壁は、もはやグレーだ。

あちこちに黒い(すじ)まで見えている。


建物の裏は山だった。


そして、建物の周りを囲むように、高い木がおおい茂っていた。

周りからの目隠しの意味もあるのだろうが、そのせいで、不気味さが余計に増していた。


誰が見ても、明らかに廃墟だと分かる建物だ。


昼間ちょっと下見しに来たときでさえ、不気味に感じたのに…


今は深夜だからか、ものすごく不気味さが増していた。

用事がなければ、絶対に近寄りたくないところだ。


自分でも、どうしてこんな廃墟(ところ)に足が動いてしまったのか…


頭をブンブンと左右に振った。


いや、違う、

俺には…

俺にはもう…ここしか残っていないんだ…


行くしかない!


こんなことしかしてやれない…

お前をあんな目に合わせたヤツを絶対に、兄ちゃんが見つけてやるからな。


ホント、ダメな兄ちゃんでごめんな…


いつも、助けてもらってたんだな…


いつも、支えてくれてたんだな…


なんにも知らなくてごめん…


なんにも気づいてやれなくてごめん…


失ってから、大切なことに気づくなんてな…


涙がじわりと視界を(ゆが)ませた。


「くっ…」


俺は、涙を右手で(ぬぐ)いとった。

頬を両手でペチペチと叩いて、「うしっ」と気合いをいれると、建物へと向かって一歩また一歩と歩きだした。


何十m歩いたのか、門をくぐってから家までの距離が長い…


庭や駐車場とかもなんにもない、ただの一本道…


だからか、足を前に出すたびに、足元から恐怖が這い上がってきて、まとわりついてくるような錯覚にとらわれる。


体が小刻みに震えだす。


もう何回生唾を飲み込んだのか覚えていない……。



右肩からかけていた、ショルダーバッグの紐を胸の前で握り締めて、息を整える。


大丈夫だ!

落ち着け!


何度も何度も、心の中で自分に言い聞かせる。


いつまでも、立ち止まってはいられない。


意を決して足を動かす。


一歩一歩、不気味な建物へと近づいていく。



恐怖に負けそうになるたびに、立ち止まっては、呼吸を整えて歩くを何回も繰り返した。


ようやく玄関の前まで来ると…


俺は再び、生唾をゴクンと音を鳴らして飲み込んだ。

そして、ゆっくり、ゆっくりと右手を取っ手へと伸ばした。


カチャリ━━━


鍵はかかっていないらしく、

なんの抵抗もなく()いた。


ギィィィィ━━━


というイヤな音を響かせながら…

覚悟を決めて俺は家の中に入った。


当然だが、家の中は真っ暗だった。


まあ、月明かりでなんとなくだが、物の配置が分かるからマシっちゃマシだが…


さすがに、昼間来たときは中に入るのを躊躇(ちゅうちょ)した。


えーと、

噂では、確か、リビングまで行ってー、

そしたら、棚に置いてある電話から例の番号にかけるんだったよな…


「よしっ」


ここまで来たんだ、今さら引き下がるわけには行かない。


携帯のライトをつけて、懐中電灯の代わりにした。


まず、最初の目的地であるリビングまではすぐにたどり着いた。


なんせ、家の構造が簡単だったおかげだ。


玄関を入って、2mほど歩いたところにある右側の扉だった。


まあ、つまり、ようするに、その…アレだ……


入ってすぐの右側の扉だったというわけだ。


他にも扉がいくつかあったが、閉まっていた。

だが、リビングの扉だけは客を招き入れるためだろう…

全開で()いていた。


ドアのところに立ち、中を見回す……

までもなく、

すぐに見つけることが出来た。


真正面の棚の上に白っぽい電話が置かれていた。


部屋の中に足を踏み入れる。


中は、割れたガラスやら紙やらが散らばっていた。


ここでたむろしている(やから)もいるのだろう…


他にも、空きカンやペットボトル、お菓子のゴミなどいろんな物が散乱していた。


うへぇ~



あまりキョロキョロせずに、まっすぐ第2の目的地である電話が置いてある棚へと足を運んだ。


ここに、こんなところに長居したくなかった。


さっさと用事を済ませることだけを考えた。


電話の前で立ち止まる。


さっきから、心臓の音がうるさい…


いよいよだ…


足が震えだす…


受話器をとり、

噂の番号を押した。


ホントに繋がるのか?

イタズラなんじゃないか?


引き返すなら今だぞ?


そんな、聞こえるはずのない声が頭をよぎる。



そんなことを考えている間に短い番号を押し終わった。


俺は、再び生唾を飲み込んだ。


頼む!

繋がってくれ!

もう、俺にはここしかないんだっ!


頼むっ!


(わら)にもすがる思いで、電話がかかるのを待った。

その(あいだ)は、わずか数秒のはずなのに、ものすごく長く感じた。



トゥルルルル━━


トゥルルルル━━



受話器からコール音が聞こえた。


俺は、思わずホッとため息をついた。


よかった…

デマなんかじゃなかった…


とりあえず繋がった…。


イヤ!

安心するのは、まだ早いっ!


はたして吉とでるか、凶とでるか…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ