女子会した
こういう部屋ってあと何室あるのかな。
窓の外を眺めながら黄昏る。ちなみに窓は人が通れないほど小さい。前回のことを反省してここに移動になったらしい。ひどい。
ため息を吐く私を気遣うこともなく、マリアはカップに紅茶を注ぐ。
「いくつかあるようですよ。大昔は王族に逆らう貴族やらなんやらが大勢いたので用意したらしいです。現在は使用していないそうですが」
「……いわくつきってことじゃないのそれ」
「一応部屋で誰かが死ぬことはなかったらしいですよ」
「それ部屋以外ではお亡くなりになってるんじゃ……」
いけないいけないそれを考えてはいけない! 考えたらこの王城が幽霊ハウスになってしまう!
「何それ楽しそう」
他人事のように笑ってブリっ子は焼き菓子を口に入れる。それ私のなんだけど。
「幽霊見たら教えてよ」
「あんたが王子と結婚したらいつでも検証できるわよ」
「そういうのはなしで」
きっぱり断ってくるブリっ子。
「妃教育も途中で断念する私には無理だわ。妃になんてなったら外交問題になる」
「その内身に着くから大丈夫。十年ぐらいあれば完璧だから」
「十年も経ったら適齢期過ぎまくってるんだけど」
ずずっと紅茶をすするブリっ子。音を立てるな。
咎める私の視線に気づいたブリっ子は、紅茶から口を離した。
「ほら、基本所作だけでこれだもの。一応気を付けてるけど、あんたほど無音で飲み物飲めないもの」
「十年あれば大丈夫だって!」
「十年もかけたくないわよ!」
ブリっ子はそう言うともう一つの焼き菓子に手を出す。もういい、好きに食べて好きに肥えるがいい。
「ああ、あとちゃんと私が受けた妃教育について、しゃべってあげてるからね」
「ん?」
何のことだと思い、顔を見つめると、ブリっ子はにやにやと笑う。
「社交界でね、妃教育がどんなのか、どれだけ厳しいか、きっちりと話してきてるのよ」
「何で?」
「あんたの評判上げるために決まってるじゃないの」
「はあ?」
意味がわからなくて疑問の声を出す。ブリっ子は胸を張る。
「王子に存分に話していいって、むしろ話せってお願いされたのよ。元々私に妃教育させたのこれが狙いだったんでしょうね。おかげであんた、厳しい妃教育に負けずに十年耐え忍んだ健気な令嬢になってるわよ。よかったわね!」
「良くないんだけど!?」
何余計なことしてくれてるの!?
「これであんたを妃にするのに反対する人はほぼいなくなるはずよ。まああんた真面目にやってたからほとんど反対する人いないみたいだけどね。身分も問題ないし。市井ではきっと麗しい貴族令嬢と王子の恋物語として流行るわね!」
「やめて!」
「やめても何も、もう話は広まってるもの」
によによによ。
ずっと笑っているブリっ子に殺意がわいてくる。何をしてくれるんだ、私は結婚する気ないんだったら!
「あんたもいい加減あきらめたらいいじゃない」
「いやよ!」
「子供じゃないんだから駄々捏ねるのやめなさいよ」
「そんなじゃないわよ」
むっとして言い返す。
「私には自由な時間が、七歳から一切なかったのよ。昔の楽しい暮らしを覚えてる分、それに強くあこがれてしまうの。しょうがないでしょう」
十年間、自由を思い描いていたのだ。そうそうあきらめられるほど単純じゃない。
楽しかった遊びは全て禁止され、友達と遊ぶ時間もなくなった。毎日毎日王城に行き指導され、間違えば叱られ、それで泣いても叱られる。希望はいつかまた自由になってやるということだけだったのだ。
「結婚したら完全な自由は得られないでしょ」
むすっとした私の顔を見ながら、ブリっ子は焼き菓子を一つ取る。
「あんた」
焼き菓子を口に運ぶ。
「大分、拗らせてるのね」
「言わないで!」