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やっぱり逃げよう

良い子のみんなはマネしないでね。



 やっと解放された。

 ソファにぐったりと横たわりながら外を見るとすっかり日が暮れている。

 クラーク様はあの後延々と、ええそれはもう延々と私のどこが好きかどこが魅力的か存分に語ってくれ、夕食時までに終わらなかったからそのままここで夕食を召し上がり、召し上がった後は今度は口説くように目が綺麗だ耳が綺麗だだの心臓に大層悪いことをささやきその内満足したようで帰って行った。

 なんなんだ。本当に私に惚れていたのか。

 私が逃げ出すまでそんなそぶりなかったじゃないかと思ったが、実はきちんと以前から口説いていたらしい。

 全然記憶にないけど、王妃教育の合間に毎日必ずあったクラーク様とのお茶の時間に口説いてたらしい。興味なかったから話一切聞いてなかった。適当に相槌だけ打ってた。

 そう言ったら悲しそうな顔をしていたけど、あの頃は早く昔みたいな暮らしができるにはどうしたらいいかしか考えてなくて、そのためにはどう婚約なくすかってことしか頭になかったのだから仕方ないと思う。


「ね、仕方ないわよね。そう思うでしょ」

「いえ、普通に王子がかわいそうだと思います」


 マリアに同意を求めたら即座に否定された。

 ちなみにマリアは夕食の配膳の時に戻ってきた。お仕事だから抜けちゃいけないんだって。侍女って大変だね。


「十年間毎日口説かれてスルーってすごいことですけど」

「だってあー何かしゃべってるなーと思って内容何も頭に入れてなかったから」

「本当に王子に興味なかったんですね」

「あの頃から興味あるのは自由だけよ」

「いっそ潔いですね」

「ありがとう」


 お礼を言うと微妙な顔をされた。わかってる、褒めてないんでしょわかってる!


「奥様のお兄様から何か王子について言われていなかったんですか?」

「いや、王子は今日もお前のこと大好きだって言ってるって言われてたけど、どうせ結婚させたくて言ってるんだろうと思ってたからそれも聞き流してた」

「…………」


 マリア、無言でこっち見るのやめてほしい。


「私、ちょっと奥様のことかわいそうだな、と思ってたんですけど、今は自業自得かなと思ってます」

「何で? 私かわいそうでしょ? 哀れでしょ? ちゃんと同情して」

「いえ、自業自得です」

「そりゃちょっと悪かったけど、でも監禁はもっと悪いでしょ!」

「話を聞いた限りでは今は何とも言えません」

「だってほら、普通監禁の前に色々あるでしょ! 愛をささやいたり、愛情を伝えたりとか色々……色々……」


 あ、って顔したらマリアが指摘してくる。


「ささやいてましたよね、王子」

「……ささやかれてたわね」

「愛情思いっきり伝えてましたよね」

「…………そうみたいね」

「で、どうにもならないし、逃げるから逃げられないようにしてみたと」

「………………そうね」


 思わず頷いてしまったが違う違う!


「いやそこで監禁なのがおかしいの! 確かに王子どうでもよくて婚約破棄しか頭になくて会話もままならなくて、あれだけど、ほら、きっと他に手はあったでしょ!」


 きっとこの状況以外の何か手があったはずだ。何か私の関心を向けられる何か……ある……はず、だよね……?

 同意が欲しくてマリアを見上げるも、マリアは首を横に振る。


「色々な手はきっと尽くしたのではないでしょうか」

「そんなこと、きっと、ない……わよね?」

「いえ私は知りません」


 冷たい。


「さっきまであんなに優しかったのに、どうしてこんなに私に厳しくなったの?」

「いえ、だって、私十七で恋に恋するお年頃なんです。だからクラーク様の恋を応援したくなったんです」

「え、いや何で?」

「哀れ過ぎて」

「私も十分哀れだよね?」

「私からするとあんまり」

「ひどい!」


 しくしく泣き真似してちらりとマリアを見るも、無言で見つめられた。泣き真似バレてた。私は泣き真似をやめて顔を上げる。


「じゃあもう私が悪いんでもいいから、その奥様やめない?」

「奥様は奥様です」

「まだ結婚してない」

「結婚したら王太子妃様とお呼びすることになるので、それまでは奥様ということに決めたんです」

「誰が?」

「王子が」

「ほらやっぱりクラーク様じゃない!」


 バンっとテーブルを叩く。

 マリアはそんな私を気にするでもなく、壁にかかっている時計を確認すると、私に礼をする。


「では奥様、私はそろそろ下がります。ゆっくりお休み下さい」

「奥様じゃない」

「お休みなさいませ」

「お休みなさい……」


 奥様を訂正してくれず、そのまま部屋を出て言ってしまった。

 何でみんなクラーク様の味方なの? 私味方ゼロでずるくない?

 ふう、とため息を吐きながら窓を見る。暗闇の中きらめく星々とその中でも一層きらめく月が見えた。


「満月かあ」


 そう呟いて視線を室内に戻す。

 あれ?

 きょろきょろ周りを見回す。


「私、今一人きり……」


 室内に見張りがいない。


「逃げれるじゃない!」


 そう言うと私はすぐに行動を起こす。まず窓のそばに誰もいないのを確認。部屋にあった分厚い本を確保。寝間着にそれを包んで、ぶんぶん振り回す。

 うん、いける!

 私はそれを窓に振り下ろした。

 ガシャーンと音がして窓が割れる。急いでそこから身を乗り出す。早くしないと兵士が来てしまう!

 ひらひらした部屋着なので走りにくいのは仕方ない。それでも全力で走って出口を目指す。


「ふふふ、自由だわー!」


 叫んだらお腹の辺りに腕が回り、後ろから抱きしめられた。腕がお腹にめり込んで戻しそうになる。

 おえ、とする口を押えながら、この感じ覚えがあるなと、おそるおそる振り返る。


「レティ」


 予想通りの人物で、ですよね、と思いながら顔を引きつらせる。

 暗闇の美形の笑顔ってやっぱり怖いな、としみじみ思ってしまった。

 クラーク様は私の耳元に口を寄せる。


「首飾りはダイヤと真珠どっちがいい?」


 それ今する話じゃないと思う。



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