番外編:ルイ王子観察記録
「ルイ王子ってさあ」
私は紅茶を1口飲んでから言った。
「マリアにどんなアタックしてると思う?」
ブリっ子がパンケーキにフォークを突き刺しながら言った。
「興味がない」
蜂蜜がたっぷりかかったパンケーキをフォークに刺したままブリっ子が話した。
「私が興味あるのはお金持ちの結婚適齢期の男性であってガキンチョはどうでもいい」
「金持ちなら誰でもいいわけじゃないんだ」
「あったり前じゃないの! 親が泣く相手は選ばないわよ」
ブリっ子がもふもふパンケーキを頬張った。リスみたいに頬を膨らませている姿はちょっと可愛い。
「極端に年齢が上すぎる、もしくは下すぎる相手。女遊びが激しい相手。束縛する相手。モラハラ野郎。DV男。借金男。は却下」
「確かに絶対やめてほしい」
「でしょ?」
ブリっ子が再びパンケーキにナイフを入れる。
「私が狙うは、お金持ちで、結婚適齢期で、女遊びしない、肉体的経済的精神的DVもしない男よ!」
私は「おおー」と言ってブリっ子に拍手した。
「で、あんたのお兄さんとか紹介してほしいんだけど」
「あれは確かにブリっ子の相手に当てはまるけどオススメしない」
私は首を横に振った。
「性格が悪い」
「目を瞑る」
そこはいいんだ……
「お金があればそれぐらいなんてことないわよ! お金があれば!」
身も蓋もないこと言ってる。
「で、話を戻すんだけど、ルイ王子なんだけど」
「話逸らしたでしょ」
まさかまさか。元々この話する予定だったの!
「今日マリアには私の給仕以外の仕事をしてもらってます。ということは」
私はお茶をスッと静かに飲み干した。
「ルイ王子が絶対マリアにアタックしてる」
私は立ち上がった。
「というわけで覗きに行きます!」
「私あんたのそういう俗なところ嫌いじゃないわよ」
ブリっ子は気付けばパンケーキを全て平らげていた。
◇◇◇
「あ、いた!」
ちょっとマリアを探すのに手間取ったが、ちゃんと見つけた。
そして予想通りルイ王子もいた。
ルイ王子はせっせと洗濯物を干すマリアを微妙な距離感で見守り、干し終わったマリアの後をついて行く。そしてマリアが掃除を始めると、そっと建物の影から見守っていた。
そして、それを私たちは見守っていた。
「なんかあれ……」
「うん……」
「「ストーカーよね」」
私とブリっ子は神妙な面持ちになった。
「付かず離れずついて行ってるところがまたなんというか」
「あわよくば声をかけてくれないかなという期待が透けて見えるところがさらに見苦しいわね」
私たちがこうして話してある間にもルイ王子はマリアの後ろをついて回っているし、マリアは涼しい顔でそれをスルーしている。
「ちょっと可哀想になってきちゃった」
「私のことも可哀想だと思ってくれていいですよ」
「わああああライル!? いたの!?」
「いました」
ライルがウンザリした表情でルイ王子を見る。
「私はルイ王子の従者なんですよ。つまりあれに付き合うわけです」
私はルイ王子を見た。マリアが動くと同時に自分も動き、止まると同時に自分も止まる。
「あれに……」
「あれに」
私とブリっ子はライルを見た。
「……パンケーキ食べる? 余ってるんだけど」
「いただきます」
ブリっ子の非常食用に持ってきていたパンケーキをライルにあげる。
「これ、新商品の濡れると色が変わるハンカチあげる」
「用途がわからないけどもらっておきます」
ブリっ子も自分の販売道具をあげていた。ケチなブリっ子が優しい……
従者って大変なんだなぁ……
私はストーカーに勤しむルイ王子を見ながら、リリーがいたら「あなたも大概ですよ」と言われるだろうことを思っていた。
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