コミックス4巻発売記念:実家に行く
『妃教育から逃げたい私』
コミックス4巻本日発売されました!
詳細は活動報告をご覧ください。
また、先日100万部突破しました!ありがとうございます!
これからも『妃教育』をよろしくお願いいたします。
「そういえば」
私は遠慮なくパクパクシュークリームを口に入れているブリっ子に話しかけた。
「兄様とはどうなってるの?」
ブリっ子が一瞬シュークリームに手を伸ばした手を止めたが、結局手を伸ばした。
「どうって何が?」
「いや、兄様に猛アタックしてたじゃない?」
ブリっ子は兄をいい玉の輿相手と認識したようで、兄に必死にアピールしてきたはずだ。
しかし、兄からいつもつれない態度を取られてよくキーッとなっていた。
「ああ……」
ブリっ子がシュークリームを食べきってから口を開いた。
「残念ながらこの胸にも一切靡かないわ」
「兄様ハニートラップに引っかかるようなタイプじゃないから……」
逆に引っかかったら私はもう兄とどういうふうに顔を合わせたらいいのかわからない。とりあえず、本当に引っかかることがあったらドン引きした顔をしておこう。
ブリっ子は紅茶に口をつけた。
「どうしたらいい?」
「妹にしてほしくない相談ナンバーワン」
兄が誰かとイチャイチャしている姿など見たくない。兄を取られて嫌だ! とかそういうことではなく、ただ単純に見たくない。やめて。
「だって……」
ブリっ子が拳を握る。
「だって私これしか自信あるものないのに! 他に何で誘惑すればいいの!?」
「その誘惑って発想がダメなんじゃないの?」
「そうなの!?」
そうだよ!
ブリっ子が衝撃! みたいな顔をしているが私も衝撃だわ!
「じゃあ世の中の女性はどうやってるのよ?」
「普通に手紙書いたりプレゼント贈ったりじゃない?」
「やった。失敗した」
私は手紙をもらって無表情にベンに渡す兄が頭に思い浮かんだ。
ベン……喜んで受け取ってそう。
「待ち伏せして声かけるとか?」
「ストーカー! でもやった。失敗した」
やったんだ……。
「手作りお菓子とか……?」
「お菓子はだめよ!」
今までやったとばかり言っていたブリっ子が真剣な声を出した。
「それだけはダメ。いい? ダメ」
「そ、そう……」
あまりの気迫に私はそれ以上聞けなかった。
「えっと……」
他に何か手があるだろうか。
あ。
「兄様の弱みを掴む……?」
「それだわ!」
ブリっ子が大きな声を出して私の手を握った。
「そうよ! 人に言うことを聞かせるには弱みを握ること! これ鉄則よね!」
「怖いこと言ってる」
「そうと決まったら行くわよ!」
「どこに?」
ブリっ子がシュークリーム片手に笑った。
「ドルマン邸」
◇◇◇
「やっぱり秘密があるとしたら家よね~」
ブリっ子が楽しそうに家の中に入る。
「しかも実の妹が一緒だから不法侵入ではない! 合法!」
「嫁に出た身だけど」
「王族だもの! なんでも許される! 合法!」
意地でも合法にしたいのね……。
「いざゆかん!」
ブリっ子が気合いを入れて裏口の扉を開けた。
「ノックもないとはマナーがなってない」
兄がいた。
「「いやーーーー!!」」
私とブリっ子は抱き合って飛び上がった。
裏口開けた目の前に立ってるって何!?
絶対今来たとかじゃないよね? 待ち伏せしてたよね!? つまり私たちが来るってことがバレてたってこと!?
私の考えを読んだのか、兄がニヤリと笑った。
「俺の耳はあちこちにあるんだ」
普通に怖い。
何? 裏のボスなの?
「さて」
兄はそっと逃げようとしていたブリっ子の首根っこを捕まえた。
「どうしようか」
「ごめんなさいもうしませんだから両親には何も言わないでくださいお願いします」
「どうしようか」
「お願いしますお願いします謝罪のお金ならレティシアがなんとかします」
「ブリっ子!?」
早口で謝罪を述べていたブリっ子が急に私を売り渡した。
兄は私に視線を向ける。
「レティシアの罰は別で用意してる」
「え」
別って何。怖い。ブリっ子と違う時点で怖い。
「じゃああとは任せましたよ」
兄が敬語を使っている、ということは。
「任されたよ」
私の背後から声が聞こえた。
私は恐る恐る後ろを振り返った。
「ク、クラーク様……!」
「やあ、レティ。内緒の里帰りかい?」
違います。兄の弱みを探りに来ました。
とはさすがに言えない。
「え、えーっと、そうです……」
別に兄しかいないドルマン邸などに里帰りしたい気持ちはないのだが、一応そういうとこにしておいた。
「そういえば、ドルマン邸の中まで入る機会はなかなかなかったな」
クラーク様が珍しそうにキョロキョロと邸宅内を見る。
そしてクラーク様がニコリと笑った。
「レティの部屋が見たいな」
「わ、私の部屋……?」
私の部屋……私の部屋ってどんなだっけ?
何置いてたっけ? どうだっただろう、記憶があまりない……ベッドにぬいぐるみ置いたまんまだった? 一緒に寝てたの子供っぽいかも? あと片付けどうだった? 色々そのままにしてたかも……?
「ちょっと待っててください!」
私はもう部屋に案内される気満々なクラーク様にダメとは言えず、慌てて自室まで走った。
片付けようと気合いを入れたところでクラーク様が追いかけてきて、ベッドのぬいぐるみを見られたのは言うまでもない。
ちなみにブリっ子と兄はいつの間にか消えていた。
ブリっ子の無事を祈るしかなかった。