コミックス3巻発売記念:チョコレート作り
『妃教育から逃げたい私』
コミックス3巻本日2022/3/4発売されました!
詳細は活動報告をご覧下さい。
ブリっ子が途中で逃げた理由は、『妃教育から逃げたい私2~没落寸前だけど結婚したい私』電子書籍特典にて!
(読んでなくても違和感なく読めると思います)
追記:『妃教育』タテ読みフルカラー版がcomicoにて配信開始されました!
スマホで読みやすい縦スクロール漫画です!
レティたちがフルカラー版で楽しめます!
私は悩んでいた。
「どうしよう……」
ブリっ子がマフィンを手にしながら訊ねる。
「どうしたの?」
「いや……その……」
「いい歳してモジモジしないでよ。それを可愛いと思うのはあんたの旦那だけよ」
「別にモジモジしてない!」
「じゃあはっきり言いなさいよ」
ブリっ子に促され、私は口を開いた。
「チョコレート手作りした方がいいかなって思って……」
「…………」
ブリっ子は信じられないという表情で私を見た。
「あんた……それ先月のバレンタインデーの話してる?」
「うん」
「うん!?」
ブリっ子がマフィンを片手に前のめりになる。おっぱいが強調されるからやめてほしい。
「先月よ!?もうホワイトデーの方が近いわよ!?」
「だって悩んでたらいつの間にか過ぎちゃったんだもん」
「過ぎるレベルが違くない!?」
違くない。私にとっては。
「というわけで手伝って」
「今更作るって言うの?」
「うん」
「今作るならホワイトデーに感謝の気持ちってことで作って渡した方がいいんじゃない?」
「うるさい! やる気を削がないで!」
ようやく悩みに悩んで決断を出したのだから余計なことを言わないでほしい。
「わかったわ……」
ブリっ子はペロリとマフィンを平らげて言った。
「まずは格好ね!」
◆ ◆ ◆
「ねえ、このエプロン必要だった?」
「必要必要。見た目大事よ」
「なんか汚しにくいんだけど……」
私とブリっ子が来ているのはフリルがふんだんに使われているエプロンだ。
もっと実用的なのがよかった。やりにくい。
「まあいいけど……とりあえず溶かして型に入れればいいのよね!」
「そうね」
初心者なので無理をせず簡単なチョコレートを溶かして型に移して冷やし固めるというものを作ることになった。
「じゃあまずチョコを……」
「じゃあ私は帰るわ」
「は!?」
帰ろうとするブリっ子のエプロンを掴んで引き止める。
「いやエプロン着てるのに!?」
「これは付けて帰りながら『王太子妃様とおそろいなんです~!』って宣伝しようと思って着てるだけよ」
「そんな理由で着たの!?」
「とにかく! 私は帰る!」
「ちょっと!」
「材料費とかは後で請求するから!」
「ちゃっかりしてる!」
そしてブリっ子は本当に去っていった。
普通この状態で帰る? 帰らなくない?
「なによもういいわよ! 1人でも出来るもの!」
私はブリっ子が置いていった板チョコを見る。
「とりあえず、温めて溶かすのよね……?」
私はフライパンに火をつけた。
「チョコを置いて……」
私はフライパンの上にチョコを置いた。
「こ、これが溶けたら型にいれるだけよね? 簡単じゃないの!」
ブリっ子がいなくてもなんとかなるもの!
と思ったのもつかの間――。
「なんか……焦げ臭い……?」
私は恐る恐るフライパンを覗いた。
「きゃーー!! 焦げてるー!!」
フライパンからは煙が上がっていた。
慌てて火を止める。
「なんで!? 液体になるんじゃないの!?」
聞いていた話と違いすぎる。
「どうしよう……」
プスプスと煙を立てて焦げた香りを放つチョコレートを見ると少し切なくなってきた。
ブリっ子もいないし……マリアはまたルイ王子に追いかけられてるし……
誰もこれをどうしたらいいか教えてくれる人がいない。
「可哀想なチョコレート……」
いや本当にどうしよう。じんわり涙が浮かんでくる。
その時である。
「レティ」
聞こえるはずがない声が聞こえた。
「ク、クラーク様……?」
私は恐る恐る後ろを振り返った。
そこにはクラーク様がいた。
「レティ、その格好は……?」
やや顔を赤らめるクラーク様にハッとする。
私、ブリブリエプロン着てる……!!
「違うんですよ! これはブリっ子に無理やり着せられて……!」
実際には料理をするためだったので無理やりではないが、とりあえずそういうことにしておく。
だって自らこんな格好してると思われたくない。
「それは?」
「ぎゃー!!」
エプロンだけでなく、クラーク様が謎の物体にも気付いてしまった。
それもそうだ。だって焦げ臭い。とても臭い。
「違うんです……溶けないチョコが悪いんです……」
ついにチョコレートに全ての責任を押し付けた私に、焦げ焦げのチョコを見ながらクラーク様が言った。
「レティ、これは湯煎するんだよ」
「ゆ……せん……?」
ゆせんって何……?
「余ったチョコレートはあるかい?」
「あ、ここに」
ブリっ子から余分に買っていたチョコレートを手渡す。
するとクラーク様水を入れた鍋に火をかけ、包丁でチョコレートを手際よく細かくすると、ボールに入れて、それを水からお湯に変わった鍋に入れた。
「チョコレートはこうやって溶かすんだよ。直接火にかけると温度が高すぎて、焦げるんだ」
「へー」
「以前ニール公爵に作り方を聞いたんだ」
「なるほど……」
そうこう話している間にチョコレートが溶けた。
「ここに入れたらいいのかな?」
「あ、はい!」
溶けたチョコをクラーク様が型に流し入れる。
「あとは冷やすだけです」
「そうか」
クラーク様はそう言うと、なんと焦げたチョコを口に入れた。
「何してるんですか!?」
「おいしいよ」
「そんなわけないですよね!?」
完全に焦げていたのである。確実に不味い。きっと焦げの味しかしない。
「なんでそんな……」
「だってレティが作ってくれたんだから」
にこりと笑うクラーク様。
私は直視出来なくて目を逸らした。
「……今度はもっとちゃんとしたのを作ります」
「期待しているよ」
その後クラーク様お手製のチョコを一緒に食べた。
バレンタインという感じではなくなったけど、こういうのも悪くない。
ちなみに王族の繊細な胃を持つクラーク様は、焦げチョコのせいでそのあと1日寝込んだ。