コミックス二巻発売記念:味のある宝物
『妃教育から逃げたい私』コミックス二巻本日発売です!
菅田うり先生の可愛い二人をお楽しみください!
特典などの詳細を活動報告に載せています。
前話からの続きです。
「味があるように感じてきたわ」
私は飾り棚の上に飾ったいびつな形の何かの塊を見てそう呟いた。
「目がおかしくなったんじゃないの!?」
ブリっ子が青い顔で腕を摩った。
「あんたがそこに飾るから私が夢に見るようになったんだけど!」
「奇遇ね、私も数日うなされたわ!」
「うなされてるじゃない!!」
すごく怖かった。よく覚えてないけど。
「そうまでしてどうしてこれを飾っているのよ!」
これ、とブリっ子が飾り棚の一つを指差した。
「だって……」
私はもじもじ指をいじった。
「クラーク様がくれたものだし……」
そう、何が何だかよくわからないこの物体の正体は、幼いクラーク様が作ったものなのだ。
芸術的センスに恵まれなかった――いや、ある意味才能のあるクラーク様は、誰が見ても欲しいとは言わないものを作り出していた。
しかしこれは幼い彼にとって、一生懸命作ったものなのだ。
正直もらってとても困ったが、クラーク様が頑張って作ったものだと思うと、しまい込もうとも思わなかった。
その代わりうなされたが仕方ない。
「惚気頂きましたー! ああー! 辛い! 独り身辛い!」
「相手見つかった?」
「今のセリフでどうして見つかったと思った? いません!」
ブリっ子にひっそり憐みの視線を送る。
「なにその目! わかるわよ既婚者の優越感でしょう! 悔しい! ちょっとマリア、このクッキー詰め合わせて! 慰謝料代わりにお持ち帰りする!」
「はあーい!」
「図々しい……!」
ブリっ子がマリアに指示を出し、マリアが素直にそれに従っている。おかしい、マリアは私の侍女なのに。
「じゃあ帰るわ」
「え、何で? 早くない?」
詰めてもらったクッキー片手に、ホクホク顔のブリっ子が扉を指差した。
「あなたの旦那さんがこっちの様子伺っているから」
「え!?」
慌てて扉をよく見ると、少し隙間が空いている。
「クラーク様!」
怒鳴るように呼び掛けると、扉が静かに開いた。
「やあ、レティ。ちょっと楽しそうな会話が聞こえたから入るタイミングを逃しただけなんだ」
「いつからいたんです?」
「味があるように感じる、あたりから……」
「初めからじゃないですか!」
怒ったらいいのか照れたらいいのかわからない私に向かって、ブリっ子が無言で親指を立てて部屋から去っていった。おまけでマリアも連れて行った。
マリア、ブリっ子に従い過ぎよ!
「レティ」
クラーク様が心なしか、デレっとした顔で話かけてきた。
「あんなにいらないいらない言っていたのに、こうして飾ってくれていたなんて」
「いや、本当にいらなかったんですけど……」
「嬉しいよ」
「聞いてほしい……」
本当にいらなかったのだ。うなされたし。
でももらったものだし。飾らないと幼いクラーク様が可哀想だし。
にこにこにこにこ。
クラーク様がニコニコと私を見ている。
「まあ……よく見ると味がありますよ……味が……」
決して上手だとは言えないけれど、クラーク様が作ったと思えば大事に思える。
クラーク様が感動したように少し瞳を潤ませた。
「レティ……もっとあげるよ!」
「いりません!」
本当に持ってきそうだから全力でお断りした。