美少年の悩み
「僕の何がいけないんだろうか」
愁いを帯びた美少年が呟いた。
「何の話?」
「マリアが僕に振り向いてくれない件に決まっているだろう」
決まっているだろうか。決まっているのだろうな彼の中では。だって一言目には「マリア」という単語が出てくるもの。つまりほとんどマリアのことばっかりしゃべっている。
一応留学に来ているという形のはずなんだけど、この坊やはわかっているのだろうか。
わかっていなさそうな王子様は、ライルに紅茶のお代わりを淹れさせた。
「で、何がいけないと思う?」
「え、まだ続いてたのその話」
「途切れさせたつもりはまったくない」
紅茶を一口飲んで、彼は嘆息した。
「僕はとても顔がいいはずなんだ」
ルイ王子が大真面目な顔で言った。
思わずその額を手で触って温度を確かめた。
「熱ないけど、頭おかしい?」
「通常でおかしいと言うなんて一番失礼だろうが!」
ペシリと額に当てていた手を叩かれる。
「だって実際頭おかしいこと言ったじゃない」
「事実だろうが」
そうか、わかった。頭おかしいんじゃなくて、自信過剰なんだ!
「そういえばニール公爵も同じようなこと言っていた! 血か! 血筋なのか!」
「王太子殿下もなかなか自信にあふれている方ですしね」
私の発言に、ライルが同意する。
「何を言う! 父上と母上はとても謙虚な方なんだぞ! 血筋だけでまとめようとするな!」
「自分が自信過剰なのは否定しないんだ」
ルイ王子は黙って紅茶を飲んだ。私もカップに口を付ける。
改めてルイ王子の顔を見る。うーん……
「世間的にはたぶん美形に入る顔立ちだけど、私のタイプではない」
「別にこちらこそお前のタイプになんかなりたくもない!」
自分で顔がいいという話を振ってきたくせに!
「お前の好みは王太子殿下だろう。こんなところで惚気られてもな」
「はあ!? 別に今その話してませんけど!?」
ライルが「否定しないんだ……」とこぼしたから足を踏んでやった。手に持っていたティーポットを手にかけて慌てている。
ふん! 人をからかおうとするからこうなるのよ!
「この顔の良さなのに、なぜマリアは好きになってくれないのだろう……」
ふう、と息を吐いてルイ王子は再びナルシストな発言をした。私は正直に告げた。
「そのうっとうしい性格じゃないかしら」
「僕は性格もいいぞ」
「む、無自覚なの!?」
自信満々に胸を張っているルイ王子に驚愕の声を上げる。
こんな図々しい性格しておいて、まさかの自覚なし!
「ルイ王子は自分をまず客観視できるようになることが必要だと思う……」
「どういう意味だ!」
「まんまの意味ですけど?」
私は憤慨するルイ王子を鼻で笑った。
「そうやってムキになるのが子供なのよね」
「な、なんだと……!?」
ルイ王子が立ち上がった。
「お前の夫の王太子だって、僕にまで嫉妬して、子供みたいじゃないか!」
「ちょっと!」
私も立ち上がった。
「確かに何で嫉妬するのか私もいまいちわからないけど、でもこうしてお茶を許す度量もあるのよ!」
「でも前怒ってただろう!?」
「自分が見てる前ならいいって許可もらったもの!」
「自分が見てる前って! ……自分が、見てる、前……?」
言い返そうとしたルイ王子がピタリと止まった。数秒して、扉の前に構えている兵士を見る。
そう、現在この場には、私とルイ王子、ライルと兵士しかいない。
「ま、まさか……」
そういうことである。
兵士は兜を取った。
「やあ、心の狭い王太子だよ」
「ひぎゃー!」
ルイ王子が私の後ろに隠れた。
「申し訳ございません。決して悪意があって発した言葉ではなく、売り言葉に買い言葉でして。ええ、本心ではございません」
私を盾にしながらルイ王子は懸命に弁解した。変わり身の早さがすごい。
「うん、今の発言には別に怒っていないんだけど」
クラーク様は笑顔だった。
「レティシアに引っ付いたのはダメだね」
ルイ王子が静かに土下座した。