もう一度逃げよう
王城の一室に監禁されたまま一晩経ってしまった。
室内は律儀にベッド、テーブル、浴室、トイレ、洗面台、と必要なものがある程度そろっている。実に監禁に適した備え付けである。
私はベッドから起き上がると寝間着から部屋着に着替える。ちなみに服まで律儀に用意してくれた。服のサイズがぴったりなのはどうしてなのか聞いたら野暮だろうか。
こんこん、と扉からノックの音がした。
「奥様、お目覚めですか」
「奥様じゃありません」
「失礼しました。レティシア様。朝食をお持ちしました」
そう言うと、朝食を持って侍女が室内に入ってきた。
「さあ、冷めないうちにどうぞ」
侍女がテーブルに広げた朝食を見ると、途端に空腹に襲われた。別にここで反抗する気はないので大人しく席に着く。
私が食べているのを侍女がじっと見るので気まずいが、王城の食事はとても美味しく、あっという間に平らげてしまった。
「ごちそう様でした」
「ではお下げします」
侍女はテキパキと片づけをすると、そのまま扉に下がる。
「ごめんなさい!」
私はそう声をかけて侍女に後ろから体当たりした。侍女はバランスを崩す。思ったより豪快に倒れ込んでしまって罪悪感がわく。
「ごめん、本当にごめん、あなたに恨みはないけど、私は自由が欲しいの!」
私は扉を開けて駆け出した。
軽快に走る私に下仕えの人たちが何事かと目を見張る。
たたたと走りながら私は今城のどのあたりか見当が付き始めた。伊達に十年この城に通っていない。いざと言うときの為に城の構造は把握していた。
レティシア、あなたの十年は無駄ではなかった!
私は自分で自分のことを褒めながら窓から身を乗り出す。窓のすぐそばにある木に飛び移る。
脱出成功!
によによしていた私に恐怖の声が聞こえた。
「――レティシア?」
私の下から聞こえた声に、おそるおそる目線を下げる。
「ひっ」
なぜ、クラーク様がここに!?
戸惑う私などどこ吹く風、相変わらず爽やかなクラーク様は素敵な笑顔で告げる。
「俺も伊達に十年君を見ていない」
大体の行動パターンは把握できるという男に、私は恐怖する。
しばらく木の上でにらみ合いをしていたが、力尽きた私は木にしがみついたまま、ずるずると落ちていく。
落ちた後もクラーク様の顔を見たくなくて、木にしがみついている。さしずめ私は大きなセミ。
「レティシア」
後ろからそのまま抱き起される。ああ、私の抵抗の無駄さ……
そのまま横抱きにされる。
「レティは逃げ道がないってもっとはっきりわかるようにしなきゃいけないね」
怖いことをささやかれた。
「助けてぇぇぇぇ」
抱きかかえられながら泣く私と、嬉しそうなクラーク様を、王城の人々が生暖かい目で見つめてくる。
いや、助けろ!