なんだかんだ楽しい思い出
新婚旅行編これにて完結です。
これからはたまーに番外編更新するかもしれません。ご拝読ありがとうございました!
「温泉になぜ俺も誘ってくれない!」
しっかりイノシシもご馳走になって宮廷に戻ると、涙を流しながらとてもとても悔しそうにネイサン王太子が叫んだ。
いや、普通誘いませんよね。
「くそっ、行くと知っていたらこっそりついていったのに! 叔父上、俺にわからないように隠していましたね⁉」
「当然です」
ネイサン王太子が憎々しそうに顔を歪めた。なぜ美形は顔を歪めても美しいのだろうか。
「女性もいるのですから、ネイサンを連れて行くわけありません」
「叔父上は一緒に行っていたではありませんか!」
「私は自分を男性という括りにしていませんので」
あ、自分でもそう思ってるんだ。
「ルイとナディル殿も行ってるじゃないですか!」
「ルイは子供で、ナディル様はレティシア様の兄上です」
「でもブリアナ嬢からしたら立派な男性だ!」
ニール公爵は、ちらり、とブリっ子を見てから再びネイサン王太子に向き直った。
「それはブリアナ様も喜んでいるから大丈夫かと」
「待て待て待て待て」
ブリっ子が慌てて間に入る。
「それだと私痴女みたいじゃない! 喜んでないわよ!」
「おや、失礼しました」
ニール公爵は相変わらず害のなさそうな笑みを浮かべる。
「でもライルも連れて行っていた!」
「ライルは温泉内には入っていません」
ライルもリリーと同じく、脱衣所内で待機していた。
「入ったら確実に罰せられるじゃないですか。絶対入りません」
保守主義のライルらしい。
ネイサン王子はまだ納得できないらしく、肩を震わせている。
「ずるい、俺だってブリアナ嬢のおっぱい見たかった!」
心の底からの叫びを上げているようだが、内容がひどい。
「ちゃんと服着ていたから見えるわけないでしょ!」
「うっかりぽろりがあるはずなんだ!」
「そんなもんあるわけないでしょ!」
ブリっ子とネイサン王太子が言い争いをしているが、内容が低レベルすぎる。弟であるルイ王子もドン引きしている。
「あー」
こほん、とクラーク様が咳払いをすると、二人がこちらを向いた。
「お世話になりました。これより国に帰ります。またお会いできる日を楽しみにしております」
そう、実はもう帰国しなければいけないのだ。
本当はもっと早く立つ予定だったのに、ネイサン王太子の話が長いおかげで、随分遅れてしまった。
「また来てくださいね」
ニール公爵が穏やかに見送ってくれる。手を振りながら、馬車に乗った。
「ブリアナ嬢だけ残ったりは……」
「しません!」
ブリっ子は縋りつくネイサン王太子を振り払って馬車に乗り込んだ。ネイサン王太子が大声で嘆き悲しんでいる。
ちなみに見送りに来ない国王陛下は未だにぎっくり腰だ。可哀想に。
「レティシア」
馬車の中でクラーク様に手を握られる。
「また、旅行しような」
「はい」
にこりと笑って答えると、クラーク様も嬉しそうに微笑んでくれた。
「もしもし? 私いるんだけど……」
「馬鹿、空気を読め」
「空気ぐらい読めますけど⁉」
ブリっ子と兄が言い争いを始めたのを見ながら、なんだかんだと楽しかったなあと思いながら、馬車の揺れに身を任せた。
でも次は肉食獣が出ないところがいい。