子供は可愛い
「あーっはっはっは! まさかルイがいるとは思わなかったぜ!」
豪快に笑いながらお酒を飲む、ディル元第二王子。もう王子でもないのでさん付けで呼んでほしいと言われた。
「すみません、助けてもらった上に、お邪魔してしまって……」
「いやいや、俺がぜひにと勧めたんだから気にするな! ゆっくりしていけ!」
今私たちはディルさんの自宅にお邪魔している。庶民になったというが、冒険家でそれなりに稼いでいるディルさんの家は、想像より大きかった。少なくとも私たち全員入っても狭いと感じない大きさだ。
「いいお宅ですね」
当然貴族の家のような豪華さはないが、木でできたシンプルな家は、温かみがあって気に入った。
「そうだろそうだろ! 頑張って作ったんだからな!」
「え!」
まさかの手作り!
「子供多いから、なるべく金を浮かしたくてな。あ、ルイ! 四人目産まれたぞ、見て行けよ!」
「兄上、子供の出産はすぐに連絡してくださいと言っているじゃないですか!」
産まれたことをはじめて聞いたらしいルイ王子がディルさんに怒っている。確かにこの間、まだ産まれていないと言っていた。
「いつも兄上は突然なんだ。出産祝いも用意できていないというのに」
プリプリしながらルイ王子は赤子のもとに案内され、流れで私たちもついていく。
「じゃじゃーん! 産まれたてほやほや! 四男坊だ!」
ディルさんが嬉しそうに自慢する。本当に産まれて間もないのだろう。とても小さく、髪はほぼ生えていない。すやすやと眠る赤子を見て、みんなほっこりとした気持ちになった。
ルイ王子は赤子の小さな手に指を伸ばし、その手をきゅっと掴まれた。
「ああ、可愛い……叔父ですよー。ルイですよー」
さっきプリプリしていたのに、ルイ王子は途端にデレっとした顔になった。結構叔父馬鹿なのね……。
「今度出産祝いを持ってきますね。ご出産おめでとうございます」
「おう、あんがとな、叔父さん!」
ニール公爵が叔父らしくお祝いを述べる。相変わらず女装だけど。
それにしても赤ん坊可愛い……。
「今なに考えてるか当ててあげようか?」
赤ん坊をうっとり眺めていると、ブリっ子がにやにやしながらこちらに寄ってきた。
「いや、いい」
「私もクラーク様と赤ちゃん欲しーい! とか思ってるんでしょ」
「いいって言ってるのに!」
「否定はしないのよね」
ブリっ子の言葉にギクリと固まる。ブリっ子はにやにやしながら「ご馳走様―」と言いながら離れて行った。なんのためにこっちに来たのよ!
でも子供……子供ね……そうね……。
「いやまだ早い……」
「なにが?」
どうしていつもタイミングよく出てくるの!
独り言を呟いたときに隣に来たクラーク様に小首を傾げられる。そんな顔されても言えるわけない。だがクラーク様は律義に私の言葉を待っている。
「あ、の……」
「うん?」
私は口をもにょもにょと動かした。
「……いつかですけど……」
「うん」
「いつかなんですけど」
「うん」
「…………クラーク様似になるといいですね」
限界だった。
私はクラーク様の反応を待たず、赤ん坊の部屋を出てブリっ子の後を追った。顔は火が出るように熱い。
「うわっ、真っ赤! なに、のぼせたんじゃないの?」
ブリっ子がそう心配してくれる程度に赤かったらしい。熱が引かない。
「ちょうどよかったー! はい、搾りたて牛乳飲んでー!」
どん、と大きなコップに入った牛乳を渡される。私はお礼を言い、それに口をつける。濃厚で、薫り高い。
「美味しい」
「ありがとー!」
にかっとディルさんに似た笑い方をするのは、ディルさんの奥さんのローラさんだ。冒険家をしているということもあって、女性にしては筋肉質な体付きだが、美しさを損なっていない。
「お風呂上りに牛乳……最高よね……」
ブリっ子は飲みながらうっとりしている。
「あの、他のお子さんは?」
家に見えない子供たちを探してきょろきょろすると、ぐいっと牛乳を飲んだローラさんが答えてくれる。
「イノシシ狩りにいってくれてる!」
イノシシを……子供が……狩りにいく……。
衝撃的すぎて訊いておきながら相槌を打つことしかできなかった。ずいぶん、逞しいお子様たちなのだろう……。
「おおーい」
ディルさんが呼んだ。
「王子様、固まったまま動かなくなっちゃったんだけどー!」
途端ブリっ子がにやけた顔でこっちを見たので、私はただただ顔を赤らめ俯くしかなかった。