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彼はとても美しい



「驚かせて申し訳ございません」


 上品さを感じさせる仕草と語り口で述べられる謝罪に、とりあえず無難な相槌を打つ。誰かに似ていると思ったが、今ならわかる。ルイ王子だ。

 ルイ王子にそっくりの顔を、朗らかに微笑ませながら、ニール公爵は言う。


「国王陛下に似ていなくて驚かれたでしょう」


 穏やかに聞かれるが、そうじゃない。そこじゃない。驚いた部分がまったく違う。だが、それをはっきり伝えることもできず、曖昧に微笑んだ。


「あの……えーっと、ニール……公爵?」


 呼んでから気付いた。


「ニールというのは、お名前ですよね? 姓の方は……」


 暗に、姓がないと呼びづらいということを伝えた。初対面の友好国のお偉いさんを、いきなり名前で呼べるほど、私はもの知らずではない。ニール公爵は、ああ、と声をこぼした。


「僕、元々王弟なので、姓は後々作ったものなのです。だから、慣れなくて。できればそのまま、ニールとお呼びください」

「はあ……」


 まあ、本人がいいのなら、いいのだろう。ちなみに私がルイ王子を初対面から姓ではなく名前呼びしたのは、敬意を払っていないからである。誰だって、誘拐犯に対して丁寧に接してやろうなどとは思わないだろう。王子を付けているだけ褒めてほしいぐらいだ。

 ニール公爵は本人の言う通り、国王陛下より、ルイ王子にそっくりだ。おそらく、ルイ王子が成長したら、このような美しい青年になるのだろう。ただ、纏う雰囲気がまったく違う。気の強さが表情にも出ているルイ王子に対し、ニール公爵は、柔らかい物腰で、見ているとどことなく、ほっとする雰囲気がある。例えるなら、教会にある天使像のような、どことなく神聖さを伺わせる。きっとルイ王子には一生出せないものだ。


「あの……ニール公爵は、どうしてクラーク様のお部屋に……?」


 とりあえず、気になることは聞いておくべきだろう。私の質問には、クラーク様が答えてくれた。


「ニール公爵とはたまに公務のときに顔を合わせるんだ。そこから少し話をするようになって、今日部屋に呼んだんだ」

「その前は町を一緒に散策していました」


 二人とも、仲は良いのだろう。にこにこと答えられ、私はその後を付け回して嫉妬心丸出しにしたことを恥じた。

 私は出された紅茶に手を付けながら、一息吐く。

 ちらり、とニール公爵を見ながら、いつ聞こうか、今聞こうかと内心ソワソワしていた。気になって仕方ない。私は、意を決してのほほんと茶を飲み交わしている二人を見た。


「あの……」


 ごくり、口腔内の唾を飲み込んだ。


「ニール公爵は……なぜ女装を……?」


 相手を不快にさせないよう、言葉の強弱に気を付けながら、心底不思議そうな表情を作る。というか、実際心底不思議だ。彼はとても美しいドレスと、女性用の装飾品を身に着け、女性用の化粧をしている。靴ももちろんヒールのあるものだ。

 どこからどうみても完全な美女だ。

 女性としか思えない繊細な仕草で、ニール公爵はカップを置いた。


「だって」


 ニール公爵はこちらを向いて、より一層笑みを深めた。見る人が見れば見惚れてしまいそうな麗しさだった。


「僕は美しいでしょう?」


 ……うん?

 うっかり私も見惚れてしまっていたが、なにやら話している内容がおかしいと現実に戻った。


「そして、美しいドレスを身に纏った僕は、より一層美しい」


 自分に心酔している様子のニール公爵から、さりげなく距離を取った。

 前言撤回。彼は天使ではない。ただのナルシストだ。

 クラーク様を見ると、楽しそうに彼を見ていた。


「ね、ニール公爵は見ていると面白いだろう」


 距離を取って見る分には、確かに面白いだろう。だが近い距離では御免被りたい。


「僕は美しい自分を大事にしているだけです。あ、ちなみに男性に好意を持ってこのような格好をしているのではないので安心してくださいね」


 それは安心していいのだろうか。なにに安心したらいいのだろうか。

 最早なにがなんだかわからなかったが、私はただただ頷いた。ニール公爵も満足そうに頷いている。


「ああ、そうだ。今日私がクラーク殿下に会っていたのは、ただ遊んでいただけではなくて」


 ニール公爵が思い出したように手を打った。


「レティシア様、温泉はお好きですか?」

「温泉ですか? ええ、好きですが……」


 突然切り出された会話に戸惑いながらも、返事を返す。


「実は私の持つ領地に温泉が湧いていましてね。そのお誘いに来たのです。新婚旅行にピッタリでしょう?」


 確かに。新婚旅行に温泉は定番だ。私はクラーク様を見る。


「楽しみだな」


 クラーク様も乗り気なようだ。


「私も楽しみです」


 明日から行こうということになり、私は早めに就寝した。




 その夜、ブリっ子の部屋から悲鳴が聞こえた。

 あ! 忘れてた!



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