逃げられなかった
連れ戻された。
しかも大体準備が終わったからと言って王城の方に連れ戻された。
絶望でしくしく泣いている私の隣に腰掛けたクラーク様が私の膝をなでる。おい、どさくさに紛れてセクハラするな!
「レティ、そんなに泣いたら君の可愛い顔が台無しだよ」
お前の行動が泣かせてんだよ!
「帰りたい……」
「それは無理かな」
ごめんねと私の頭を撫でてくる。ごめんねじゃない。帰せ。
しくしく泣いたままの私の手を引いてクラーク様は歩く。どこ行くんだ、まさかついて早々結婚式?
抵抗しても難なく引きずられてしまった。
「レティ、顔を上げてごらん」
言われて仕方なく顔を上げる。
「か……」
「うん」
「川がある……」
城の中庭に小さい川が流れている。その中には魚が泳いでいるのが見える。
「作っちゃった」
金にもの言わせやがった……!
さすが最高権力王族! と思うも、嫌な気はしない。
「君は川が好きだろう。ここなら釣りもできる」
確かに川は好きだ。釣りは好きだ。大好きだ。
「ね、今後は好きな時に好きなことしていい。外交はしてもらうことはあるけど、でもそんなにあるもんじゃないよ。妃教育ももうない」
大分妥協されている。でも王妃がそんなの許されるのだろうか。
「大丈夫、文句は言わせないよ。ちゃんと許可してもらってるから」
「誰に?」
「国王陛下」
「ひええ」
思わず間の抜けた声が出た。
「レティ以外と結婚しないから、レティが逃げだすようなことしたら子供望めないかもねってみんなに言ったらあっさり納得してくれたよ」
人はそれを脅しと言う。
「だから結婚しよう。悪い話じゃない。貴族の嫁になるより楽なぐらいののびのびした暮らしができる。どうせいつか誰かと結婚させられてしまうならこの優良物件と結婚しよう」
不良債権と言ったの根に持たれている。
顔を近づけてくる男の顔を見る。綺麗な澄んだ瞳。髪がさらさらと風にそよぐのを見て、なるほど、確かに王子様だな、とよくわからない納得をしてしまった。
「でも絆されないから!」
近づく唇をすんでのところで押さえる。恨みがましい目をされたがそんな顔されるいわれはない。むしろその顔をしたいのは私だ。
「……どこに不満が?」
クラーク様の口を塞いでいた手を外される。
「王族に嫁ぐことが不満」
「そればかりは我慢してもらうしかない」
「いや」
あきらめず首を振る私にクラーク様はため息を漏らす。
「レティシア、残念だよ」
クラーク様はそう言うと私を抱き上げて王城に戻る。
いやな予感しかしない。
「降ろして!」
精一杯腕の中で暴れるが全然歯が立たない。悔しい!
そのまま王城の奥まった一室に連れて行かれる。
「レティ、式の準備がしっかり整うまでここにいておくれ」
クラーク様は綺麗な顔でにこりと笑うと無情にも扉を閉めた。
すぐに私は扉を開けようとする。
「あ、開かない……!」
公爵令嬢レティシア、十七歳。生まれて初めて監禁された。