ルイ王子は秘蔵っ子
こんにちは令和!
途中で文句を言われたりなんだりしたが、無事に目的地に到着した。
「おおー、立派な城ねぇー」
ブリっ子が仰ぐようにして城を見上げている。確かにデルバランの王宮はとても大きい。私の住む王城より大きいかもしれない。
「徐々に徐々に増築してこの大きさになったんだ。だから形が独特だろう?」
自国の王宮の自慢をするルイ王子は鼻高々だ。
ルイ王子の言う通り、少し形が歪だ。だが不思議とそれが美しく見える作りになっている。
「さあここからは僕が案内する。さ、マリア、僕の隣に」
「いやです」
マリアの腕を掴もうとして逃げられたルイ王子は、しょぼくれながらも先頭を歩く。ちなみにマリアは侍女として連れてきているので一番後ろだ。
増築したと言った通り、それぞれの場所で壁の素材が違ったり、石が変わっていたりして面白い。
周りを観察しながら進むとあっという間に玉座に着いた。
ルイ王子はノックもせずに扉を開けた。お、おい、いくら王子でもノックぐらいはしろ!
やや焦るこちらの気持ちとは裏腹に、ルイ王子は中へ走っていく。
「父上―!」
叫びながら玉座に座る人物に飛びついた。おそらくその人物はルイ王子の父親、つまりは国王陛下だろう。陛下は慌ててルイ王子を抱きとめた。
グキッという音が鳴り響いた。
「……父上?」
ルイ王子が飛びついた父親から少し体を離して、顔を覗き込んだ。
「おおう、ルイ、よく帰ってきたのお」
好々爺という言葉がふさわしい王は、ルイ王子の頭を撫でまわす。
「相変わらず可愛いのう。でも前より少し大きくなったようじゃなあ」
「本当ですか⁉」
ルイ王子は嬉しそうに父親の上ではしゃぐ。そのたびに王から「ぐぬ」やら「ふお」やらの声が漏れ聞こえる。
親子水入らずのところに水を差すのは申し訳ないが、いつまでもここで親子の触れ合いを見ているわけにもいかない。私たちはお互い頷き合って一歩前に進んだ。
「デルバラン国王陛下。今回は滞在許可を頂き、ありがとうございます。私がアスタール王国の王太子クラーク。こちらは妻のレティシアです」
「お初にお目にかかります陛下。レティシアと申します」
カーテシーをすると、陛下はルイ王子を抱きとめている手とは別の手で制した。
「よいよい。そちらではルイが世話になっておる。せっかくの新婚旅行なのだから、堅苦しくせず、のんびり過ごしておくれ」
陛下はルイ王子をゆっくりと降ろす。降ろしながらたまに「んふ」やら「あう」やらの声が漏れ聞こえた。
「王宮を案内してあげたかったのだが、申し訳ないのう」
陛下は伸ばした白いひげを撫でつけた。
「わしはたった今ぎっくり腰になってしまったようだから、しばらく安静にしておこうとおもうのじゃ」
ぜひそうしていただきたい。
私たちが頷くと陛下は安心したように微笑んだ。
「父上、何故ぎっくり腰に?」
お前だ。お前だよ犯人は。
そう言いたいのを父親の手前ぐっと耐え、私たちはルイ王子に案内をお願いした。
「驚かれたでしょう?」
歩きながらライルが話し出した。
「陛下はあの通りご高齢ですから、遅くに生まれたルイ王子が可愛くて可愛くて仕方ないんですよ。その結果がコレです」
「コレとはなんだ!」
コレ、と指さされ、ルイ王子は顔を赤くして怒る。私はそれを見ながらなるほど、と今までのわがままな行動を納得した。
「甘やかされたんだろうとは思ってたけど、本当に甘やかされていたのねえ」
「言葉に棘を感じる」
ルイ王子が不満そうな顔を向けるが、それは無視する。
「私粗相してなかった? 大丈夫だった? 変なことしてない?」
「後ろに控えていただけでしょう。なにも問題ないわよ」
「不安だわ……」
移動中の元気な様子から一転、ブリっ子は不安でたまらないらしい。
「私ほぼ庶民みたいなものなのよ。絶対なにかやらかす。なにかやらかす……私だけ宿取っちゃダメ?」
「安全を守るためにもここ以外ダメだ」
ブリっ子は落ち着かない様子で、そわそわしながら提案するも、兄に却下された。少人数で来ているため、別で護衛をつけられないのだ。王太子夫婦の新婚旅行についてきた友達のために、わざわざデルバラン王国の騎士を借りるわけにもいかない。
ここに泊まるほかないとわかったブリっ子は意気消沈した。
「げ、元気出して。ほら、私の隣の部屋だから」
「それのなにを喜べばいいのよ……」
ある程度案内が済み、しばらく泊まる部屋の前に来たので、そう声をかけたのに、ブリっ子にとっては気分を浮上させる要素ではないらしい。
「マリア、僕は自室があるから一緒にはいられないけど、寂しかったらいつでもきてね」
「なにがあっても行きません」
ルイ王子はここではなく、自分の部屋にいくらしい。そりゃそうだ、自分のお家だもの。わざわざ客室には泊まらない。
「俺も隣だぞ。よかったな」
「夜這いさせてくれるなら……」
「しっかり警備する」
ブリっ子は案外元気かもしれない。
「ああ、レティシア」
部屋に入ろうとした私を呼び止めたのはクラーク様だった。
端正な顔に笑みを浮かべる。
「明日はピクニックに行こう。二人で」