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ブリっ子はとても元気



「疲れた……」


 やはりブリっ子の体力は持たなかった。

 ルイ王子の国には一日で着かないため、途中で宿に泊まる必要がある。事前に予約していた宿に到着し、そこで馬車を降りる頃には、ブリっ子はフラフラになっていた。


「ずっと叫んでいるからいけないのよ」

「誰のせいだと思っているのよ!」


 私は聞こえないフリをした。

ちなみに今日泊まるのは以前ルイ王子に誘拐されて泊まったボロ宿ではない。あれは最短ルートでの旅で、ルイ王子のワガママのために泊まるしかなかったから泊まっただけだ。

 今回はもちろん計画した旅行なので、それなりの宿を用意している。私は今回泊まる宿を見上げ、満足気に頷いた。


「うんうん、やっぱ新婚旅行はこういう宿よね」

「なんだかんだ言いながらあんた楽しみにしてたんじゃない」


 ブリっ子が私の腕をツンツン突いてきて鬱陶しい。別に新婚旅行が楽しみなんじゃなくて、旅行というものが楽しみだったのである。大事なところだから間違えないでほしい。


「レティ、大丈夫か?」

「ええ」


 私たちとは違う馬車から降りてきたクラーク様は、気遣うように私の肩を抱く。


「ねえまさかこの旅行中ずっとこういうの見せつけられるんじゃないわよね? いやよ私。今からでいいから家に帰して」


 私とクラーク様を半目で睨みながら言うブリっ子に対して、クラーク様は安心させるように微笑んだ。


「旅行中の賃金は発生するし、諸々かかる経費はこちら持ちだ」

「やだー! デルなんとか国に着いたらドレス買っちゃおー!」

「デルバラン王国だ、馬鹿女」

「ば、馬鹿ですって⁉」


 クラーク様の言葉を聞いてさっきまでの不機嫌な様子はどこにいったのか、途端にはしゃぎ出したブリっ子に対して、静かに罵倒しながら訂正したのは、私の兄である。


「玉の輿に乗りたいのなら、隣国のことぐらい学んでおけ」

「大きなお世話よ!」


 今日も絶好調に性格が悪そうだ。

 ブリっ子は以前の兄に対しての態度はどこへやら、最近はあまりブリブリしなくなった。兄がまったく靡かないのを痛感したらしい。でもその割に兄の隣をちゃっかり確保したりしているから完全にはあきらめてはいないのかもしれない。

 ちなみにブリっ子に名前を憶えてもらえていなかった国の王子は熟睡してしまい、ライルにおんぶされている。子供って本当いつでもどこでもよく寝るものだ。

 私たちは宿に入るとすぐに部屋へ案内される。部屋はさすが、王族の新婚旅行の宿に選ばれるだけあって、王都の私の部屋ぐらいはあった。天井には埃も被っていないシャンデリアがあり、それだけで、宿の質が計り知れる。中央に大きなテーブルとソファーがあり、その奥にはバルコニーがある。バスルームやトイレも完備されているし、ベッドも前泊まった宿とは比べ物にならない質だった。


「うん、文句なし!」

「文句ありー!」


 満足して頷く私に対して、ブリっ子は大きな声を出した。


「新婚旅行なのになんで私とあんたが一緒の部屋なのよ!」

「男女別々のほうがいいと思って」

「新婚旅行でそんなわけあるかー!」


 馬車でぐったりしていたのに、すっかり元気を取り戻したようである。


「新婚夫婦で泊まりなさい!」

「デルバランの王宮では隣同士の部屋になってるわよ」

「そういう問題じゃない……ってそっちでも同室じゃないのかーい!」


 ブリっ子は絶好調である。


「新婚旅行じゃないわこんなの、ただの旅行よ! あんた新婚旅行をなんだと思ってんの!」

「新婚夫婦が距離を縮め合う旅行」

「距離の縮め方が遠すぎるわー!」


 ブリっ子は埒が明かないと思ったのか、部屋から飛び出し、隣の部屋の扉を叩きだした。


「ブリっ子、他の宿泊客に迷惑だから」

「ここの宿、貸し切りになってるでしょーが!」


 え、そうなの? 気付かなかった……いい部屋借りただけでなく、貸し切りにしたのか。なんと贅沢な泊まり方……。


「それでも迷惑だ、やめろ」


 眉間に皺を寄せながら兄が扉を開けた。その後ろからクラーク様が顔を出す。


「レティ、どうした?」

「いえ、私ではなく……」


 訊ねるクラーク様に、私は困ってしまう。私は用はない。あるのはブリっ子だ。


「クラーク殿下!」


 ブリっ子が身を乗り出した。


「新婚旅行なのですから、夫婦同室になさるべきです!」


 ブリっ子は拳を握る。


「そしてナディル様とは私が同室になります!」

「待て待て待て!」


 思わず止めに入った。


「ブリっ子、それが狙い⁉」

「狙いなんて人聞きが悪い! 私は新婚夫婦は同室になるべきだと思うし、おまけで既成事実作れればラッキーかなと思っただけよ!」

「自分に正直すぎる!」


 ブリっ子はどこまでいってもブリっ子だった。

 兄はそんなブリっ子を上から下までしっかりと舐めるように見てから鼻で笑った。


「出直してこい」

「なんですってええええ!」

「ブリっ子、落ち着いて、落ち着いて、ひっひっふー!」

「それ出るやつ!」


 兄に飛びかかろうとするブリっ子を抑えていると、抑えている本人から訂正された。細かいやつめ。


「クラーク様も、本当はレティシアと同じ部屋がいいですよね⁉」


 ブリっ子が再び矛先をクラーク様に戻すと、クラーク様は端正な顔を照れたように掻きながら言った。


「いや、いきなり同室はちょっと……」


 ブリっ子は今日一番の声を上げた。


「お前もヘタレかー!」



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