みんな一緒でみんないい
「いやいやいやいやおかしいでしょう」
さすが王家の馬車! と感心するほどの大きな馬車に揺られながらも沈黙を守っていたブリっ子は、急に我に返ったようにそう言った。実際急に我に返ったのだと思う。
「なんで新婚旅行に私いるのよおかしいでしょ!」
「おかしくないおかしくない」
「新婚旅行に友達がついてくるなんて聞いたことないわよ!」
「これからは定番になるかもしれない」
「なるかー!」
ブリっ子は興奮のあまり立ち上がったが、不安定な馬車の中だ。ふらつき、慌ててまた座り直した。
「しかもなに、この大人数! 従者や護衛はいい! マリアやリリーさんも、旅先で必要なこともあるでしょう……でも、でも! 兄はいらなくない? 新婚旅行に嫁の兄ついてこないんじゃない? いちゃつきにくくてたまらないでしょ! 友達も普通は連れてこないのよ! あとおまけで隣国の王子もいるじゃない! 新婚旅行でしょ⁉」
「私流の新婚旅行なの」
「んなわけあるかー!」
ちなみに今は小鳥の声が美しく響く、早朝である。ブリっ子、朝から元気でなによりだわ。
「あとルイ王子は一応必要なの。彼の国の王宮でお世話になる予定なんだって」
「ますます下っ端貴族の私を連れて行ってはいけないじゃない!」
ブリっ子が頭を抱えてた。考えすぎだと思う。
「誰もお供が下っ端貴族でも気にしないって」
「私教養もなにもないのにー! あんたみたいに優雅に食事や挨拶できないわよー!」
「大丈夫大丈夫―! なるようになるからー!」
「あんた他人事だと思ってんでしょ!」
バレた。
ブリっ子は、こちらを睨みつける。
「大体、急に家に来て叩き起こされたかと思えば、あれよあれよと着替えを済まされ、いつの間にか荷造りを済まされ、馬車に乗せられるとかありえない! 事前に言いなさいよ!」
「事前に言ったら逃げるじゃない」
「当たり前だわ!」
じゃあやっぱり今回の行動は正解だったわけだ。私は自分の判断力の高さを褒め称えたい。
「あと、あとどうしても抗議したいのは!」
ブリっ子は再び立ち上がった。
「この、馬車の組み合わせよ!」
馬車の揺れに耐えきれず、ブリっ子は早々に座り直した。もう立つのやめたらいいのにと言ったら怒るだろうか。
「どこがおかしい?」
「これがおかしくないと思うの⁉」
ブリっ子が恐ろしい顔をしたのが確認できた。ついでに馬車が揺れてでかい胸が大きく揺れたのも確認できた。羨ましいとか思っていない。決して。
「あんたの隣が私で、その前に座るのが、マリアとリリーさんってどういうことなの⁉」
ブリっ子は目の前に座る二人を指さした。
「男女別々の方がわかりやすいじゃない」
「わかりやすさとかで決めるものじゃない!」
「私は女子会みたいで楽しいですー」
「マリアややこしくなるから入ってこないで!」
「私は止めました」
「リリーさん……常識人はあなただけだわ……」
ちょっと待ってそれは納得できない。ブリっ子があまり関わりないから知らないだけでリリーだって中々の性格をしているのよ。常識人ではない。常識人は自分の仕える人間の手を抓らない。
「新婚ほやほやの旦那さんと乗ればいいでしょ!」
「一応明日は一緒に乗る予定」
「今日も一緒に乗れと言っているのよこのお馬鹿!」
失礼な!
それにしても、まだ旅も序盤も序盤なのだが、ブリっ子はこの調子で体力持つのだろうか。というか本当に元気だな。ずっと叫んでいる。
まだ私に対して言い足りない文句を述べているブリっ子を見ながら、私は窓の外に目を向けた。
こういうのは聞き流すのに限るのである。