デート指南は無理
「妃教育から逃げたい私」が皆さまのおかげで書籍化決定しました!
ありがとうございます!
詳細は活動報告をどうぞ。
「デートをしたい」
突然訪問したかと思えば少年王子は真剣な顔でのたまった。
なので私は首を横に振りながら丁寧に言った。
「ごめん、私ルイ王子は欠片ほどもタイプではない」
「こちらから願い下げだ猿女」
「なんですって!? 聞き捨てならない!」
「お前がたまに木から降りてきているのを知っているんだからな!」
「私は! 優雅に! 降りてます!」
「優雅とかの問題じゃないだろ山猿!」
「キー!」
うっかり山猿よろしく雄たけびを上げながらルイ王子につかみかかろうとするのをライルにとめられた。
「キー! 離しなさいライル!」
「まあまあ、レティシア様落ち着いて、ほら、どうどう」
「キー! 猿扱いするなー!」
火に油を注ぐ行為しかしないライルの髪の毛をむしる。痛い痛いと叫ぶ声が聞こえた気がするが気のせいだろう。邪魔者の毛根など死滅すればいい。
少し落ち着いた私は、さも自分の部屋のように踏ん反り返っているルイ王子に向き合う。
「で、デートがなんだって?」
「だからデートがしたいんだ」
「だからお断りです」
「お前わかっててやってるだろう!?」
憤慨した様子で顔を赤くするルイ王子。
「人を猿扱いする人間の話を聞く筋合いはない」
「お前がクラーク殿下と先日デートしていたのは知っている」
「聞け、人の話を!」
「僕もデートがしたい」
「好きにしたらいいでしょ、自分の国で!」
「僕は、この国で、今、マリアと、デートが、したいんだ!」
「いちいち区切って言ってくるな!」
「マリアとデートがしたい!」
「要点だけ言ってくるな!」
「だから協力しろ猿」
「キー!」
再び雄たけびを上げた私を再びライルが羽交い絞めにしてくるので遠慮なく再び髪の毛をむしる。ふん、遠慮なくハゲるがいい!
「で、結局私にどうしろっての?」
「デートはどうすればいいのか教えてほしい」
「わからないわよ、そんなの」
「つい先日デートしたばっかりだろう」
「私はデートなんてしてません! お出かけです!」
「それをデートと言うんだろう!?」
「お出かけだってば!」
こちらがデートじゃないと言っているのにしつこい子供だ! そんなんだからマリアが靡かないんだお子様め!
ライルがなにか言いたそうにこちらを見ている。なんだ。なにが言いたい。言うことによってはもっと毛をむしってやる!
「じゃあお出かけでいいから教えろ」
「知らないわよ。本当に城下町のんびりぶらぶらしただけだもの」
私が答えるとあからさまにがっかりしたルイ王子は盛大な溜息を吐いた。
「なんて役立たずなんだ……」
「なんですって!? もう一度言ってごらん!」
「役立たず!」
「キー!」
今度はライルはとめなかった。さすがに王族の毛をむしるのは気が咎めるのでほっぺを軽くつねるだけにしてあげた。軽くつねっているだけなのに、ぎゃーぎゃーうるさい。これだから温室育ちのお坊ちゃまは!
「デートなんて大体町をブラブラ散歩するのが王道なのよ!」
「なに!? それだけでいいのか!?」
「基本よ、基本! で、なにか立ち寄った店でプレゼントするの!」
「よし! マリア、出かけよう!」
ぱあ、と顔を輝かせたルイ王子は年相応で可愛らしい。すぐ横でお茶を注いでいたマリアの手を取って、しっかりとその目を見つめながら言うと、マリアもその白い頬を赤く染めた。
「なんで私が行かなきゃいけないのかとか、こちらの都合は聞かないのかとか、今仕事中だとか、言いたいことはいっぱいありますけど、とにかく、本人が目の前にいるのにデートの相談をするなー!」
マリアの絶叫が木霊した。