逃げよう
2018.8.24 日刊ランキング1位ありがとうございます!
誤字脱字見つけたら遠慮せずお知らせ頂けたら嬉しいです。なかなか自分で気付けないので。
逃げればいいじゃない。
そう思ったあとの私がする行動は一つだけ。昼に聞いた兄の話に絶望していたけど、逃げればいいだけだ。
幸いここはうちの持っている領地でも端っこのあまり監視されていない田舎だ。今までは王都近くの屋敷に無理やり住まわされ、逃げようにも使用人が幾人もいて行く手を阻まれた。
でもここならいける!
私は必要最小限の荷物と多めの現金をカバンにつめる。私なら平民生活もやっていける。むしろ合っているかもしれない。女漁師になろう。そうしよう。
準備を終えると窓に手をかける。玄関から出たら誰かに見つかるかもしれない。逃走って言ったら窓からと相場は決まっている。
窓を開けカバンを持ち、そのまま飛び降りた。二階だったから多少足がじーんとしびれるが問題ない。さあ走って逃走!
「いや逃がさないわよ」
走ろうとした私の服の裾を踏んづけられて足がもつれた。顔面から地面に衝突する。衝撃に目がちかちかする。
「あんたが逃げたら私がお妃教育から逃げられないじゃない」
私を転ばした犯人のブリっ子は、まだ裾を踏んでいる。
「昼間は大変だねって共感してくれてたじゃない!」
「共感はするけど逃がしてあげることはできないの」
「ひどい! ほんの少しだけ仲良くできるかと思ったり思わなかったりしたのに!」
「それ思ってないってことじゃないの!」
踏まれている裾を引っ張って何とか引っこ抜こうと試みるもびくともしない。何という脚力!
「あんたが戻ったら妃教育はなしにしてくれるって話なのよ。絶対逃がさないわよ」
なるほど、兄についてきたのは元々私を逃がさないようにするためだったのか。
「まあまあ見逃して」
「それで誰が見逃すか!」
「私の身代わりになれば晴れて国母! やったね!」
「もうそれは諦めたって言ってんでしょ!」
うーん、中々折れてくれない。というか全力で足を退けようとしてるんだけど全然動かない。本当にすごい力だな! 隠れマッチョか!
どーのこーのしている間にもう一人増えた。
「レティシア、夜中にうるさいよ」
「兄様、このブリっ子どうにかして!」
「ブリアナだってば!」
「私を逃がしてくれたら兄様と結婚させてあげる!」
自棄だと思いながら叫ぶとブリっ子がこちらをみた。
「何ですって?」
……これは、いける!
「公爵家嫡男、二十二歳、頭脳優秀、運動神経ばっちり、高身長のなかなかの美丈夫。将来は約束されていると言っても過言ではない! どう?」
「乗った!」
ブリっ子の足が外れる。
「ありがとう、あなた達のことは忘れない。兄様、ラブラブで過ごすのですよ」
「お、おい、レティシア」
「自由よー!」
叫ぶが早いか駆け出す。後ろから兄の叫び声が聞こえるが気にしない。ブリっ子、結婚に持ち込みたいなら既成事実が一番手っ取り早いから頑張ってね!
たったった、と軽快に駆けていく。
が、急に後ろから伸びた腕にお腹を抱えられる。
勢いつけて走っていたから腕が腹にめり込み戻しそうになった。
兄が追い付いてきたのか?
そう思いながらおえっとした口から手を離すと、後ろには破棄できなかった婚約者様がいた。
「レティ」
暗闇の美形の笑顔って不気味だな、としみじみ思ってしまった。
クラーク様は私の耳元に口を寄せる。
「ドレスは白は基本として、お色直しの色はどれにしようか」
それ今する話じゃないと思う。