初デート
次回に続きますー。
ひょっこり脱走できてしまった。
あっさり過ぎて拍子抜けするも、これ幸いと抜け出して今は城下町に来ている。
初城下町探索である。
屋台すごい。店の数すごい。そして人の数もすごい!
初めての経験にわくわくしながら進んでいく。活気にあふれる街並みは見ているだけで楽しくなる。
「おじさん、これくださいな!」
「あいよー」
屋台で売っていたアメ細工を購入する。初めてのお買いものだけど、どう買えばいいのかぐらいの知識はある。言われた金額を支払い、アメ細工を手に入れた。
キラキラ輝いていて美しいのに、安価だなんて。もう少し値を吊り上げるといいと思う。
もったいないと思いながらアメ細工を舐める。おーあまーい! 庶民菓子あまーい! 普段食べてるのとは別の甘さがある。
「お嬢さん」
アメ細工を堪能していると後ろから声をかけられた。
「俺とお茶でもしませんか?」
手を差し出された。これは! 噂に聞くナンパというもの!
私は睨みつけるように相手の顔を見つめたが、すぐにそれはぽかんとした顔に変わってしまう。
「クラーク様?」
「正解」
いやわかるよ。いくら町民風な服着てても毎日毎日見ている顔だもの。
「なぜこんなことを」
「そろそろ普通に捕まえるだけじゃ飽きられるかと思って」
前からなぜこの人は私に飽きられると思って変な行動をするんだろう。別に脱走は趣味じゃないからね? 本気で逃げているからね?
「そういう演出はいらないんですよ」
「そうか」
残念そうにするクラーク様。装いはいつもと違って、街で働く好青年という装いだ。いつもと違うと雰囲気も変わるな、とまじまじと見つめてしまう。こういう服も似合うなんて美形ってお得。
「レティ」
じっと見過ぎた!
はっとして顔を逸らす。あぶないあぶない。また無駄に喜ばせるところだった。
ちらり、と顔を見上げると、柔らかい笑みを浮かばれる。
「せっかくだからデートしよう」
「デート?」
「実は今日はそれを目的に逃がしたんだ」
やっぱり意図的だった。だよね、すごく楽に抜け出せたもの。兵士なんてわざと目を逸らしていたもの。
「デートとは、意中の異性とお出かけやらなにやらするデートのことですか?」
「わかっているじゃないか」
「デート……」
この間こっそり読んだロマンス小説にあったデートというものを思い出す。男女二人が仲良く手をつないで街を回り、そして最後に……ぶちゅっとしてた。
「こ、公共の場で、破廉恥行為はダメ!」
「は?」
顔を赤くした私に、クラーク様は困惑している。
「だってお話ではデートのあとすごい展開に!」
「レティシア、何を読んだんだい?」
「私には無理―!」
「落ち着きなさい」
騒いで暴れる私にクラーク様は根気よく説明してくださった。
「いいかい? あれはあくまで物語だから。そんな展開めったにないよ」
「そうなんですか」
「だから楽しく街を回ればいい」
「わかりました!」
それならいい! 街見たい!
打って変わって楽しむ気満々な私にクラーク様は微笑んだ。
「ところでレティ」
「はい?」
「何でそんなお話を読んだのかな?」
私は固まった。
口をぱくぱくする私をクラーク様がさらに追い詰める。
「あれだけ読むの嫌だっていってたのに、恋愛に興味が出た?」
「ち、ちちち違います!」
慌てて否定する。
「たたたたただ部屋にあったから暇だなーと思って読んだだけで、別に恋愛を知りたいとかそういうのじゃないです!」
必死な様子の私の頭をクラーク様は撫でる。
「うん、嬉しいね」
「話聞いてました?」
「レティシアが興味持っていたなんて」
「やっぱり聞いてない!」
違うと再度訴えても笑って流されてしまう。悔しい。
「さあ、可愛いレディ」
「歯の浮くセリフはやめて」
「俺の麗しの花嫁」
「本当にやめてほしい」
どんどん顔が赤くなるのがわかる。クラーク様がその様子を楽しんでいるのがわかる。
いつか何言われても平気な鉄仮面になってやる。
「楽しいデートをしよう」
それだけは同意なので、差し出された手を重ねた。