着たいわけではない
久々のレティシア視点。クラーク視点後すぐのお話。
今後しばらくレティシア視点のお話です。最早番外編と言うより第二章だろうか。
「ちがーう!」
「何が!? ぶふっ」
扉を開けてすぐに手にしていた物を部屋にいた人物めがけて投げつけると見事に的中した。
「何だー! 何だこれはー!」
顔に纏わりついたそれをはがそうと躍起になっているが見事に頭を包み込むようにして絡まっており、中々はがれない。その様子を見て少し気分が良くなる。
「ふん! そんなものあんたにくれてやるわ、ありがたく思いなさいよね!」
「だからこれは何なんだー!?」
取ろうともがいて少年王子は暴れ回る。せっかくの麗しい顔も見えないとただの阿呆が阿呆な行動しているだけだ。
「スケスケセクシーネグリジェよ!」
「は? ……はぁ!?」
一瞬理解できなかったようだが、数秒してすぐにわかったらしいルイ王子はさらに激しく暴れ回る。
「僕に卑猥なものを被せるなー!」
「普通に言ってよもっと卑猥なものに思えるじゃない」
「十分卑猥だー!」
ついに座っていた椅子から転げ落ちて床でのた打ち回っている。ちなみにライルはそれを助けるでもなくただただ見ている。本当にいい根性してる。
「こんなこと僕にしてただで済むと思うなよー!」
「ただで済むにきまってるじゃない。私、一応、お、おう、王太子妃なのよ!」
「いちいちどもって言うな!」
「そんなのどうでもいいでしょうが!」
どいつもこいつもいらない部分ばっかり気にするんじゃない!
「私、次期王妃。あんたただの第三王子。おわかり?」
「こいつ権力思いっきり振りかざしてる……!」
「だから私のストレス発散道具になりなさいよ!」
「お前最悪だな!」
「うるさい、あんたでちょっとおちょくって遊ぶだけじゃない!」
「やーめーろー!」
床で暴れ回っているのをコロコロ転がしてみると、不快感を主張してくる。でもやめない。ふん! 前に私を縄で縛りあげたんだからこれぐらいいいでしょう! 誘拐されたこと黙っててあげてるんだから!
「ライルー! ライル―! 助けろー!」
「すみません。私、権力に従う性質なんで」
「この役立たずがー!」
主従コンビが楽しそうにしている。仲良しだ。
それを見て少し冷静になったので転がすのはやめた。
「酔った……」
顔にまだネグリジェを張り付けたままルイ王子が言った。
「かわいそうに……」
「お前がやったんだからな……?」
「もっとやってもいいんだけど?」
「いいい、いらない! いらない!」
床に寝転んだ状態のまま、必死に首を横に振る。ふむ、仕方ない、この辺にしてやろう。
「ところで」
ルイ王子が何と上体を起こした。ライルはもちろん助けない。
「違うって何だ?」
入室時に言った言葉をしっかり聞いていたらしい。
「……違うのよ」
「ん?」
「だから、別に、私が着るとかそういうのじゃなくて、とっさに出てしまっただけであって」
「ん?」
「だから違うのよー!」
「うわあああああ」
再び転がすとルイ王子が大きく叫ぶ。
違う違う違うのだ。まだ早いとかそういうのじゃなくて、そんな言葉を言いたかったわけではなくて! そもそも着ない! 着ないんだから!
「レティ?」
「ひょえ!」
ここで聞くことがないと思っていた声が聞こえて飛び上がる。
クラーク様が扉を開けて微笑んでいる。
「俺は、逃げても追いかけると言ったけれど、男の部屋に逃げ込んでいいとは言っていない」
「ひえ」
思いっきり怒っていらっしゃる!
「男って……子供だし……遊び道具だし……」
「おい」
「遊び道具でもだめだ」
「おい」
ルイ王子がしっかり私達の言葉に反応するが、そんなのは気にしていられない。
私は迫りくるクラーク様をどうにかしなければいけない。
「えへ、ちょっと異文化コミュニケーションを図ろうと」
「そういうのは俺と一緒にやろうか」
あ、やっぱりこのいい訳じゃだめ?
あっさり近寄ってきたクラーク様に横抱きにされた。お姫様抱っこ! 俗にいうお姫様抱っこー!
「やあ邪魔したね。ああ、それはどうぞもらってくれ。俺はきちんと自分で贈るから」
贈るって何!? 贈るって何―!?
そう叫びたいも声にならない。
「では失礼」
クラーク様が部屋から出る。すたすた歩くその後ろからルイ王子の大声が響いた。
「今度から入室前にノックをしろー!」
ごもっともである。
ちなみに後日マリアからネグリジェが届いたことへのクレームをもらった。着てあげればいいと思う。