捕まえる【クラーク視点】
クラーク視点終わりです。
次回は侍女リリー視点の結婚後のお話です。
レティシアと結婚できた。その幸せを噛みしめていると余計な声が気分を害する。
「当たり前でしょう。レティシアが勘違いするように、パーティー手配して、招待客はうちの手の者にして話が漏れるのを防いで。そのあと逃げるレティシアを適当に田舎領地に行くように唆して。逃がさないよう城に囲うよう手配して。俺がここまでお膳立てしているのに結婚しないなどありえません」
「恩着せがましいな……」
ナディルの言葉にげんなりしながら言う。ナディルはとてもいい笑顔だ。
「あとはレティシアと世継ぎを作れば俺は満足です。よろしくお願いしますよ」
「ああ、レティシアがいいと言えばな」
そっけなく返すとナディルは驚いた顔をする。
「……初夜済ませてますよね?」
「していないが」
答えると口を大きく開けられた。
「レティシアがいいと言うまで手出ししない」
「嘘でしょう?」
「嘘じゃない。俺はいつまでも待つ」
俺はナディルに向けてにやりと笑った。
「下手したら、何十年も先かもしれないな?」
ナディルは悔しそうな顔をする。俺はそれに満足する。
何でも自分の思い通りになると思うなよ。
素の状態のレティシアと結婚するために手を組んだだけで、結婚さえしたらあとはいくらでも口説く時間があるのだ。子供を作ることを条件に協力してもらったが、いつ作るかは言っていないのだから問題ない。
早く王家との関係を強固なものにしたいナディルには堪らないだろう。
「恋に狂った男は予測不可能だ……」
ナディルが呟くように言った。俺はその通りだな、と思って鼻で笑った。
◆ ◆ ◆
「マリア、さ、これ着てちょうだい」
「嫌です!」
「私主! あなた侍女! はい、権力の差!」
「私の直属の雇い主クラーク殿下なので!」
マリアの反撃に悔しげにするレティシアは可愛い。ぎりぎり歯ぎしりしている。興奮して俺が入ってきたことに気付いていないらしい。間抜けなところも可愛い。
「それなら私は……お、お、王太子、妃、なのよ……!」
顔を真っ赤にさせながら自分の身分を主張している。マリアは呆れた顔をした。
「いい加減照れながら言うのやめて下さいよ……こっちが恥ずかしくなります」
「て、照れてなんて、ない……!」
「いやバレバレな嘘とかいいんで。結婚できて幸せってはっきり言ってくれた方がいいです」
「ち、違うもん……!」
「その顔は説得力ありませんよ」
違うー! と主張するレティシアの顔は真っ赤だ。なるほど、確かに説得力はない。
「マリア、あなたすごく失礼よね……」
「裏表ない性格なんで!」
にこっと笑うマリアは中々いい性格をしている。頬の赤みが大分落ち着いたレティシアが再びマリアに何かを押し付けている。
「もう、何でもいいからこれを着なさい!」
「絶対に、絶対に、着ません!」
「いいからこれ着てルイ王子悩殺してきてよ! その様子見て大笑いしてやるから!」
「ルイ殿下をからかうために私使うのやめて下さいよ!」
マリアがぐい、とそれを押し返し、レティシアもそれを押し返す。
「これ着ていけばあのわがままな少年王子は鼻血出して倒れるから! 刺激強すぎて!」
「そりゃ刺激強いでしょうね! こんだけ透けていたら!」
二人の間にぴらぴらしているものが行き来している。薄い生地のそれは、確かにまだ十三歳の少年には刺激的すぎるだろう。
「このネグリジェわざわざブリっ子から取り寄せたのよー!」
「そんなことに労力使わないで下さいよ!」
ぎゃーぎゃー騒ぐ二人に近寄る。間にあるネグリジェを取り上げた。
「あ」
二人が固まる。
「レティ」
俺はにっこりとほほ笑んだ。
「もしかして、これを着てくれるのかな?」
耳元に囁くように言うと、沸騰するんじゃないかと思うほど顔を赤くする。
「そ、そ、そ……」
言葉が出ない様子で口をパクパクしている。可愛い。
「それはまだ早いー!」
ネグリジェを俺から奪い返すとそのまま扉を開けて走り去ってしまった。駆け出したレティシアを追っているのだろう。兵士達の「妃様ぁ!」という声が響いている。
さて俺も追いかけなければ。
あとどのくらいで捕まえられるか考えながら、レティシアのあとを追った。