兄が来た
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兄が来た。
「元気にしてるか?」
「兄様! 婚約継続してるって何!?」
兄の顔を見て早々に詰め寄る。
「クラーク殿下が婚約破棄はしないって」
「はあ!? だってあの時婚約なしって……」
「良く思い出すんだレティシア。あの時殿下は婚約破棄とはっきり言ったか?」
兄に言われてあの時のことを思い出す。
ブリっ子を連れて来て、今日はエスコートできないと言われて、つまりそれは婚約を……? と聞いたらそういうことだと言われて――ん?
「婚約破棄とは言ってない……」
「そういうことだ」
「いやどういうこと!?」
「殿下は婚約破棄する気ははじめからなかったってことだよ」
「はぁー!?」
じゃあなぜブリっ子のエスコートするって言いはじめたのか。
「焼き餅を妬いてほしかったらしい」
「や、焼き餅?」
「嫉妬してほしいと」
「いや焼き餅の意味が分からないわけじゃないから」
わざわざ言い換えて伝えてくる兄に言うと、兄はにやにやした顔をする。
「殿下はお前を好いてるらしい」
「昨日そんなこと言ってた……」
「お前がまったく自分のことを見ないからと試したそうだ」
「試されてもまったくあの人のこと見なかったけど」
かけらほども興味がなかった。
「そうみたいだな。でもはじめてしっかり顔を見てもらったと嬉しそうにしていたぞ」
昨日の川でのことだろうか。確かに今まで顔も見ていなかった。結婚する気なかったから。
「知ってもらうきっかけは作れたから、好かれるのは結婚してからでいいんだと。たださっさとうちの領地の一つに引っ込んでしまう行動力に危機感を持って今準備をしてる」
「何の準備?」
「結婚式」
「いやあああああ!」
私は頭を抱えて絶望の声を出した。最悪の展開だ。逃げられたと思ったのに!
このままではまた私は釣りもできず、原っぱで寝そべることもできず、駆け回ることもできない生活に逆戻りだ。
「兄様なんとかして!」
「無理」
「そこを何とか!」
「無理」
「いやああああああ!」
絶叫する私を兄は楽しそうに見る。兄にとっては好ましい展開なんだろう、王家と関わりを持って出世するのが兄の昔からの夢だ。
「ちょっと……私のこと無視するのいい加減やめなさいよ……」
私が打ちひしがれていると女性の声がした。声の方を見ると兄の後ろに女性がいる。
「ああ、忘れてた。レティシアに会いたいというから連れて来たんだった」
「普通忘れる!?」
兄に噛みつく女性に見覚えがある。
「ブリ……ブリ……ブリっ子さん!」
「ブリアナよ!」
私にしっかりと自分の名前を伝えてくる彼女は、前に見たような男に媚びを売る様子が見られない。
「ブリっ子さん。今日はブリブリ成分ないの」
「ブリアナよ!」
「ブリっ子やめたの?」
「もうやめたわよ!」
え、やめたの?
私がびっくりしているとブリっ子は続ける。
「王子の方から近寄ってきたからいけるのかなと思ったら王子はあんたにべた惚れじゃない。私ただの当て馬よ。ふざけんじゃないわよ!」
彼女は拳を握りしめる。
「しかも、騒動を起こしたお仕置きってことでなぜか私お妃教育受けてるんだけど! 意味わからないしあれ本当にきついし何あれ! あくびとか日常的にしたら怒られるって何!? あくびぐらい人間するだろうが!」
「するわよね」
「あんたならわかってくれると思ってた!」
同意すると彼女は私の手を握ってきた。同志ということだろうか。
「あんたすごいわ。あれに十年耐えたの? 私無理。半月でギブアップ」
「あきらめずもうひと頑張り!」
「無理!」
「頑張れば王妃になれるかも!」
「絶対なれないから! だって王子があんた以外と結婚するなら絶対子供作らないって宣言しちゃってるもの」
な、なんだって!?
兄を見ると楽しそうに笑っている。
「殿下はお前以外と結婚する気はないらしい。諦めるんだな」
「いやああああああ!」
私の平穏を返して!