出会い【クラーク視点】
クラーク視点でのお話です。
あと前言ってたブリアナのお話ですが、とても長くなりそうなのとシリアス入るかもしれないので、こちらではなく、もし書くとしたら別で投稿しようと思います。予定と変更になってすみません。
つまらないな。
日々次期国王としての教育を施され、貴族のこちらの顔色を伺う様子に飽き飽きする。
毎日同じことの繰り返し。
それに加え、最近は婚約者を決めてもいい時期だとあちこちから声をかけられる。
つまらないな。
そればかり思考してしまい、ため息を漏らす。近道しようと中庭を通るとそよぐ風を感じた。
「ぐぅおおううう」
何か聞こえた。
獣かと思い辺りを見回すも何もいる様子はない。
「ぐううううう」
でもやっぱり聞こえる。
気になる音のもとを探ることに躍起になってくる。
「ぐううえんんぐううう」
この木からだ。
そう確信して一つの木の前で立ち止まる。
木を念入りに見るも特に動物が隠れている気配もない。不思議に思ってるとまた音がする。
「ぐええうんんぐううううう」
上だ!
ぱっと上を仰ぎ見ると、人影が見えた。目を凝らすとそれは小さな女の子だとわかる。
「ぐううううううん」
……音は女の子から聞こえた。
「……いびき?」
子供はこんなに大きないびきをかくものだろうか。聞いたことのないいびきに妙な感心を覚えてしまう。
それにしても、木の上で寝るのは危ない。そう判断して少女に向けて声をかける。
「君」
「ぐうううう」
「おい」
「ぐうううえ」
「起きなさい!」
「うひゃ!」
普通に声をかけても起きない少女に苛立ち少し大きめに声をかけると、少女はびっくりしたようで飛び起きる。
「あ」
木の上で飛び起きたらどうなるかなどわかりきっている。
上から落ちる小さな存在がスローモーションで近づいてくる。とっさに手を伸ばす。
「ぐふっ」
腹部に圧がかかり苦しい声が漏れる。小さい少女だが上から落ちてきたら当然重い。衝撃で閉じてしまった目を開ける。
少女はぽかんとした顔で俺を見ている。寝起きで状況がまだつかめていないのだろう。綺麗なドレスを着ていることから上級貴族だろうと思うが、こんな木の上で昼寝するようなご令嬢は初めてかもしれない。
少し眺めて怪我がなさそうなことに安心する。
少女はしばらくそのまま俺と目線を合わせていたが、ふ、と気が付いたように口を開いた。
「ありがとう!」
花のような笑顔だった。
「…………」
これまで人の笑顔は見慣れているはずなのに、見惚れた。
こんなに邪気のない笑顔を見たのは初めてかもしれない。
長いまつげに縁どられた目を細め、口元も大きく広げ、にこりと笑う。
可愛い。
素直にそう思った。
「重いよね、退くね!」
少女が自分の上からいなくなると、その重さがなくなったことにがっかりした。
「レティシア!」
大きな声がした。
「父様!」
少女が嬉しそうに声の主に駆け寄った。
「お前はまた木の上で寝たのか!」
「だって気持ちいいんだもの!」
「ここではもうだめだ!」
「ケチ!」
少女が頬を膨らませる。その頬を触りたいなと思った。
「殿下、申し訳ございません」
父様と呼ばれた人物は俺に頭を下げる。
「いや、大丈夫です」
そう答えて立ち上がる。
「娘がとんだご迷惑を。ほら、レティシア、お前も謝りなさい」
「ごめんなさい」
「気にしなくていいですよ」
微笑むと、ほっとしたように息を吐かれた。
「あなたもたまにここで寝るといいわよ。気持ちいいの!」
「こ、こら! 失礼しました。では……」
娘がこれ以上粗相をしないようにと思ったのだろう、少女の父親は少女を抱きかかえて足早に帰って行った。
「レティシアか」
父親が言っていた少女の名前を口にする。
――あの娘に、もう一度会いたい。
――あの娘に、触りたい。
初めての感情だった。胸が暖かくなる、満たされる感情だった、
胸に手を当てたまま、そこから去って王城に戻る。
父に言わなければいけない。
欲しいものができたと。