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クラーク様と話す

次回最終回です。



 無情にも扉は閉まってしまう。

 目の前には風呂上がりのクラーク様。そして逃げそびれた私。そして隣の部屋からは喧嘩しているライルとルイ王子の声がする。


「あ、あのー……」


 どうするべきかわからず、とりあえず声をかけたが言う言葉は見つからない。

 そんな私の様子に微笑みながら、クラーク様は手招きする。


「レティ」


 部屋に備え付けられている椅子に腰かけると、同じように対面の椅子に座っているクラーク様が話しかけてきた。


「ナディルが何か言ったか?」


 ナディルは兄のことだ。


「いえ……」

「そうか」

「いや……色々聞きました」

「どんなことを?」


 優しい笑みを浮かべるクラーク様。私は先ほど兄に聞いたことを思い出す。


「その、ここ最近のことは計画だったと……」

「そうだよ」


 あっさりと認められてしまった。


「俺は君に謝らないといけない」


 クラーク様が言った言葉に驚いてその目を見つめた。


「謝る?」

「そう。小さい君の自由を奪って、本当の君を出せなくしてしまった」


 クラーク様が暗い顔をする。


「でも、それは、婚約者になったらしなければならないことで、クラーク様のせいでは……」

「そうだ、そうだな。でも、それは俺が君がいいと言ったからに他ならない」


 確かにクラーク様が私を気に入ったから婚約者になった。それから今までの生活と一転して厳しい妃教育を受けることになった。


「それでもあの時婚約しなければいけなかった。当時すでに俺には山ほど縁談が来ていたし、君も公爵令嬢だ。すでに決まっていてもおかしくはなかった。急がなければ奪われると思った」


 貴族の婚約は早い。早ければ早いほど婚約は強固なものになるからだ。


「日に日に作り笑いしか返してくれなくなった君に、俺は戸惑った。どうしたらいいだろうと考えたが、思いつかず、もうすぐ結婚してしまうところまできてしまって、焦ったんだ」


 クラーク様が顔を伏せる。


「君の兄は野心家だ。確実に俺を結婚させたいはずだし、君のことをよくわかっている。だから、相談した」


 クラーク様は顔を上げない。


「レティシアの仮面を外すのはどうしたらいいかと。君に俺を認識させるにはどうしたらいいかと」

「それがあの偽恋人を連れてくることだったんですか?」

「そうだ」


 クラーク様は俯いたまましゃべっている。


「私に恋人が出来たと知れたら、君は喜んで婚約破棄を言いだす。そうすれば、君はもう王子の婚約者をしなくてもいいから仮面を剥がすはずだ、というのがナディルの計画だった」


 兄はどこまで人の行動が読めるのだろうか。我が兄ながら恐ろしい。


「閉じ込めたのも?」

「君は全力で逃げるからそうした方がいいと。公爵家としても許可すると言われた」


 聞けば聞くほど兄の掌の中だ。


「手付きにしてもいいと言われたが、そんなことはとてもじゃないができなかった」

「それに関しては全力で感謝を申し上げます」


 手を出されなくてよかった。


「当たり前だ。そんなことをしたら、君は永遠に得られない」


 ようやく顔を上げてくれた。


「あの」


 私はクラーク様を見つめたまま話す。


「私、恋だの愛だのって、よくわからないんです」

「うん」

「だから、とても時間がかかると思うんです」

「うん」

「そ、それに、自由への憧れも捨てきれないんです」

「うん」

「たぶん、ふとした時に逃げてしまうかも」

「うん」


 クラーク様は柔らかく笑う。


「いつまでも待つ。結婚したら公務はしてもらわないといけないが、それ以外は自由に旅行もしていいし、君の望む通りにする。逃げるのは困るな……追いかけてもいいだろうか?」


 クラーク様が見つめてくる。私は覚悟を決めた。


「はい」


 クラーク様は驚いたように目を見開いた。


「いいのか?」

「はい」


 私は意を決して、テーブルの上にあるクラーク様の手を握る。


「クラーク様と結婚しなくても、誰かと結婚しなきゃいけないし。それならクラーク様がいいと思います。正直言うなら顔も声もタイプです。あと、強引なのに、私に甘いところとかも嫌いじゃないです」


 いい加減、覚悟を決めた。

 恋だ愛だはまだわからない。でも待つと言ってくれたこの人を信じよう。

 クラーク様は目を見開いた顔から、徐々に破顔した。

 それは小さい頃のかすかの記憶にある少年の顔に、良く似ていた。



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