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誘拐されている



「その時のマリアはとても天使のようで僕の手を握り微笑んでその笑顔を見て僕は見惚れてしまってこれほど美しい人がこの世にいるのかと思うほどで」


 滅茶苦茶しゃべる。私は後悔していた。

 マリアとどういう関係か聞いただけなのに、まるで少年は恋物語を読み聞かすかのように長話を始めてしまった。かれこれ一時間ほどは独壇場でしゃべり続けているのではないだろうか。

 げっそりとした顔をした私は隣の青年を見ると彼も同じような表情をしていた。


「マリアの手はとても小さくすべらかででもその時僕はまだ幼かったから僕の手を全て包み込んで」


 しかもこれだけ話が長いのにかけらも話が進んでいないのだ。今のところ少年の話からわかるのは、『マリア大好き』ということだけである。

 私はげっそり顔のまま、青年に言った。


「このお話、要約してもらえませんか」

「そうですね……」


 永遠に終わらなそうな様子に提案すると、青年は頷いた。


「この方はデルバラン王国の第三王子ルイ殿下です。二人の出会いは今から五年ほど前。殿下が八歳、マリア様十二歳で、彼女は我が国の伯爵令嬢でした」

「まさかのお貴族様だった!」


 衝撃の真実に驚いている私を気にするわけでもなく、青年は続けた。


「マリア様は王城に行儀見習いに来ていたのですが、そこでルイ殿下に気に入られ、すぐに打ち解けられました。二人とても仲良く、姉弟のようだと城内の者はみんな微笑ましく見ていました」

「違う! そこは恋人同士のように、に訂正しろ!」


 こちらが話していても気にした様子もなくしゃべり続けていた少年が、器用に単語だけを聞き取り言い直しを要求した。


「……恋人同士のようだと城内の者はみんな微笑ましく見ていました」


 青年がとても嫌そうな顔で言い直したが、少年は満足そうに踏ん反り返る。その言い方で満足なのだろうかと呆れてしまった。

 呆れた顔をしている私に向き直ると、少年は今度は私に対して怒り出した。


「僕がマリアとの話を語っているのに、聞かないとはどういうことだ! きちんと聞け!」

「だって全然要領を得ないんですもん」

「まだまだ語り足りないというのに」

「もう十分でしょう。このままだと何も対策など考えられない間にそちらの国に着くのでは?」


 私が指摘すると、少年はむっとした顔をしたが、仕方ないと呟いて黙った。本当にしっかりしてほしい。このまま何の相談もできずいきなりそちらの国についたら口裏合わせもできず、あっという間に国際問題だ。

 少年――ルイ王子だったか。ルイ王子が落ち着いたのを見て、青年は話を再開した。


「仲の良かった二人も、引き離されることになりました。マリア様のご実家が投資に失敗して没落したのです。伯爵は没落寸前で酒の飲み過ぎで亡くなり、マリア様のお母様は、出身だったそちらの国に、マリア様を連れて帰ってしまわれました」


 波乱万丈だ。マリア、貴族の恋愛話の前に、あなたの人生の方が小説にできるぐらいの話だよ。


「その後は殿下はもう荒れに荒れて大変でしたよ。大人になったら会えると宥めすかしてからは早く一人前と認められてマリアを迎えに行くと言われて勉学も公務も人一倍取り組まれておりました」

「褒めてもいいんだぞ!」

「絶対いや」

「無礼者!」


 ふふん、と自信満々にするルイ王子にはっきりと意思を伝えるとまた怒り出した。この子怒りっぽい。どこが大人?


「マリア様がそちらの国の王城で侍女をしているのを突き止めた殿下は、もう大人になったと主張してマリア様を迎えに行くと仰られました。丁度いい所に、ルイ殿下にパーティーの招待状が届いていたので、その場で攫って行けばいいと殿下が主張してこのような事態に」

「何でそこで攫おうと思った?」

「一石二鳥だと思ったからだ」

「どんな理屈!?」


 悪いと思っていなそうな顔のルイ王子に言うが、王子が堪えていない。逆に青年は頭を抱えた。


「そう思いますよね? 私ももちろん反対したんですよ? でも主張変えないんですよこのアホ王子」

「アホとはどういうことだ」

「そのままの意味です」

「おいこら!」

「あ、私殿下の従者のライルです」

「あ、どうも」

「自己紹介するな!」


 ライルから差し出された手を握り返すと、ルイ王子が怒鳴る。少し落ち着いてくれないだろうか。


「まあ、とにかく、事情はわかりました」


 私はルイ王子を見た。


「完全な片思いですね?」

「ち、違う!」


 違うと主張するルイ王子は慌てたように手を振り回す。


「決して男として見られていないとか弟と思われてるからとりあえず攫ってどうにかしようと何か考えていない!」


 それ考えてるって言っているようなものだけど。

 かわいそうなものを見る気持ちでルイ王子を見ていたらそれがわかったのか、ルイ王子は姿勢を直した。


「ルイ王子がかわいそうな少年なのはわかりました」

「少年と言うな」

「大人に見られたいお年頃なんですね?」

「やめろ」


 本気で嫌そうな顔をされた。この少年には素直さが足りない。


「まあ、そちらの話はわかったので、これからどうするかの話なのですが」


 ようやく本題に入れると、口にすると、二人はごくりと唾を飲み込んだ。


「とりあえず、私の縄を外して頂くことから始めましょうか」



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アスタール王国に留学に来た、遠国の王女・アビゲイル。

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