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公務に戻れない



 誘拐されてしまったと認識してすぐに目に入ったのは見目麗しい少年だった。

 私を見た少年は驚いた顔をしており、その綺麗な口を開いた。


「だ……」


 少年の口は震えている。


「誰だお前は」


 誘拐犯に、誰かと訊ねられるとはどういうことだろうか。

 私はしゃべろうとしたが、もがもがとするしかできないことに気付いた。猿轡されてる!

 怒りを伝えようと精一杯声を出すが、ふがー! もごもご言うことしかできない。

 美しい少年は私を気にすることなく、私の隣にいる人間に声をかけた。というか私の隣に人がいたのか!


「え……連れてこいと言われた人ですけど……」


 隣の青年はさも当然といった様子で答えた。苛立った様子で少年が舌打ちする。


「これの! どこが! 頼んだ人間なんだ!」


 これと言われた。いらっとするから訂正しろ。


「だって……殿下が頼んだ特徴そのままですけど……」


 青年が納得いかない様子で言う。少年は私を一瞥して荒い仕草で顔を逸らした。


「髪色などの特徴は確かに合っている。だが、全然! 全然! 違う!」


 そんなに力を入れて言わなくても、と思いながら少年を見つめる。少年はまた私を見ると舌打ちした。


「これの! どこが! マリアなんだ!? あの愛らしさがかけらもないじゃないか!」


 おい、おい、訂正しろ。私は愛らしさ満載だ。訂正しろ。

 だが状況が飲み込めた。どうやら私はマリアと間違えられて攫われたらしい。はた迷惑なことである。


「じゃああんたが自分でやればいいだろうが……」


 ぼそりと低い声で青年が呟いてぎょっとしてそちらを見る。どうやら少年は聞こえなかったようでそのまま喋り続けている。


「どうやったらこのちんちくりんと可愛いマリアを間違えるんだ! 目が腐っているのか! 使えない奴だ」


 訂正しろ! ちんちくりんを訂正しろ!

 散々な言われように、ふがふがと文句を言うが、なかったことにされる。訂正しろ!


「でも現実問題間違えて連れてきてしまったんですから、どうしようもありませんよ。どうするんです? そもそもそんなに言うならなぜ馬車に乗せた時に気付かないんです?」


 青年が言うと少年はぎり、と歯ぎしりする。


「とにかく早く離れなければと思い、あまり確認しなかったんだから仕方ないだろう! ……そもそもこいつは誰なんだ」


 ええええー、今更―?

 ちらりと少年に見られて、ふがふがと自分の名前を言おうとするが、やはり通じない。青年と少年は目を合わせる。


「……とりあえず、情報がないといけませんね」

「そうだな……」


 少年が頷くと青年が私の口から巻いていた布を取った。ぷはっと息を吸い込む。私は少年をきっ、と睨みつけた。


「今すぐ戻してください! あなた、殿下と言われてたってことは、どこかの国の王族なのでしょう? 大問題になりますよ!」

「下っ端貴族を誘拐したぐらいどうとでもできる。お前名前を名乗れ」


 ええい! 偉そうな小僧め!


「ドルマン公爵の娘、レティシアと申します。クラーク王子の婚約者です」


 不本意だけどね!

 私が言うと、二人はぽかんと口を開けて、すぐさま真っ青な顔になった。


「お、王子の……婚約者……」

「そうですけど」


 むすっとして答えると、二人は青ざめたまま固まる。


「だから言ったでしょう。他国の王族が、友好国の王族の婚約者を攫うのがどういうことになるかわからないほど馬鹿ではないでしょう?」


 この二人はあのパーティーで誘拐を行ったのだから、招待している友好国のどれかの王族のはずだ。私が言うと、二人は顔を見合わせた。


「どうする? 今戻ってどうにかなるか?」

「いや、ならないでしょう。婚約者がいなくなればすぐに騒ぎになっているはずですから」

「そうだな……」

「もういっそ、そこに捨てましょうか」

「そうしよう!」

「待て待て待て待て!」


 青年の提案に少年が目を輝かせたのを見て止めに入る。


「あんた達、まさかこんな鬱蒼とした道で、綺麗なドレスや宝石を身に纏った女を捨ててどうなるか予測できないわけじゃないでしょうね!?」


 山賊に襲われて終わる未来を迎えるわけにはいかない。私は必死で二人に訴えるが、二人は顔を見合わせると、頷き合う。


「自分達や国がどうにかなるならそれでもいいかな」

「人でなしー!」


 いやー! と叫び抵抗するも、相手は男二人。しかも私は後ろに手を縛られている。抵抗らしい抵抗もあまりできずに二人に抱えられる。まずいまずいこれ本気なやつだ!

 私はパニックになる頭で必死に考えた。死ぬ死ぬ死ぬ! あ!


「マ、マリアの居所知ってます!」


 さあ投げ飛ばすぞ、という体勢で男二人がとまった。


「…………嘘じゃないな」

「嘘じゃない嘘じゃない毎日会ってる!」

「なに!」


 私の言葉に男は私を再び馬車の席に戻した。ほっと胸を撫で下ろす。

 少年はそわそわとしており、青年はどうでもよさそうだ。マリアを目的としているのはおそらくこの少年のみなのだろう。

 私は心の中でマリアに謝りながら、とりあえず縛られて痛い腕を早くどうにかしてくれないだろうかと思った。



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