逃げ道探し
感想欄の方に一言「よくわかったね!」
昼間の会話のせいで胸がもやもやする。
いやいやそんな気分になっている場合じゃない、と首を振る。
もうすっかり日も暮れ、マリアもこの部屋にはいない。一人きりの夜。邪魔者はいない。
そうなればやることは一つに決まっている。
「さあ、気を取り直して隠し扉探しよ!」
この部屋が城のどの辺りにあるかはわかっている。連れてこられる時に目隠しなどされなかったのだから当然だ。
そして私は城の構造はおおよそ把握している。残念ながら王家の秘密の場所などもあって全てではない。ちなみにこの部屋も秘密部屋だったようでどんな部屋かは地図に載ってなかった。ただの倉庫とカモフラージュされていた。
でも、この部屋の隣の部屋は違う。隣の部屋にはこの物置部屋に続く隠し扉があるはずなのである。
つまり、向こうから入れる隠し扉なら、こちらからも入れるはずである。
「ふふふふ、私も舐められたものね!」
そんな部屋の隣に監禁するなんて、逃げてくださいと言っているようなものである。
さあ、愛しい扉ちゃん、どこかしら。
うろうろきょろきょろするも見つからない。そりゃそうか、隠し扉だもの。
まず床を調べようと這いつくばってみる。
「お!」
床に小さな扉を見つけた!
ちょっと重かったが、気合を入れてその扉を開ける。
「……床下収納」
便利なものを監禁部屋に作るな!
悔しく思いながら扉を閉める。
「あとは……」
きょろきょろ見回す。怪しいとしたら……
「本棚、かなぁ」
呟きながら本棚へ向かう。
隠し扉があるはずの部屋の壁にある本棚。見るからに怪しい。
そして本棚にある本も中々に怪しい。
「見事に恋愛物ばっかりなのよね」
王子の仕業だろう。私は恋愛小説は好まない。これ読んで勉強しろってことか? 色恋事に目覚めろってことか?
意図がよくわかりイラっとしたため一度もここにある本は読んでない。これからも読む気もない。
そのまま本棚を動かそうと思ったが動かない。そりゃそうか。
「たぶん仕掛けがあるのよね」
何とか仕掛けを探そうと本棚を調べる。見事に本のタイトルはラブロマンスを思わせるものばかりだ。
嫌な気分になるが調べなくてはいけない。
ひとつひとつタイトルを確認していく。
「ん?」
一冊だけ他と違うのがある。思わずその本のタイトルを口にする。
「クラーク王子の日記帳……」
あ、これたぶんヤバいやつだ。
そう思ってスルーしようとするも、嫌に目に付く。
ちょっとだけ、ちょっとだけ、覗いてみようかな……?
何か弱み握れるかもしれないし、と思ってその本を手に取る。
カチ、と音がした。
「え?」
思わず声を出すと、一瞬の間に本棚が横に動く。そうして現れたのは隣の部屋だ。
なにこれかっこいい仕掛け!
ちょっと感動しながら手にした本を向こうの部屋に放り投げる。
高まる胸の鼓動を押さえながら隣の部屋に飛び込んだ。
「やったー!」
冒険物語の主人公になった気分で楽しい。隠し扉見つけるとかすごいわ私!
嬉しい気分のままさっさと出ようと部屋の扉の方を見て固まった。
「く、クラーク、様……?」
王子が微笑みながら扉の前で佇んでいる。
「やあレティ。思ったより遅かったね」
クラーク様は私の方に歩み寄ってくる。
私はクラーク様が一歩近づくたびに後ろに下がる。
「俺の日記を投げ捨てるなんてひどいじゃないか」
こちらに向かってくる途中で、私が投げた日記帳を拾いあげる。
「な、なぜこんなところにクラーク様が?」
「レティシアがきっとこの隠し扉を使うだろうと思っていたからに決まっているじゃないか」
あわわわわわ怖い怖い!
徐々に迫るクラーク様に恐怖を感じる。
「可愛いレティシアが自分から来てくれるなんて最高だろう? だからわざわざこの部屋に俺も移ったんだ」
部屋を見れば確かにベッドやテーブルが確認できた。
そしてついに、トン、と壁に追いやられてしまった。
クラーク様は私を壁に追い込んだまま、こちら側の本棚から一冊の本を取った。
静かに本棚が閉まっていく。
退路を断たれた!
真っ青な顔の私の耳元でクラーク様がささやいた。
「さあ、レティ、夜は長いからね」
公爵令嬢レティシア、おそらく今が人生最大のピンチです!