2 奇特
リラとシトの二人は、衛士から教えてもらった、いわゆる不動産会社のような建物のすぐ近くに立っていた。周りの建物よりも少し低く出来ている。居住する建物では無いからか。建物の前には、木で出来た看板が立てられている。砂で汚れて文字は読めないが、指さされた場所の付近にそれらしき建物は見当たらなかった。ここなのだろう。それ以外は何も変わった所は無い。町を囲む城壁と同じ、赤身がかった茶色をした外見。窓ガラスの入っていない窓枠。そこから中を遠目に覗いてみる。
「・・・ここからでは中に人がいるのかよく分かりませんね・・・・・・ここにいても仕方ありませんし、中に入ってみましょうか。どこに人が住んでいるのかが分かりませんし・・・以前のようにはいきませんね。あまり顔見知りを増やすのは得策では無いですが・・・兄上、行きましょう」
そう小声で囁くとリラはシトの手をぐっと引っ張り、建物の方に向かった。
周りの建物には無かったが、この建物には木の扉がついていた・・・といっても、土壁の建物のためか、釘などは使っておらず、実際には≪人が通れる穴に木の板を立て掛けた≫だけのものとなっていた。そもそもこの町に、釘などといった物があるのかが分からない。衛士は剣と槍を持っていたが・・・
二人は板を横にずらし、中に入っていった。
「・・・ごめんください・・・どなたか・・・」
中に入って周りを見渡す。建物の中には机が一台に椅子に両側に一脚ずつ。机の上には部屋の情報と思われるチラシが散らばっている。人が来ないのだろう・・・少しホコリが舞っている。
「どなたか・・・」
もう一度リラが呼んでみるが、返事は無い。あまりに人が来なくて、ここで紹介をしていた人もいなくなってしまったのか。思うとこの町に来てから衛士しか見ていない。
「仕方ありませんね・・・」
リラはそう呟くと、机の中に散らばったチラシに近づき、目を向ける。書いてあるのは、今いる建物からの方向や目印といった大雑把な場所が書かれているのみ。間取りも、距離も、建てられてからどのくらいの時間が経った建物なのか。そんなものは書かれてい、随分と簡単なチラシだった。
「ここを仮住まいにしますか・・・まあどのくらいここに滞在するかも分かりませんし。とりあえず・・・」
そう言うと、リラは一番上にあったチラシを引っ張り、ホコリを払うと。
「楽しみですね」
シトの方を向き、微かに笑った。喋るトーンは相変わらずだが、少し表情が緩んだ。これから起きるかもしれない困難よりも、これから始まる、何が起こるか分からないこの町での暮らしにワクワクしてるような、そんな感だった。シトは表情を変えず、ゆっくりと頷いた。
二人は建物を出ると、地図に書かれた新住居に向かっていった。