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始まりの始まり。
「兄上・・・兄上・・・起きてください」
兄上と呼ばれた少年はゆっくりと目を開ける。寝惚け眼をこすりながら体を起こし、ゆっくりと周りを見渡す。
折れた木の板や砕けたコンクリートブロック、不格好な形に部屋のいたるところに張られた蜘蛛の巣。ヒビの入った開かない窓ガラス。木の板を立て掛けただけの玄関。いつも通りだ。
たまに入るすきま風が体を撫でていく。
自分が目覚めたコンクリートの箱の中身に異変が無い事を確認した少年は、目の前にいる声の主に視線を向ける。
「兄上、起きられましたか・・・・・・そろそろ時間です」
目の前にいる声の主・・・少女は小さな声で。しかしはっきりとした口調で。抑揚のあまりない調子。変わらない表情で。話しかける。
「・・・・・・・・・分かりました」
少年はその少女の発言の意味を理解し、動き始める。
雑に積み上げられた参考書や小説の類。
食べかけのパンや、少し濁った液体の入ったペットボトル。
一部刃の欠けたカッターナイフやハサミ。
穴のあいたビニール袋。
表面を覆うガラスが壊れた方位磁針。
それが必要か、必要ではないか。そんなものは二人には分からない。誰にも分からない。
チャックの壊れた肩掛けカバンに雑に詰め込み、背中に背負う。小さくジャンプし体勢を整え、少女のいる方向を向き直す。
少年の行動の一部始終を動かず眺めていた少女は準備が出来た事を確認し、少年の目を見。
「では兄上。参りましょう。」
玄関をふさいでいた板をゆっくりと二人で動かし、目の前に広がる-----------
誰が敷いたのか分からない、一本道を手を繋ぎ、歩き始める。
この先には何があるのか。誰がいるのか。この道は続いているのか・・・そんなもの、知る由も無い。