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この物語の世界観「大和、砂の海を行く」2

 四年前の春、深宇宙探査船「大和」が就役して以来、大東はこの日本が誇る宇宙船の艦長の任に着いている。艦長就任時にはインタビューが殺到し、自宅までマスコミに取り囲まれていたほどだが、二番船である武蔵が就役してからは大東への取材も落ち着いた。インタビューでは大和という艦名をどう思うかという質問が必ず出て、その度に大東は艦ではなく探査船だと訂正せねばならなかった。(もっとも大東自身「宇宙戦艦」という呼び名は嫌いではなかったが)

 第二次世界大戦時に大日本帝国海軍のみならず、日本を象徴する巨大戦艦であった大和と武蔵。この船の名を決めるのあたって、諸方面から反発があることを十分承知しながらも、世界初の巨大宇宙巡行船にその名を冠したいという欲求に抗うことは、政治家にとっても軍関係者にとって難しかったようだ。

 大和の指令室には、大東艦長言うところのほどよい緊張と弛緩を生み出し安定的な航海に資するための補給措置が実施されている。つまり若干の緊張と刺激をもたらすカフェイン入りの飲み物と糖類を主成分とする菓子が供されているのだ。時刻は日本時間の10時を数分回ったところ。10時のおやつというわけだ。宇宙空間の航海は景色も単調で時間の感覚が失われがちだ。10時と3時のおやつタイムは航海の緊張感と地球時間の感覚を保つためでもあった。今、大和は地球上を、まるで火星に来たかと錯覚しそうな赤茶けた大地の上を300メートルの高さで飛んでいる。無論もっと高く飛ぶこともできるのだが、あまり高い空を飛ぶと民間航空機の領域を犯すことになるし、もっと高く飛ぶと地上の人々は大和の姿を見ることができない。宇宙の開発と探査という目的以外に、大和にはもう一つ大きな役割がある。外交だ。その巨大で美しい艦が大空を行く様は、ナイアガラの大瀑布やグランドキャニオンなど、地球上で見られる大自然のスペクタクルに匹敵する。友好国の国家的イベントなどに参加することも多く、その威容を見せつけ、圧倒し、魅了することは大和の重要な任務の一つとなっている。地上に降りて艦内遊覧まではできないが、外から眺めてもらうぶんには何の問題も無い。外見からでは大和の最先端のテクノロジーや極秘事項、「探査船」を名乗るには少々度が過ぎるほどの重火器の存在などは窺い知ることはできない。軍の全面協力により精密に再現されているという謳い文句のタミヤ製プラモデルでは船員リラックスルームとされている場所に本当は何があるか、艦内工作工場とされるスペースに本当は何が収納されているかは軍の極秘事項である。

 大和の船体下部、船底にあたる部分には小さな棘のようなポールが突き出ており、日本国旗と国連旗、今領空を航行中のデイラバンドーラ国の旗がはためいている。国連の要請に基づきデイラバンドーラの許可を得て航行中であるというアピールだ。それに低く飛ぶのは地上の情報を集めやすいという利点もある。目的地に到着するまでにある程度現地の情報を集めておくに越したことはない。

「わぁ美味しい。玉露でしょ?」

鬼士武官の怜門夏乃子が湯呑のふちに鼻を近づけて言う。

「高いでしょう、これ?こんなのお父さんの家でしか飲めないなぁ。大和は装備品も賄い材料も贅沢ですね」

瞳の色が茶色から秋の稲穂のような色に変わる。瞳の色を読まれるのを嫌ってコンタクトレンズを入れたり室内でもサングラスをかける鬼士もいるが、この女鬼士は気にしないようだった。

「艦長用の茶葉ですからね。グラム50円の高級品だってことはどうか内密に。市民監査団体の相手をするのはごめんですので」

 副艦長の木戸が白いコーヒーカップを手にしたまま言う。軍属ではなく防衛省キャリア組で、緑茶が苦手とかでいつも砂糖を大量に入れたコーヒーを飲んでいる。脳に燃料を注ぎ込んでいるイメージなのだろう。

「50円かぁ。私だったら神戸ビーフのランチを食べるんだけどな」

 神戸出身の夏乃子はお茶受けの豆大福で頬を膨らませながら、ナイフとフォークで肉を切る仕草をしてみせた。こういう気取りの無さも早い出世の要因の一つなのだろう。鬼士としての腕っぷしはもちろん、頭が良くて実務能力が高い。愛嬌もある。おまけに父はあの怜門龍彦だ。女性初の鬼士院長候補と言われるだけのことはある。

「お茶っ葉くらいいくらでも買えるだろう。鬼士なんだからそれなりに貰ってるだろうに」

 大東の言葉に瞳に色が途端に黒くなり、

「そりゃまぁ額面だけは貰ってますけど、余裕ありませんよ。上の子の留学費用に、真ん中が今年から練成院でしょ。家のローンもあるし。共働きで良かったですよ、本当に」

 乗組員調書によると夏乃子の夫は鬼筋ではなく普通の人間だそうだ。地元の私立大学で準教授をやっているらしい。二人の間には子供が3人。長男には虫が憑かず、今は海外に留学中、長女と次男は虫持ちで長女が今年から神戸錬成院に入学している。夏乃子はマラネリア・デイラバンドーラ国境付近で活動中の鬼士ゲリラの調査のために乗り込んできた鬼士武官の一人で、ゲリラ調査が終わればそのまま月面基地「白兎」へ行政副長官として赴任することになっている。二年間の単身赴任となる予定だ。それにしても四十半ばの年で行政副長官とは大したものだ。これまでは鬼士が月に赴任するといえば月面警察か駐留している宇宙自衛隊への出向だったのだが、時代も変わったものだ。

 唐突に、外の星海を移していたスクリーンに当直の監視員の顔が映り込んだ。

「艦長、センサーに対人反応があります。10時の方向、距離2万です。モニターに出します」

 岩山の影で蠢く人影がモニターに映し出される。

「ゲリラっぽいですね」

 木戸が半分ほど飲み干したコーヒーに砂糖をつぎ足しながら言う。

「人数は8名、犬が1頭います。武器は旧式のライフル、拳銃、山刀、ナイフなど。反政府ゲリラのようです。ごく微弱で、途切れ途切れなのですがM型波長を検知しました。結構磁気が強いので誤検知の可能性もあります。デイラバンドーラのデータベースに照会しますか?」

「まだ照会はするな。どう思う怜門君?例のゲリラの一味だと思うかか?鬼士が率いてるっていう―」

「うーん、違うと思う。ねぇ、カメラもう少し寄れない?」

 夏乃子の瞳が今度は青みがかった灰色に変わる。映像が滑らかにズームアップする。

「ゲリラはゲリラね、誰がどう見ても― でも、ちょっと違う気がするな。国家組織を主張したりする連中特有の冷酷でしたたかな欲望色がないんだよね。ま、単に下っ端って可能性はあるけど」

「鬼力はどうだ?何か感じるか?」

「えぇ、多分―」

 夏乃子がモニターを指さす。

「この、真ん中の子、そうじゃないかな。とても微妙なんだけど」

 クタクタの鍔広帽を被った若い男だった。横で双眼鏡を覗き込んでいる少年に何か話しかけている。

「行って確かめましょうよ。もし、ただの理想主義的ゲリラもどきなら放っておいてやりましょう。この国には必要なんですよ、そういう熱が」

 木戸が嬉しそうに言う。キャリア官僚には珍しくチャレンジ精神旺盛なのだ。年の割に出世が遅いのはそのせいかもしれない。

「それが早いわね。艦長、よろしいでしょうか?」

 大東は頷きながら

「壱型で行け。二人とも防護シールド着用だ。いいな?」

 夏乃子と木戸が敬礼をして指令室を出ていく。

 防護シールドって何か印象悪いのよね。あれ界面が光って見えちゃうし。何かこう、親しげに微笑みながら実はあなたから攻撃されないか疑ってます的なさ―

 夏乃子の声が徐々に廊下を遠ざかっていく。大東は、夕食の時にでも夏乃子に、自分がしゃべらずに相手にしゃべらせるのが良い行政官だとアドバイスしてやろうと思った。



 世界初の巡行型宇宙船は大和、二番船は武蔵と名付けられた。そして世界初の宇宙遊撃艇、平たく言うと宇宙戦闘機は零式ではなく零型という。当然ながら第二次大戦時の名機にして日本の技術力の象徴でもあった「三菱零式戦闘機」通称「零戦」の名を冠したかったのだが、航空自衛隊が重力制御機構を搭載した戦闘機を先に出してしまったのだ。「風神-零式」という。元々零戦の零とは皇紀二六〇〇年製、つまり「零年式」という意味だ。実は「風神-零式」も宇宙自衛隊の「星嵐-零型」も、和暦、西暦どちらで見ても零年製ではないのだが、零戦という名前への憧憬はことのほか強く、「ここを起点に零から始める」とか屁理屈をこねて零の名がつけられた。もっとも、昨年新型の「星嵐-壱型」が出でしまい「零型」は旧型機になってしまったのだが。

 大和と武蔵を比べてみると、実は二番船の武蔵の方が性能的には上である。船の全長、速度、乗組員数、武装、搭載遊撃艇の数、居住性に至るまで、すべて武蔵が大和を上回っている。大和からフィードバックされる形で様々な改良がなされているので当然と言えば当然なのだが、それでも人気という意味では大和の方が高い。職業軍人である自衛隊員の間でさえ「やはり一度は大和に」という声が高い。大和といい零戦といい、名前というものは恐ろしいものだ。

「G-CON付きの飛行機って、何だか気持ち悪くならない?あれに似てるのよ。遊園地にあるスクリーンの映像だけグルグル動いて、座った椅子がガタガタ揺れるやつ」

 夏乃子は操縦稈を右の掌で操りながら少し顔をしかめる。木戸は後部座席から夏乃子の少女のような白い首筋を眺めながら答える。

「私はこの方が楽ですね。ヨーヨーみたいに振り回されるとすぐゲロッちゃいますから」

 夏乃子が笑いながら振り向いて

「あたしの襟首に戻す気じゃないでしょうね。ごめんだからね、あんたがさっき食べた未消化のカツカレーまみれになるなんて」

「ゲリラの連中は?」

「動かないね。こっちの機影は見えてるはずだけど」

 壱型はすべるように滑らかな動きでゲリラのいる岩山へ向かっている。大和には宇宙遊撃艇だけでなく有翼型の戦闘機も搭載されている。重力と大気が存在する地球上では有翼機の方が扱いがいい場合もあるのだが、ゲリラを必要以上に刺激せず近づき、岩山の上にピタリと停止させるにはやはり壱型を使うしかなかった。コクピットの風防ガラス越しにゲリラの様子が肉眼でも確認できる距離になった。鍔広帽の男は呑気に手を振っている。足元の犬も元気いっぱいに尻尾を振っている。全部で男6人。武器は持っておらず、後ろの岩に小銃が6丁、拳銃が7、8丁。発射するのを躊躇ってしまいそうな古ぼけたロケットランチャーが1つ。あとやたらと綺麗に研がれたナイフや山刀が小山を作っている。

「敵意はないということね」

「ほんとに?心を読めます?」

「あたし読心は苦手なんだけど― 怯えてはいるけど敵意は感じないな。騙してる色も無い」

「でも相手も鬼士なら心を偽装してるかも。とにかく彼らの前に体を晒す前に防御シールドを張ってくださいよ」

「分かってますって」

 夏乃子が岩山の上、ゲリラの一団から20メートルほど離れた場所にふわりと壱式を浮かべる。

「後ろ向きに― 機体を遮蔽物にして降りましょう。降りたらすぐシールドオンですよ?!」

「分かってるって。意外と慎重だね君。司令になれないのは別の理由だったのかな?」

「あ、今さりげなく傷つくこといいましたね?」

「開けるよ」

 声と同時にシュウッと音がして、キャノピーが滑らかに開く。夏乃子が地上に飛び降りる。壱式は山肌ぎりぎりに停まっているが、機体の大きさがあるので、下まで2メートル以上ある。木戸は慌ててラダーを下ろしながら、

「怜― 武官、シールドっ!」

 夏乃子はにこりと笑って木戸を振り返る。ゲリラにも聞こえる良く通る声で

「要らないわよ、シールドなんて。彼らには攻撃の意思はないわ。木戸君も早く降りといで」

「武官、トランスマン付けてませんよ?バンドラーンズ、喋れないでしょ?ちょっと!?」



「大丈夫か?」

 ガトゥーラが囁くように言う。声が不安で掠れている。ここにいる全員が、間近に宇宙戦艦や重力制御機能を持った飛行機を見るのも初めてなのだ。情報として知っている。動画も見たことがある。しかし初めて目の当たりにした本物が持つ迫力は圧倒的だった。巨大な飛行船のように上空に留まっているヤマト。目の前に舞い降りてきた宇宙戦闘機。言葉など必要としない、あまりにも圧倒的な力の差に、理由もなく泣きじゃくりながら謝ってしまいたい気持ちになる。

「心配ない。俺たちを攻撃する気があればとっくにやってる」

 そう言って、トビュエラは自分の声も震えていることに気づいた。しっかりしろトビー、そんなことでこの国を変えられるのか?

 自分と同い年くらいの女性士官が少しはにかんだようなジャパニーズスマイルを浮かべながら近づいてくる。まだ女学生といった表情をしているのに胸に付けた階級章は上級士官のものだ。日本人は若く見えるという点を差し引いたとしても目の前の女性士官は若すぎる。つまりゴブリン、日本語で言うところのキシなのだ。若く見えるだけで実際は自分よりもずっと年上なのだろう。

「彼女、キシだ」

 緊張で赤ら顔になっているガトゥーラに向けて囁くが、ガトゥーラは聞こえているのかいないのか返事をしなかった。女ゴブリンは丸腰だ。いや、きっと丸腰に見えるだけなのだ。ドラえもんと同じでいざという時は異次元ポケットから武器を取り出してくるのだ。

 女ゴブリンは後ろからついてくる男性士官に何事か声をかける。男の方は人間らしい。あからさまに自分たちを警戒しているし銃も持っている。ゴブリンの手前、銃はホルスターに収まったままだが、いつでも銃を抜けるよう右の掌は軽く開いたまま、不自然な恰好で脇に垂らされている。砂漠の太陽の光が男の体の周りで球形のガラスのように反射する。シールドだ。備えは万全というわけだ。

 トネビュラは両手を広げて声が震えないように注意を払いながら、できるだけ穏やかに聞こえてくれるようゆっくりと話しかける。

「武器は持ってない。あんたたちと戦うつもりはない」

 男の方がゴブリンに何事か伝えた。ゴブリンが何か返事をして、男は渋々といった感じで付けていたモノクルとインカムを外す。コードで繋がった手のひらサイズの端末といっしょにゴブリンに手渡す。ゴブリンはゆっくりそれを装着した。女ゴブリンは五メートルほど間を取って立ち止まった。

「こんにちは」

 日本語を発したと思ったら、ワンテンポおいてバンドーラ語の合成音声が追いかけてきた。合成音声は日本語を発した声音にそっくりだ。ゴブリンが付けたのは翻訳装置だったのだ。マシャーズの町で観光客が付けているのを見たことがあるし、以前に狙撃した政府軍将校が持っていたことがあった。もっとも無駄に弾を何発も打ち込んだために翻訳装置まで破壊されてしまい動かなかったのだが。その壊れた翻訳装置はソンガのズックの中にまだ大事に入っているはずだ。ゲリラ少年の宝物として。

「こんにちは」

 トネビュラはぎこちなく挨拶を返した。途端に恥ずかしさに顔が熱くなる。ゲリラである自分たちが不慣れなだけで、外の世界では翻訳機など当たり前なのだろう。驚き緊張している自分たちは、ゴブリンにはどう映っているのだろう。貧乏で汚くて知恵の薄い、何かと銃を撃ちたがる、人を殺したがる砂漠のゲリラ。小銭欲しさに射殺体をあさるゲリラ。壊れた翻訳装置が宝物の哀れなゲリラ。

「あたしたち日本人よ。北の国境まで行く途中なの」

 そういってゴブリンは軽くお辞儀をした。トマトのような顔をしたガトゥーラが一言も発さずにお辞儀の真似事をする。普段なら爆笑ものだが、今は誰も笑うものはいなかった。

「あなたたち、遭難者―ってわけじゃなさそうね。遭難者なら助けるし、そうじゃないなら『では、ごきげんよう』って挨拶をして船に戻るわ」

 トネビュラは咳払いをして、息を吸い込んだ。

「見ての通りですよ。遭難者じゃありません」

「そうよね。遭難者は必死に手を振ったり、大きなナイフの刃をピカピカ反射させたり必死で気づいてもらおうとするもの」

 女ゴブリンは腰に両手をあてがって、ブーツのつま先で軽くリズムを取りながら6人のゲリラを見渡した。

「あなたたちの所属は?」

 6人の男たちが押し黙る。相手は自分たちがゲリラであることをもう知っている。自分たちが自ら反政府勢力であることを認めたらどうなるのか。逮捕されるのか。排除されるのか。あるいは消去とでもいうのだろうか。

「神の国を創ろうとしているの?神に選ばれし真のデイラバンドーラの民の家を?」

「違う」

 ガトゥーラが初めて口を開いた。ただ、後が続かずまた黙り込んでしまう。トネビュラが後を引き継いだ。

「北の方で町を占拠してる連中なら、僕らとは関係ありません。彼らはただの残虐な殺戮者です。自分たちに従わない者は政府、反政府関係なく殺します。女と子供は誘拐して奴隷か兵士にします。僕らはあんな連中とは違う」

 女ゴブリンが楽しそうに笑う。

「優しいゲリラってわけね?政府軍の兵隊さんにはキャンディでもプレゼントするのかしら?」

 トネビュラは赤くなりながら少し言いよどんだ。

「いえ― 普通の― 鉛の弾をプレゼントします」

 女ゴブリンが膝を叩いて喜んだ。

「あんた面白いわね」

 そして、不意に真面目な表情になり、

「あんた嘘を言ってないわね。それは分かる。あたし鬼士だから。声を聴いて目を見れば嘘をついてるかどうかくらいはすぐ分かる。それにね―」

 キシは自分が付けたモノクル型モニターを指さす。

「これ、軍や警察、政府関係者専用なの。電気屋で売ってる普通のやつとは少し違うんだ。相手の声に嘘の波長が出ていないか、脈拍や発汗の状態、武器を隠していないか、色んなことが分かっちゃう」

 キシが急に片膝をついて、掌を差し出した。小さなサラミソーセージが乗っている。四次元ポケットから出したのだ。

「おいで」

 後ろでじっとしていたピュンがキシに駆け寄り、サラミソーセージにかぶりつく。キシはピュンの首筋を撫でてやりながら

「そうか、あんたの波長が混じってたんだね。だから分かりづらかったんだ」

 キシは顔を上げてトネビュラを正面から見据えた。

「あんた、自分で気づいてないんだね」

「…?」

「あたしたちがわざわざ船から降りてきたのは、この岩山で弱い鬼力を検知したからよ。北の国境でダイヤモンドを独り占めにしてる鬼士ゲリラかと思ったの」

「僕らは、この国が好きなだけの―」

「知ってる。神の使徒を気取るダイヤ好きの人殺し連中とは違う。彼らはあんたたちみたいにのんびり屋さんじゃない」

 皮肉を言われているのは分かったがどう返す言葉が出てこなかった。 

「あなたよ。鬼力を出してたのは。あなた鬼士なのよ。知らなかったみたいね」

 ピュンがキシの足元にじゃれついている。

「そう、それとこのワンちゃん。この子もそうね。とっても賢い子だって思わなかった?」

 キシがピュンの頭を撫でてやりながら眼を覗き込んでいる。

「あなたもこれまで気づかなかったの?まぁ、虫の数もそう多くないみたいだし、瞳の色も極端には変わらないか」

 キシ。僕がキシ?

「そう。鬼士よ。良かったわ、神の国の鬼士ゲリラじゃなくて」

 唐突にキシの右手が閃いた。ヒュンッと風を切る音。右手に一振りの日本刀が出現していた。足元で30㎝はありそうなナイフ以上に危険な嘴を切り落とされた雪羽コンドルが、間抜けな七面鳥のようにモゾモゾと地面を這っている。嘴だけでなく両足も切り落とされてしまったらしい。腹を空かせた凶暴な雪羽コンドルの急襲に誰も気づいてはいなかったのだ。このゴブリン以外は。

「ふぅ、やばいやばい。あたしってそんなに美味しそうかしらね」

 いつの間にか日本刀は消えている。

「それにしても固かったなぁ、こいつの嘴。スチール製のプロテクターぐらいなら突き破っちゃうよ、あれ。蜻蛉丸じゃなかったら刀の方が折られてたかも」

 コンドルを指さしながらトネビュラに向かって

「ねぇ、こいつの内臓抜きをしてくれない?船に持って帰ってバーベキューにしてもらおうよ。きっと美味しいわよ。分かるんだ、あたし」

 トネビュラはどう答えていいか分からず、仲間の顔を見渡す。

「心配しないで。逮捕もしないし政府に通報もしないから。バーベキューを食べながら相談しましょうよ。今後のことをね」

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