バトルステージ2 チャッピーの溜め息
工場の中に入ると一階部分はがらんとした空間が広がっている。コンクリートの床には撤去された機械の跡が残り、ボルトの穴が穿たれている。背の高い機器を入れるためか天井は高く、そこに工場の長い辺に沿って二本のレールが渡されており、茶錆びの浮いたチェーンとフックがぶら下がっている。
奥の壁際にシンプルなスチール製の階段があった。床から天井までのちょうど真ん中辺りに、大人が二人すれ違うのがやっとといった幅の金網製のプラットフォームと胸の高さくらいの手摺が内壁をぐるりと一周している。階段は左右の壁に二箇所ずつ。狭い階段を一列になって上る。先頭は広幸。後ろに山田、永都、千晶、龍彦、志乃、泉川が続き最後尾が土方だ。金網製のプラットフォームまで上がると千晶が下を見て言った。
「わぁ、何か怖い」
広幸が二階への階段を上りながら振り返る。
「余計なとこを踏むなよ。古くなってるから」
工場に七人の靴音が反響する。不意に広幸の歩みが遅くなった。広幸が誰何する。
「何の真似だ?道案内か?」
一階部分より低い天井にはまだ白銀、灰色、黒の配管が蔓のように絡み合いながら走っている。一定間隔置きに太いコンクリート製の支柱がある以外は何もないフロアにコングとバンジがいた。二人はコンクリートの床に正座していた。爪先を折って立てた踵の上に尻を軽く載せ、両膝は広めに開いている。正座といっても即座に動き出せる体勢だ。顔には普段のドムブラザースらしからぬどこか晴れやかな笑みが浮かんでいる。コングが言った。
「円谷兄弟舎と素人カップルさんたちは三階へ進んでくれ」
続けてバンジが言う。
「土方警部と泉川鬼道士はここに残ってくれ」
コングとバンジが同時にすい―と立ち上がった。二人が声を揃えて言った。
「土方警部、泉川鬼道士、俺たちと立ち会え」
「何だ、本気っぽいな。どういうつもりだ?」
「どうもこうもねぇ、俺たち生まれ変わるのさ。お前らを倒してな」
「散髪して会社に勤めて嫁さん貰うのさ。お前らをぶっ殺してな。悪く思うなよな」
土方の口元に冷たい笑みが刻まれる。一方の泉川はうんざりした表情で「やれやれだなぁ」と愚痴る。
「お前ら先に行ってろ。後ろは気にしなくていい。前に集中してな」
「おい、ぶっ殺すって何だよ、取引だろうが」
強気を装いながらも永都の口調には不安の響きがあった。
「いくぞ、永都」
広幸に促されて渋々階段を上る。千晶も不安げだ。
「ヒロ兄、殺すって何よ、あいつら何考えてんだ?」
「多分、スポンサーの意向だろうな。あのスーツと山田のことを知ってる俺たちが邪魔なんだろうな」
「邪魔って、取引だろう?互いに欲しいもの交換して後は綺麗に忘れる。それでお終いだろう?何だよ、ぶっ殺すって」
「何なら聞いてみたらどうだ?スポンサーが派遣した鬼士さんに」
三階のフロアに瓜生時雨が立っていた。フロアの広さ、構造は二階とほぼ同じだが、三階は柱にも床にも配管が残っている。時雨は切れ長の瞳を薄い茶色に染めながら静かな表情を崩さない。その視線はジッと志乃を捉えている。
「ここは私に任せて先に進んでください」
「志乃―」
龍彦は不安な表情を隠せない。
「大丈夫です。すぐに追いつきますから。龍彦さん、最後尾をお願いします」
そう言われては抗うわけにはいかなかった。鬼道士としての経験も実力も志乃の方が二枚も三枚も上手なのだ。龍彦は言われた通り円谷兄弟たちと進むしかなかった。
「気を付けて」
「龍彦さんも」
円谷が龍彦の未練を断ち切るように「行くぞ」と告げる。龍彦は階段の手前でもう一度志乃の顔を見た。志乃が澄んだ灰色から赤に変わりつつある瞳でこちらを見返していた。にっこり微笑みながら「いってらっしゃい」とでも言うように長くてきれいな指をひらひらさせる。
「あの子、確か松風さんとこの糸使いの子だね?君と相刀を組んでるのか?」
それまで黙っていた山田が龍彦を振り返って尋ねた。
「僕が一方的にお世話になってるだけです。相刀なんて―」
山田が無精ひげを一撫でして言った。
「人生はチャレンジの連続だ。精進しろよ。剣も勉学もな」
「ほんとだぜ。もう次のチャレンジステージに着いちまったようだぜ」
四階のフロア。二階、三階に比べると天井の配管の密度も薄く、柱も本数が少ない。四面の壁に小さな窓が四つしかなく、壁にはX型の補強鉄骨が嵌め込まれている。フロアの中央、階段の上り口から良く見えるところに二人の男女が立っていた。濃いグリーンの外装鬼甲帯を着込み、頭をすっぽりと同色のニット製の目出し帽で覆っている。その特徴的なデザインの鬼甲帯は自衛隊の鬼士隊員が着用するものに酷似している。
「これはもう必要ないだろう」
男の方が言って目出し帽を取る。女もそれに倣った。男の方は龍彦とほぼ同じくらいの背格好。女の方は男より四五センチ低いが女性としては大柄な方だ。女流鬼士にしては珍しく髪がショートだ。二人ともまだ若い。男は二十歳前後。女の方はまだ十代だろう。
「高薗雅史」
「家室風華」
二人は踵をピシッと鳴らして「気を付け」の姿勢で名乗った。
「試合をしたい。俺たちと闘え」
高薗は陶然とした表情で円谷達を見渡している。頬を上気させ瞳も紅く染めた高薗。家室も同様に昂ぶった表情を見せているが瞳の色は淡いブランデー色だ。恐らく二人ともこれが初陣なのだろう。外部の鬼士と戦うのは初めてなのだ。そんな中でも家室の方が冷静さを保ち、鬼虫をコントロールしている様子が窺える。
「自衛隊の鬼士部隊から対鬼道士戦用に選抜されたチームのメンバーだろう。もちろん非公式のチームだが」
山田教授の情報に永都が呻く。
「そいつら自衛隊の中でもとびきり強いのか?」
「鬼力の強さは知らんが、闘争心や自負心が強い者を選んでるようだ。隊員であることへの誇りと他の鬼道士、鬼士院出身者や警察の鬼士警官への対抗意識が滅茶苦茶高い。自分たちの方が強いと証明したくてうずうずしてる連中さ」
「全くこんな仕事受けるんじゃなかったよ。目先の金に飛びつくとろくなことねぇ」
愚痴りながら永都が一歩進み出る。高薗が当てが外れたように言う。
「お前か?まぁ仕方ない」
どうやら高薗の意識は外装鬼甲帯に身を固めた龍彦に向いていたらしい。龍彦はソクリと背筋が寒くなるのを感じる。高薗から発せられている鬼風は鬼道士のそれではなく、鬼力を持った殺戮者のものだったからだ。
「私も残る」
千晶が永都の横に立つ。高薗の笑みが少し深く野蛮ものになる。
「行ってヒロ兄。翔太が待ってる」
千晶の言葉に永都も頷く。広幸は小さく「頼む」と言って龍彦を見た。
「行こう」
広幸と山田、龍彦は屋上に続く階段を上った。山田が広幸に言った。
「なぁ円谷、私の銃、返してもらえないか。どうやら人質交換なんて悠長な話じゃなくなってるみたいだしな。自分の身は自分で守るさ。その方が君らも手がかからんだろう?」
広幸の鬼襞に自分の愛銃が入っていることを知っているのだろう。
「あんたも軍の人間だろ?今武器を渡せるか。後で基地の落し物係に届けといてやる」
屋上に出る扉を押し開ける。ヒュウッと夏の風が三人を包んだ。
「よぉヒロ、約束の時間より早いじゃねぇか。まだ鶏の丸焼きが焼き上がってねぇんだ。おもてなしはできねぇよ」
強化スーツを着たダイとアーミーグリーンの鬼甲帯の男、スーツ姿の倉科が夜のイルミネーションを背に待っていた。三人の間に翔太とケロちゃんが後ろ手に縛られた状態で立たされている。
「下の階で豚の丸焼きが焼けてる頃だ。そいつをいただくよ」
「はは、今日は何言っても勘弁してやる。お前と馬鹿言い合うのも最後だからな」
広幸は真面目な表情になって言う。
「そんなにギャラがいいのか?何を約束された?」
「戸籍だ。市民登録だぜ。俺たち生ゴミをやめて人間になるんだ。しかも軍属だぜ?安心しな、公務員様になってもお前らのこと笑ったりしねぇから」
「まさか本気にしてるんじゃないだろうな?」
ダイの顔が一瞬フリーズする。
「やりきって市民になるか、生ゴミとして処理されるかのどっちかさ。そもそもこの仕事受けちまったのが間違いだったのさ。おい、倉科」
倉科がショックガンを構えながら及び腰で山田の方へ近づく。
「そいつが山田を拘束する。おい怜門、お前の持ってるデータも倉科に渡せ」
そう言ってダイは翔太とケロちゃんを拘束していたプラスティック製の拘束バンドを指先でパチパチと弾くように断ち切る。二人は最初はゆっくりと、途中からは駆け足で広幸と龍彦の許に走り寄ってきた。
「大丈夫、抵抗なんかしないさ」
山田が両手を倉科に差し出す。倉科が慌ててガチャガチャと手錠をかけた。
「さて、じゃあやるか」
「やるって何をだ?取引成立だろ?」
「さっきから何馬鹿なこと言ってんだ。もうお前らを殺して仲間としてここを出るしかねぇんだよ」
美しい音色を響かせてダイの両腕から両刃のブレードが飛び出した。ダイの口元は悲しそうに歪んでいた。
迅い。そして強い。つい昨日まで太った駄鬼としか思っていなかったドムブラザースの弟二人。鬼力を発現することもできず兄ダイの露払いに甘んじていたコングとバンジの二人が、抜群のコンビネーションとスピード、そして鬼力とは似て非なるエネルギー波を使って攻撃を仕掛けてくる。闘いは明らかにコングとバンジが土方、泉川の二人を押し込んでおり、土方と泉川の顔にはもはや隠しようのない焦りの色が浮かんでいる。
「りゃぁぁぁっ―」
コングがスーツ内蔵型の両刃のブレードを振るって土方の下半身を狙う。土方は両手に持った三段式特殊警棒を使ってなんとかコングの攻撃をしのぐ。すかさずバンジが頭部を狙ってブレードを突いてくる。泉川が何とかそれを弾く。コングとバンジは明らかに土方に狙いを定めていた。土方は相手の鬼虫を麻痺させたり殺したりする破壊型鬼力ではなく、鬼虫の活動を抑制し鬼力を出させなくしてしまう抑制型鬼力を使う。大変珍しいタイプの鬼力であり、土方が他の鬼士達から一目置かれ、鬼士犯罪者達から恐れられるのはそのためであった。しかしコングとバンジは鬼士ではない。虫は飼っているものの虫たちは宿主の体の健康を保つことに精いっぱいで体外にまで鬼力を発揮できない。つまり土方の能力の強みがほとんど活きないのだ。
「せやぁっっ―」
バンジのブレードが土方のライダージャケットの裾を切り裂く。泉川が素早くフォローに入るが、バンジは深追いせずにすぐに引く。コングとバンジは傷ついた仔象に狙いを定めるライオンのように土方を弱らせていく作戦を取っている。そしてこの作戦が土方を庇わざる得ない泉川をも消耗させることを知っているのだ。
「うらぁぁぁっ―」
コングのブレードが若干息の上がってきた土方の膝下を狙う。脇からそのブレードを弾きに掛かる泉川。
「フンっ―」
バンジがコングに気を取られた泉川の死角からブレードで泉川の腰の辺りを突く。白い閃光が奔って泉川が身を捩って後ろに下がりながら尻もちを着く。スーツの生み出すエネルギー波を当てられたのだ。致命傷ではないが鬼力とはまた違う感触の衝撃が泉川の体を貫く。コングの一撃が土方の左脛を襲う。土方が弾かれたように床に転がる。
「ヤッホーい」
コングとバンジが大声で歓声を上げ、丸々とした腹をタップンとぶつけ合って喜ぶ。
「やっつけたぜ!?俺たち鬼殺しの土方とおしゃべり泉川をやっつけたぜ!」
「おうともよ。もう誰にも俺たちをゴミ扱いさせねぇぞ」
二人は歓喜の表情で土方と泉川を見下ろす。
「さて、止めを刺しとかねぇとな」
ニタニタと笑いながら土方に近づく二人。土方は呻きながら状態を起こし、「ちょっと待て」と言うように左手をコングに向かって差し出す。
「往生際が悪いぜぇ、土方のおっさんよ」
土方は汗まみれの顔を上げると低い声で言った。
「チャッピー」
不意に土方のライダージャケットの胸元がモゾモゾと動く。
「ミャオ」
土方の襟元から黒い小さなボールのようなものが出てくる。三角形の耳。黄色い丸い瞳。黒い仔猫だ。キョトンとした表情のコングとバンジ。仔猫のチャッピーはジャケットの胸元からするりと抜け出すと土方の腕を伝ってトコトコと歩き左拳の上に腹這いになる。
「シャー」
チャッピーが小さな歯を剥き出して鳴く。その口の中にブラックライトのような暗青色の光が見えた。
キュン―
暗青色の光弾がコングを直撃する。弾かれたように跳び退くバンジ。二発目の光弾がバンジの右足首を捉える。左足一本でジャンプしながら逃げようとするバンジを泉川の剣が捉える。赤い閃光が瞬いてバンジが床に落ちた。鬼力抑制型の土方の鬼力を使鬼のチャッピーが破壊型鬼力に変換、増幅して放つ。土方の必殺技「チャッピーズ・ヒカップ」である。
「よくやったぞ、チャッピー」
土方が仔猫の喉元をさすりながら言った。泉川がネクタイを解きながらコンクリートの床に胡坐をかく。
「あんな技あるんだったらもっと早く出してくださいよ」
「あれを使うと俺はもう動けねぇからな。美味いもん喰って一晩寝ないと回復しねぇ。泉川、お前早く上に行ってやれ」
「えー、そんな。一息つかせてくださいよ」
「馬鹿、早く行け。お前が休んでてどうする」
泉川が「報酬三倍ですよぉ?絶対ですよぉ?」と情けない裏声で言いながらヨイショと立ち上がり、ヨタヨタと階段へ向かった。
「さすがは天才結絡師の志乃部さんだわ。巻首螺鈿は伊達じゃなかったみたいね」
三階。瓜生時雨が志乃の前で初めて口を開いた。先程から時雨の繰り出す速射、曲射、連射、全ての塩玉が志乃の二本の鞭に弾かれてしまっている。鬼力を込めた塩粒は志乃の体に届くことなく二本の鞭の作り出すバリアに阻まれ床一面に薄っすらと降り積もっている。時雨の持っている銃は四丁。うちすでに三丁は一五発装填のマガジンが空になり、最後の一丁も残り八発。予備のマガジンを持っているはずだが交換している余裕はない。
「お褒めにあずかり光栄ね。まだお名前を伺ってなかったわね。今日のこと日記につけておきたいから教えてくださる?」
「ごめんなさい。故あって本名は名乗れないの。今は瓜生時雨って呼ばれてるわ」
「本名を教えたくなるまでじっくりお付き合いしたいけれど、あたしも急いでるの。そろそろこの辺でお終いにしましょうか、時雨さん」
志乃は二本の鞭を大きく振るうと鋭く体を捻ってヘリコプターのローターのように鞭を回転させた。小さな赤い竜巻のようなそれは志乃の周りの床に散らばっていた塩の粒を綺麗に吹き飛ばしてしまった。
「ふふ、あの塩に鬼風炎を燃え移らせるつもりだったでしょう?炎紬に似た技ね?白土院系かしら?」
炎紬とはあらかじめ地面に撒いた塩などの帯鬼力性の高い物質に鬼力で作った炎を移す技だ。白土院の流派にこの技を使う者が多い。
「目敏い女ね。知らんぷりできないの?できすぎる女ってのも困りものだわ」
時雨は銃を首の後ろのホルスターに戻すと脛から鉈ほどもあるコンバットナイフを抜く。
「やれやれね。お宝までもう少しってところだったのに」
小さく首を振ってそう呟くと、ブーツの踵をタンッと鳴らして志乃に向かって突っ込んでいく。鞭の間合いギリギリのところでコンバットナイフを志乃に向けて突き出す。バチッと音がして銀のブレードがハンドルから外れて志乃に向かって飛び出す。志乃は慌てずに鞭を操り二枚のブレードを弾く。時雨は止まらなかった。鞭がブレードを弾く間に首の銃を抜きそのまま志乃を撃とうとする。
「あっ」
時雨が思わず声を上げた。志乃の右手と時雨の銃の間に緑の光線が走り、時雨の銃を奪い取ってしまったからだ。時雨は勢いを殺さず腰から細身の短剣抜きそのまま志乃に向かって走る。続けざまに緑のフラッシュが焚かれ、薄暗闇の中で時雨の体がコマ落としアニメのように回転し、吊り上げられ、宙吊りになり、頭を下にした格好で宙に浮かんだ。蜘蛛の巣にかかった蝶のように、極細の絹糸に絡めとられ宙吊りのまま身動きがとれなくなったのだ。志乃必殺のグリーンオペレッタ。
「な、何?ちょっと、降ろしてよ」
時雨が眼だけキョロキョロと動かしながら言う。下手に動くと鋼線のように強靭な特殊な絹糸に鬼甲帯ごと輪切りにされるか、体をオレンジの皮のように骨まで剥かれてしまう。
「動けないとは思いますけど、念のため止めを刺しますか」
コツコツとブーツを鳴らしながら近づいてくる志乃に時雨が慌てて言う。
「ねぇお願い、見逃して。代わりに情報を提供するわ」
「情報ですか― 内容によりますね」
「あのデブ達が着てるスーツよ。弱点があるの」
志乃は一瞬値踏みするように時雨の顔を眺め、次いで指をパチンと鳴らした。時雨の体がドサリと床に落ちる。
「痛ったーい。ちょっともう何よ」
「焦らすと口を縫い付けますよ」
「ちょっと、今言うとこでしょ。あのスーツまだ未完成品なの。出力が弱いし安定しない」
「それはもう知ってます」
「慌てんじゃないわよ。出力が弱いテスト用だからパワーユニットがいつまでもつか分からない。だからやつらは勝負を急ぎたがるはず。それと遅い動きに弱い」
「遅い動き?」
「そう。高速で近づくものには防御反応するのに遅いものには反応しない。分かりやすく言うと銃弾は弾くのに舞い落ちる桜の花びらや飛んでくる蚊は通してしまう」
「なるほど、分かりました。それだけですか?」
時雨は立ち上がって空になった銃のマガジンを交換する。
「もう一つ教えておいてあげる。この工場、軍の鬼士部隊に囲まれてるわよ。多分表には出られないやばい部隊ね。人数ははっきり知らないけど一分隊くらいかな。トラックに山盛りの爆薬も仕掛けられてる。あんたたちを絶対にここから出さないつもりよ。ここから離脱するには連中と闘わないわけにはいかないから、一人二人はあたしが倒しておいてあげるけど」
「貴重な情報ですね。ありがとうございます」
「どういたしまして。じゃ、あたし行くわ。これ以上ここにいるのヤバいし」
二人は簡単に挨拶を交わし、志乃は四階へ、時雨は脱出経路を求めて通気口へと這い込んでいった。




