番外編:ルドリアーナ家主催バースデーパーティ
これは、作者の友人の誕生日を記念して書いた番外編です。かなり個人的な都合で書いた作品ですが、まあお楽しみいただけると思います。
「“バースデーパーティーの招待状”?アリス、お主どこでそんなモノを貰ってきたのじゃ?」
ここは、アリスの経営する薬屋。ここに今、珍しいことに“ご隠居”は一人で訪れていた。アリスを若干苦手としている“ご隠居”は、普段自分からこの店を訪れることはめったにないが、アリスが正式に依頼の形で“ご隠居”の主である陰陽師、安倍晴明に“ご隠居”一人で店を訪ねるように要求されたら断るわけにもいかない。
案の定、“ご隠居”は店に入ってから一時間弱ほど目を爛々と輝かせたアリスに全身を舐め回されたが、ここに来てようやく本題に入ることができたのだ。
“ご隠居”は、まだ若干べとべとする身体を手ぬぐいで拭きつつ、さらに質問を重ねる。
「それと、その招待状に書かれてある条件・・『なお、参加者は女性に限る』とは、いったいどういうことじゃ?」
しかし、尋ねられたアリスは、それに答えることなく、鼻からたらりと血を流しはあはあと息を荒らげていた。
「数ヶ月ぶりの“ご隠居”たんの生声・・!もう最高っ!!」
そう言ってぐっとサムズアップするアリスを、“ご隠居”はじとっとした目で見つめた。
「おいこの変態魔女よ。話が進まんからいい加減真面目にやってはくれぬか?」
「はうっ!?その冷ややかな目もご褒美ですありがとーーー!!!・・はあ、ちょっと落ち着いたわ。じゃあ、ラブリーな“ご隠居”たんの頼みだし真面目に話すわね?この招待状、三日前にうちに来た仮面をつけた怪しい奴が置いていったのよ!そして、『ここにい行けばお前が好きな幼女がいっぱい見られるよ?』って言ったの!これはもう行くしかないでしょ!」
「いや、どう考えても怪しいじゃろうが!!そんな招待状さっさと破り捨ててしまえ!!」
そう言ってアリスの手から招待状を奪い破ろうとする“ご隠居”。しかしその瞬間、突然招待状が白く輝きだし、“ご隠居”とアリスはその光に飲み込まれてしまった。
(しまった・・!!招待状に何らかの術式が仕込まれておったか・・!!)
後悔するも時既に遅く、気づいた時には、“ご隠居”とアリスの二人は大歓声の中にいた。突然にして現れた無数の人々、そして眼前に見える大きなステージ。常人なら突然の事態に混乱する場面であろうが、この二人は常人ではない。二人とも、独自の視点でこの状況を冷静に判断、分析し、答えを導き出していた。
「およそ日本では見られぬ髪色の人々や、この独特な空気感・・。これは、晴明が読んでおったらのべとやらの異世界転移というやつかのう?」
「あの光からは魔力は感じなかったけれど、原理的には私の転移魔法と同じだと思うわ、“ご隠居”たん。多分その解釈で間違いないと思う。」
そして、その二人の予想を確信に変えたのは、壇上に現れた一人の少女だった。
その少女・・およそ日本ではまず拝めないドリルヘアーをぶら下げた、アニメとかで見る貴族のお嬢様をそのまま抜け出してきたような女の子は、会場に集められた人々に向けて優雅に一礼すると、開会の言葉を述べた。
「えー、これより、ルドリアーナ家主催、バースデーパーティを開催いたしますわ!司会はこのわたくし、ペトラ・ルドリアーナが務めさせていただきます。」
会場全体から拍手が巻き起こる中、“ご隠居”とアリスだけは違う反応をしていた。
「な、なん・・じゃと・・!?まさか、ドリルヘアーをしている輩が現実におるとは・・!!」
「やっぱりこれは異世界転移で間違いないようね!“ご隠居”たん!」
二人だけ別の意味で盛り上がっている者がいることなど知らず、ペトラは堂々とした態度で会を進行していく。
「それでは、ここで本日のメインゲストの登場ですわ!さあ、ストーンさん、ステージの中央にいらして。」
ペトラの合図を受けステージ端から姿を現したのは、灰色のショートヘアーが特徴的な美少女だった。つむじあたりからぴょこんと一本毛が飛び出しているのも何とも可愛らしい。
服装は、パーティーの主賓にしてはかなりラフなものだ。髪と同じ灰色の迷彩柄のコートに、ショートパンツ。手には白い手袋をはめ、パンツから伸びるすらりとした足も黒タイツで隠されているため、露出は非常に少ない。
目はぱっちりとした二重で、その色は黄色だ。格好といい表情といい、かなり活発そうな明るい女の子である。
その少女は、ステージの中央に来るとぺこりと一礼して、その薄桃色の唇を開いた。
「えー、本日は、こんな私の誕生日なんかにお祝いに来てくださりありがとうございます!先程ペトラさんからも紹介がありましたが、私の名前はストーンと言います。"ストーンちゃん”か、『身体を石に変える』ギフトを持っているので、“いっしー”と呼んでください!」
ストーンがそう言った瞬間、会場から、「ストーンちゃんおめでとー!!」「いっしーハッピーバースデー!!」という歓声が響き渡る。“ご隠居”がふと横を見ると、アリスもまた興奮した様子で「きゃー!!ストーンちゃんおめでとーーー!!!」と歓声を上げていた。しかし、“ご隠居”にするような危険な発言はないので、アリスのストライクゾーンよりは若干年齢が上なのであろう。
「今日は、ストーンのためにたくさんのスペシャルゲストを呼んでいますわ!」
「わーい!楽しみです!!ペトラさんありがとうございます!!」
「れ、礼を言われるほどのことはしていませんわ!」
ストーンから笑みを向けられたペトラが壇上で耳を赤く染める。ペトラは、照れたことをごまかすように、「そ、それでは、最初のスペシャルゲストですわ!」と言うとステージ袖へと下がっていった。
ペトラと入れ替わりになる形で出てきたのは、二人組の少女だった。その二人は、ステージ後方のお立ち台に立つと、マイクを構え「いえい☆」と可愛らしいポーズを決めた。
「私の名前はメロディ・メアリ!!」
「そしてこの光り輝く私の名前はスター!!」
「「二人合わせて『メロディ☆スター』!!ストーンちゃんのために、バースデーソングを歌いまーっす!!」」
そして、二人は「ハッピーバースデー、トゥーユー♪」と定番のバースデーソングを可愛いダンスと一緒に歌い出した。ストーンは間近で見るダンスと歌に「うわー!!」と歓声を上げ、そしてその歌を聞いているだけの“ご隠居”も、何故か全身から力がみなぎるような高揚感を感じた。
「しかし・・照明もないのに何であの二人はあんなにも輝いて見えるのじゃ?あれがアイドルとやらのオーラなのかのう・・。」
そんな疑問を抱きはしたものの、“ご隠居”も二人のパフォーマンスを存分に楽しむことができた。
「それじゃあ、私たちの出番はこれでしゅーりょーだよ!また一緒に歌って踊ろーね、ストーンちゃん!」
「次は、『チームあらすじ村+α』による演劇みたいですけど・・。眩しすぎる私たちの後じゃあ、少し可愛そうですね!!」
そう言って、二人は盛大な拍手を贈られつつステージ端に退場していく。その二人を、ストーンはぶんぶんと大きく手を振って見送った。
二人の退場から少し間を置き、突然ステージ上が真っ暗になる。ストーンのものらしき「きゃっ!?」という悲鳴が響き、会場にざわめきが走る。
真っ暗になったのは一瞬だけのことで、すぐステージ上に明かりが戻った。しかし、そこにはいつの間にか『あらすじ村』と書かれたマントをまとった三人と、シスター服の女性が現れ、謎のポーズを決めていた。そして、リーダー格らしきヘルメットで顔の見えない女性が高らかに叫んだ。
「我らの名は、『チームあらすじ村』!!私は、あらすじ村村長のソニア!」
その右隣のカメラを首から提げた女性も叫ぶ。
「同じく副村長のシャルンや!」
左隣にいた赤いスクール水着の女の子も叫ぶ。
「同じく名誉村民のオクターだよ!」
最後に、シスター服の女性がやや遠慮気味に叫ぶ。
「え、えーっと・・通りすがりのシスター、ディアナです!!」
全員の紹介が終わると、ソニアはびしぃっとストーンに人差し指を向け、堂々と宣言した。
「さあ、邪悪の権化、ストーンよ!我々正義の味方が、貴様を成敗してくれるわ!!」
指を指されたストーンは、心底驚いたように目を丸くして叫び声を上げた。
「えええ!?私悪の権化なの!?」
その状況に何やら不穏なものを感じた“ご隠居”は、隣にいるアリスに声をかけた。
「どうやらアクシデントのようじゃ!このままでは折角の楽しいぱーてぃが台無しになってしまう!助けに行くのじゃ!」
「“ご隠居”たん!あのスク水幼女は私が相手してもいいわよね!?」
「ええい!勝手にせい!」
“ご隠居”とアリスの二人は、ストーンを助けるため、ステージめがけ超高速で走りだした。
一方、ステージ上では、ストーンにじりじりとソニアが迫ってきていた。
「ふっふっふ・・!このステージの上では逃げも隠れも出来ないぞ!くらえ、必殺!『ソニアキック』!!」
「きゃー!!誰か助けてー!!」
ソニアの高速キックが迫り、ストーンの悲鳴が会場全体に響き渡る。誰もがストーンの死を覚悟し、ストーンもまた襲いかかる衝撃を予想し目をつぶったが、一向に衝撃は襲ってこない。
ストーンがおそるおそる目を開けると、そこには美しい黒髪の美少女が、ソニアの蹴りを片手で受け止め、ストーンの方へと笑みを向けていた。
「大丈夫。儂が来たからには、もう心配はいらんぞ?」
そう言って、“ご隠居”は着物の袖を振るう。それだけで、ソニアは「あーれー!?」と悲鳴を上げ、会場の奥まで吹き飛ばされていった。
「くそう!やっぱリーダーかませ犬やな!こうなったら副村長のうちの出番や!」
シャルンはそう言うなりカメラのシャッターを切る。そして、勝利を確信しにやりと笑みを浮かべた。
「さあ!ストーンの写真は撮ったで!後は、これを破れば任務完了・・!?」
しかし、ストーンが写っているはずの写真には、“ご隠居”がカメラ目線で思いっきり写っていた。そして、写真の中の“ご隠居”が、おもむろにその口を動かす。
「儂を撮るには、ちゃんと撮影料金と許可が必要じゃぞ?」
その言葉が言い終わると同時に、写真が突然爆発し、シャルンもまた「ぎゃー!!」と悲鳴を上げて会場奥へと吹き飛ばされる。
「こ、こうなったら私が・・。」
チームメンバーがやられたことで、オクターがストーンに襲いかかろうとするが、そんな彼女の前に、変態が立ちふさがった。
「スク水幼女キターーーー!!!ぺろぺろさせてーーーー!!!!」
「う、うわーーーーー!!!!」
こうして、あらすじ村三人目もあっけなく敗北した。それを見た“ご隠居”が、ほっと一息つく。しかし、その隙をつき、ディアナが目隠しを取り“ご隠居”を石に変えようとした。
「それはさせませんよーー!!」
そのとき、“ご隠居”とディアナの間に割り込むようにして、ストーンが滑り込んだ。たちまちその身体が一瞬で石に変わる。それを見たディアナは、天を仰ぎ叫んだ。
「やりましたよ我が神よ!貴女の存在を脅かす異世界の徒を一人殺せました!!」
“ご隠居”は慌ててストーンを治療しようとしたが、よく見ると、ストーンがゆっくりだが動いていることに気がついた。そして、相変わらず天を仰いでトリップしているディアナに、ストーンのパンチがぶち当たり、ディアナは「へぶし!?」と叫び声を上げて会場奥へと飛ばされる。
その後、ゆっくりとストーンは石から元の姿に戻り、得意そうにこう言った。
「いくら見た人を石にできるって言っても、最初っから石になっている人相手なら意味ないよね!参ったか!!」
そして、ストーンは“ご隠居”の方を振り向き、ぺこりと頭を下げた。
「“ご隠居”さん、この度は危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました!」
“ご隠居”は、「どういたしましてなのじゃ。」と答えかけ、しかしその直前ストーンの言葉に引っかかるものを感じ尋ねた。
「ちょっと待つのじゃ。お主、何故儂の名前を知っておるのじゃ?」
その問いかけに、ストーンはふふふ・・と意味ありげに微笑み、「それはですね・・。」と答えた。
「それはですね・・これが、ドッキリだからですよーー!!」
ストーンがそう言うと同時に、ステージ上にディアナとシャルンを抱えたソニアが超高速で戻ってくる。思いもよらない事態に、“ご隠居”は思わず「は?」と声を漏らした。ストーンは、照れくさそうに頭をかきながら真相を語り出した。
「実は・・どうしても“ご隠居”さんたちを間近で見たくて、ソニアさんたちに協力して貰ったんです。だますようなことをしてしまって、本当にすいません。でも、助けに来てくれてうれしかったです!」
“ご隠居”は、本当にうれしそうに頬を上気させるストーンを見ながら、ソニアたちが現れる前にスターがぽろっとこぼした台詞を思い出していた。
「なるほど・・。+αとは、儂たちのことじゃったのか。まんまと演劇の一員にされていたわけじゃな。」
確かにだまされたようなものだが、“ご隠居”は全く怒ってはいなかった。むしろ、この演劇に参加させてもらえたことを嬉しく思い、“ご隠居”は満面の笑みを浮かべると、改めてお祝いの言葉を口にした。
「誕生日、おめでとうなのじゃ。ストーン!!」
そして、その横では、オクターが一人アリスの手でもみくちゃにされて涙目になっていたそうな・・。
本編登場ストーンは、友人をモデルにしたというよりは、石を美少女にしたらどうなるかとイメージして書いたキャラ。外見設定は非常に悩みました。
なお、友人の性別は男性です。