夢の跡
ハンジ視点です
俺のところにロキ嬢がやってきた。
いつもはスカートを嫌がるのにどうしたことだろうかと思っていたら、これからの予定が決まったのでその御誘いに来た、とのこと。
何故令嬢の姿なのかは教えてくれなかったが、指定された時間に指定された場所であった空き教室に入ると、既にソルやセトといったメンツは揃っていた。
「ハンジまで呼ぶなんて相当大事なことなのかしらね」
「そうなんでしょうね」
じきにロゼ嬢とカル殿下、エリオ殿下、トール君、そしてロキ嬢がやってきた。
あ、ちなみに、俺は心の中ではゲームキャラだった時の呼称のまま呼んでいる。口に出すときは無論皆様付けだ。
「とりあえず、皆様、まずはお集まりいただき、感謝申し上げます」
ロキ嬢の丁寧な礼に他の皆も礼を取る。とりあえず俺も頭を下げた。
「ハンジ、今回の話の中心はお前なのです、早く顔を御上げなさい」
「?」
はて、俺が話の中心になるようなこととは何ぞ。そう思って俺は顔を上げた。
「防音魔術掛けたぞ」
ゼロとアウルムがひょっこりと顔を出した。ロキ嬢は2人に小さくうなずき返して、口調を一気に崩した。
「それじゃあ、本題に入る。先日ナタリアの協力を得てドッペルゲンガーに関する資料を集めていた途中、魔道具を引き当てた」
「お前が倒れたやつか」
「ああ」
そういえばロキが倒れたという話が先日あったばかりだった。その点検のためか、現在図書館は閉鎖されている。
「簡潔に言えば、その魔道具の術対象者は俺であり、ナタリアがそれを引いたのは仕組まれてたとは思う」
「……安全だったんだろう?」
「ああ、安全だったといえばそうだな。精神衛生上全くよろしくなかったが」
カル殿下の問いに静かにロキ嬢は答えていく。
静かに息を吸って、呼吸を落ち着けた彼は再び口を開く。
「魔道具の効果は、お前らが渡すまいとしていた情報を直接脳に植え付ける、ってとこだ」
「!」
「……それじゃあ、お前、決心したってことかよ」
エリオ殿下が言葉を紡げば、彼女は頷く。俺はさっぱり訳が分からなくなってきた。クルミ嬢が口を開く。
「どういうこと? まさか、ハンジが中心って――」
「ああ、その通りだよクルミ。でも結局どこかでこの判断はしなくちゃならなかった」
「――」
クルミ嬢は知っていた、ということのようだ。けれど、他のメンバー、といってもナタリア嬢以外だが、彼女らは首を傾げている。
「どういうことよ?」
「俺が今令嬢の姿をしていることが何よりの証拠だろうよ?」
俺はあらためてロキ嬢を見る。
そして、俺をここに呼んでいることから見て、おそらくイミドラ関連と見て間違いない。
だが、本来の戦争は高校卒業後のタイミングのはずなので、今言う意味が分からない。
「令嬢だけ居て、令息が増えた。今度は令息が令嬢の姿をする。――あ」
ソル嬢が何か気付いたらしく声を上げた。
「……リョウ、本気なの」
「――シオンの中ではとっくに答えが出ていたみたいだぜ。大体、そんなもんに俺らが挑んだところでどうなるわけがねえ。皆無駄死にになる」
「! あんた何を見たの!」
ソル嬢がロキ嬢に掴みかかる。ロキ嬢はそれを簡単に払い除けた。
「おそらく、プラムとナタリア、ロキを転生させていた奴だろう。そいつと戦ったやつが俺に情報を託そうとした、それがあの魔道具。俺はそれを作動させて、情報を受け取った。その結果シオンと同じ結論に至っただけだ」
「――バカ、アンタ何のためにあの子と自分を切り離そうとしてたのよ!」
「俺だって自分の行動の結果がこんな結末だなんて知りたくなかったッ!!」
2人の間だけで交わされる会話に俺はついて行けない。けれども、何かヤバいことだけは分かった。とにかく、リョウとアキラの喧嘩そのままになり始めている。
俺は質問を口にした。
「魔王よりずっとヤバい奴が相手、ってことだよな」
「……ええ、そうなるわ」
「やばいどころの話じゃねえがな」
ソル嬢とロキ嬢が睨み合う。アキラとリョウの喧嘩もこうだったなと、前世の記憶を引っ張り出してきて、その既視感に目を細める。
アキラはリョウの隠し事にすぐ気付く。
俺たちからすると、かなりリョウは無表情だった。
表情筋が薄いというか、そうじゃないのはアイツの演劇を見ていれば分かるんだが、私生活においてアイツが無表情を崩すという状況に俺はほとんど逢ったことが無い。
そしてロキもまた、リョウと同じく無表情である。本人は笑っているつもりでも、あまり表情が変わらない奴っているだろう。あれなのだ。
しかし激情家でもある、怒れば表情豊かになる。
姉であるアキラは逆に、怒りと共に表情を消す、元が表情豊かなタイプだ。
その2人が今。
対面している。
ロキ嬢は俺たちから分かるほどの表情を歪めて。
ソル嬢は火属性を謳いながら吹雪が吹くような冷たい目で。
「そのヤバい奴と俺に何の関係があるんだ? 俺が戦うってことになるのか? シオンさんとどういう関係がある?」
「お前が戦うってのはそうだな。シオンとの関係、そっちが本題だ」
表情を歪めたまま言うロキ嬢に、相当リョウは悔しい思いをしているのだと分かった。
理不尽に屈したとき、こんな感じの表情しそうだなあと、そう思っていた表情だ。
「どういう?」
「……シオンと俺はそもそも、同時に存在してはいけない存在だ、という話があったんだ。1人の身体に2人分の人格が入ってるなんてありえないってな」
「……それで、実際は?」
「無理矢理魔法で後付けされたもの、それが、シオンの人格。植え付けられた2つ目の人格だ」
俺が全く事情を知らなかったために設けられたであろうこの説明に、俺はただ絶句した。
「つまり、シオン様が消えるんだな」
「ああ、このままだと本当にな」
「消えるって、それだけなんですか!?」
「知りたかったら自分で調べろ。このことは父様と母様にも報告する。こうすることでしかアレは止められない」
「そのアレが何なのか分からなくちゃこっちも何も言えないわ、アレってのが何なのか教えなさいよ」
ソル嬢が食って掛かる。ロキ嬢はさらに表情を歪めた。
「戦いに行くなんてお前が言い出すような性格じゃなけりゃ、俺だってこんなに渋らねえ」
「戦わなくちゃいけないって分かってるのにとどまってみてろっていうのね?」
「ああそうだ、お前なんかじゃ敵わないからな」
「……ヒロインの潜在能力でも勝てないってこと?」
「欠損魔法が効かねえ奴相手にどうやって戦う気だ」
「「「「――はあ!?」」」」
これには俺も驚いて声を上げた。カル殿下、ソル嬢、クルミ嬢と声が重なっていた。
「どういうことだ、そんな馬鹿な、欠損魔法が効かない相手なんて――!」
「最初にやられたのは教会だったっぽいぞ」
「欠損魔法が効かないなら、他の魔法も効かない! どうやって倒すというんだ!」
「落ち着けカル」
「落ち着いて居られるか! そんなモノとの戦いが控えているというのなら父上に報告しなければならん!」
カル殿下が緊急時の王族モードに入った。その時、アウルムが口を開く。
「そいつを倒すために必要な犠牲が、シオンだ、と言ったらどうする」
俺たちは、固まるしかなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




