1年同伴、平島
俺が魔物宿舎にいると、一緒に平島に行くことが決まったメンツがやってきた。
トールと、俺たちと一緒に昼食を食べた1年生の内午後の授業を受講していない者である。
そして、セトとゼロとアウルムというメンツ。
「結構いるな」
「1年生は7人だ」
「そうか」
俺はスーにブラシを掛けてやっているところだった。俺の足元に擦り寄ってきていたコウとコンゴウは主を見つけてそちらへ跳び付いて行った。
俺の身体では支えきれないので押されていくことになるが、ナイトもたまに鼻を俺に押し付けてくる。
1年生はあらためて見るナイトのでかさに圧倒されていた。
「ヨルムンガンドってやっぱ大きいですね……」
「2回進化してるからな。ちなみにこっちはスレイプニルのスー。このヨルムンガンドはナイトだ」
「へー」
ナイトは基本的に人間に寄っていくことが多いので皆をビビらせてしまうのだ。特にあの、巨躯のせいで。
噛まないよ~食べないよ~絞めたりしないよ~とアナコンダに言われたって誰が信じるものか。そんな感じだ。
「ナイト、どうする? 一緒に行くか?」
『行きたーい!』
「よし、壊すなよ。ゆっくり出て来い」
こいつマジで引っ掛けて建物ごと壊すから。
俺は注意して出てくるように促し、ゆっくりとナイトが出てくる。魔物宿舎の建て替え工事を結局してもらう羽目になったのは、ヨルムンガンドが2匹いたからだと思いたい。
こいつが既に50メートル超えて直系も3メートル近くなっているからじゃないと思いたい。
「スー、散歩に行こう。ナイトが一緒なのは目を瞑ってくれ」
『別に構いませんがね。もう、ナイトがいると私が主を乗せて走れないじゃないですか!』
『スーの上じゃ主は寒いよ~?』
『この変温動物!』
『風除けにもなれないおチビさん!』
こいつら。
何でそういうことで喧嘩するかね。
「喧嘩するなら俺は歩くぞ?」
『『ヤダぁ~!』』
「……行くぞ」
皆にも聞こえていると思しき念話である。
1年は皆目を見張っているが、慣れているセトやゼロ、アウルムはやれやれと肩をすくめて俺についてきた。
門番のいるところへ行くと、もう顔なじみになってしまったためか、微笑みで通された。
ナイトを連れ出すのももう結構な回数になって来たもので。
ナイトは空間属性を持っている。俺を目印にして転移してもらえばいい。
「ナイトはどうするんですか?」
「あいつは俺を目印に転移できる。だから一度置いていくことになるんだよ」
俺はナイトに微笑みかけてやる。それだけで次の行動を理解してくれるナイト、頭は悪くないらしい。
ナイトの目は金色になった。それはもう綺麗な。
リオが姿を現したのが見えた。
俺たちは転移コードの上に乗った後だったので俺は軽く手を振るにとどめた。
足元のコードが強く光を帯び、俺たちは目を閉じた。
♢
目を開けると、平島に着いていた。
「ここが、平島……」
「ああ。ほらスー、行っておいで」
『はーい!』
スーを放してやると楽し気に走り出した。やっぱり閉じ込めっぱなしはよくない。
1年生たちが抱えている卵を見やる。色は様々だが、中には同じ色のものを抱えている子もいる。親の種族は同じだろう。
卵の色って種類ごとに変わるんだよな。
俺は俺自身の影響が強すぎるが、アウルムは親の形そのままで孵してしまうようだし。俺たちはおかしいだろういくらなんでも。
それを考えるとソルは一体なんなんだろうか、アンフィスバエナって。
ルナと一緒にアルミラージかケットシー孵しててもよかったと思う。
じきに空気が吸い込まれる感覚と共に空間がねじ曲がったのが分かった。
振り向けば丁度ナイトが顔を出したところだった。
「うわっ」
「こんな転移アリかよ」
「こいつ転移じゃなくてマジで空間捻じ曲げてきたぞ」
驚く1年生、セトの言葉に俺は冷静に返したが、はっきり言う。
こいつこんなことしたの初めてである。
「ナイト、お前いつの間にそんなことできるようになってたんだ」
『前から!』
「おま、あんまり使うんじゃないぞ! なんてこった……」
リオが直前に姿を現したことから何かしらの繋がりはあると思っていたが、確かリオ達の種族はヨルムンガンドの上位互換種であるはずだ。
空間というか、世界よりも巨大である、という点については、おそらく世界蛇の種族が最もリオ達に近いと考えるのが妥当であろう。
「リオ、ナイトになにかしたのか?」
――まさか。進化を手伝ってあげる気になっただけだよ。
「十分なんかしてるじゃねえか!(# ゜Д゜)」
何かしてやがりました。
恐らくヨルムンガンドの進化にも鋼竜と同じく特殊な素材が必要だったのだろう。
鱗のようなものを俺に押し付けてきたナイトは、そのまま俺が離れていいというのを待っていた。受け取った鱗は、地学の教科書や資料集で見るような、銀河の写真のように美しかった。
「……すごいな」
――それが俺たちの鱗さ。ああ、それじゃーね。
「ああ」
俺がナイトに自由に行動していいと告げれば、ナイトは『わーい』と言いながら平島を蛇行しながら進んで行った。
「一通りここを歩こうか」
「俺ら最初ここに来た時昼寝してなかったか?」
「してたな」
「卵抱えてなァ?」
俺たちが歩いた道を1歳年下の7人と一緒に歩いていく。
ゆっくりと、冷えた風の吹いていく平島を歩み、少し開けたところに出て、腰を下ろした。
「ここで昼寝してたんだっけか」
「コウは此処で卵が孵ったんだったな」
「キュイィィィ」
コウが高い声を上げ、セトに擦り寄っていく。7人も腰を下ろして、日光の当たる草原で俺たちは寝転がる。
そういやナイトもここで孵ったんだっけな。
「魔物の卵が孵ったら、ここに来るといい。風の力が強いから風属性に適応したのが生まれやすくなるかもしれんがな。お、わ、ちょ、コウ何すんだコラー!」
「?」
後輩たちに語っていたセトの声にどうしたのかと視線を向けると、コウに引きずられ始めたところだった。
乗せて走りたいのだろう。
「セト、大人しく乗ってやれ。せっかくなんだから」
「でもこいつ四足じゃないだろ!?」
「乗ってやれば四足になるだろ」
恐らくコウはスーやスレイ、あとはおそらく、セトを乗せて空を駆るあのグリフォンに嫉妬しているのだろう。
分かりやすくてかわいいじゃないか。
ドラゴンて、基本的には魔術が通らないこともあって恐ろしいだけの存在のはずなんだがな、なんでこんなに可愛いんだろうか。
少し眠って目を覚ましたところで、1つの卵が割れた。
無論、アウルムのやつである。ホント卵割り機かよ。
「おはよう、黒蛇」
普通の蛇も出るもんなんだな、と、そんなことを思う。いや、普通の蛇というのはおかしい。黒蛇、と呼ばれる種類には特徴がある。
こやつらは、コブラ系である。
鎌首をもたげて体の一部が扁平に広がるのである。
嬉しそうにアウルムの胸に跳びこんでゆく黒蛇を見ていると、少しばかり微笑ましくなる。親の種類によって彼の卵は低級から最上級まで様々な魔物を孵すことになるのはまあ、大体そんなもんだろうと思ってはいた。
証明されたな。
「名前どうするかな?」
「俺見て言うなや」
「いや、だってこいつお初なんだもんよ」
アウルムはそう言って俺に意見を求める。
黒い蛇、か。
ちょっと青光りしていて、って何コレ、アオダイショウみたいな柄だな。アオダイショウは子供と大人の柄が違うのだが、大人の柄である。
この感想、俺ナイトにも持ってた気がするんですけど?
「タイショウでよくね」
「大物になりそうだな! タイショウ、よろしくな」
シャー、と声と思しき音を出して、タイショウはアウルムの首元に巻き付いた。コンゴウと睨み合いを始めたのは言うまでもない。
少し回ってみたけれど、もうグリフォンの巣は見なかった。もうここに巣を掛けには来ないだろうな。
俺たちは夕日が傾いてきたところで学園へ戻ったのだった。
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