魔物学再び
俺は、小さく息を吐いた。
「また来てくれましたね、ロキ君」
「はい……」
エリオ殿下が確実に魔物学基礎を取るのが分かっていたので、俺たちはその発展である魔物学発展をとってみた。
そして、何故ハインドフット教授が授業をいっぺんにやるぜと言い出したのかを理解した。
俺とアウルムの腕にはまた、新しい卵が乗せられている。今度は普通のサイズ――つまり、ダチョウの卵より一回りほど大きな卵である。
「今度は何が生まれるかな」
「ヘルに一票」
「いや、フェンリルだろ」
横で俺の腕の中の卵から何が生まれるかを予測している仲間たち13人。4人は高等部へ上がったのでもういない。
エリオ殿下のスライム・マナことライが相変わらず俺たちに手を伸ばして甘えてくるので一緒に相手をしているところだ。
シオンにも卵を渡したんだが、シオンははっきりと言い切った。
「私が恐らくヘルを孵すでしょうね」と。
彼女は卵を孵して一緒に連れて行くつもりでいるとのことである。
今日はこのままスーたちの相手をしに行って、明日にでも図書館に入り浸ってみようか。
エリオ殿下たちはハインドフット教授から紹介された俺たちを見て恐縮している。
トールは俺たちを見て目をキラキラさせているが。
「じゃあ、皆自己紹介してください」
ハインドフット教授に促されてまずはカル殿下が前に出る。
「2年、カル・ハード・リガルディアだ。孵した魔物は白蛇」
孵した魔物を一緒に見せるために教室ではなく魔物宿舎の前で授業中なのだが、まあ。
人が多いと出て来なくなるのがカルの白蛇である。
「……人見知りなんだ、すまない」
「お前のが一番マシなカッコしてんのに」
「ルナ嬢たちのからやればよかったのに! なんで私から始めたんだよ!」
文句を言われて俺たちは苦笑する。次は俺がやることになるだろうか?
「まあ、仕方ないわよ。珍しくない方からいきましょ」
「じゃあ、次ナタリアたちよろしくね」
「はーい」
ということで、次はコボルド組である。
コボルドたちは身体の大きさは様々になってしまった、1年で大分差が開いた気がする。
ナタリアのコボルドはかなり巨躯を誇っていたがオルトロスになってしまったし、別の令嬢の方はチワワ型コボルドだったのにヘルハウンドになったし。ちなみに今でもとにかく小さい。
「2年、ナタリア・ケイオスです。孵したのはコボルド。もう進化しちゃってオルトロスになりました。珍しい魔物を孵そうとする必要はないですからね! 可愛がってあげればいいんですよ!」
言ってるそばからオルトロスにとびつかれてるが、アイツは恐らくもうしばらくしたら獣人型か獣型かの分岐点に立たされるだろう。
「2年、ルナ・セーリスです。孵した魔物はアルミラージです」
ルナが自己紹介をすると、アルミラージが耳をぴくぴくと動かしつつ前に出てきた。ふくふくした耳が可愛らしい。
蜘蛛を孵した令嬢2人ももはや慣れてしまったようで、けれど皆の方へ寄っていかないように蜘蛛たちを制しつつ自己紹介をしていた。
アレクセイとカイウスがワイバーンの紹介をした。
「えーとここからは、もはや謎のオンパレードよね」
「だな。さあ行け代表格」
ソルがつき出される。
彼女は苦笑しつつ、アンフィを肩に乗せて前に出た。
「2年、ソル・セーリスです。孵した魔物はアンフィスバエナ。私たちはドラゴン系がとても多かったので、世話は結構大変ですよ。よく噛みますしね。可愛がってあげてくださいね」
赤い双頭の蛇を見た瞬間皆の目が輝いた。
アンフィは既に人間の言葉を習得しているが、まだ話さない気でいるようだった。
「次は、セトかな?」
「行ってくる」
セトが前に出る。もふもふタイムは終わっているのである。
ちなみに、おそらくトリを任されるのは俺だ。
いやだーヨルムンガンドだぞコノヤロウ。
「2年、セト・バルフォット。鋼竜の幼竜を孵した。今はこの通り、ナイトメアドラゴンに進化した」
進化個体ドラゴンは初出だったので皆さらに歓声を上げた。それが嬉しいのか、コウは高くキュイー、と鳴いてみせた。
「2年、アウルム・メタルカ。ゴールドドラゴンを孵した。まぁ、よろしくな」
「ゴールドドラゴン!?」
「すげー……」
コンゴウを肩に乗せたアウルムを見て皆が口々にそんなことを言う。
俺らも同じような反応したしな。
まあ、ほら。
こいつは俺を吹き飛ばした方がメインで皆に騒がれたけど!!
「2年、クルミ・カイゼルと申します。孵した魔物はラドン。よろしくお願いします」
クルミのラドンが一番みんなびっくりだと思うぞ?
なんといっても頭が。
……今、98あるんだよね。あと2つどうしたのかという話である。というか、クルミはそのうちキマイラたちを出してきそうで怖い。
さて、トリです。
俺ですね。皆の視線が俺に集まる。
「2年、ロキ・フォンブラウ。俺が孵したのはヨルムンガンドだ」
こいつな、と言おうとした時点でナイトに思い切り巻きつかれる。俺の身体隠れちゃうんですけど?
『主~!』
「やだもう、離れろコラ!」
『いや~!』
「ちょ、苦しっ」
潰されるわ!
俺は慌てて上へ跳ぶ。すかさず俺を追って足を噛んでくるナイト、もう甘えの時期は終わっただろ!?
「ちょ、大丈夫!?」
「なんで俺ばっかりこうなる!」
ちょっとくらいカッコつけても許されるだろ!?
「兄上、大丈夫ですか!?」
「あー、大丈夫、今の甘噛みだから」
蛇の甘噛みなんぞ聞いたこともないわ。
と言いつつも、ナイトは俺に牙が刺さらないようにしているので問題はない。
「ヨルムンガンドの甘噛みって……」
「てか、ヨルムンガンドとか言ってるけどミッドガルズ蛇じゃないんだ……」
「ヨルムンガンドになろうとしてるっぽいからなー」
「進化途中にヨルムンガンドのままいくかミッドガルズ蛇か選択できるんだっけか」
なんかそんな専門的な知識持ってる1年もいるようなのでそいつらには笑いかけておいてやる。いいぞ、おいで。このクラスは楽しいからな?
「そういやセト、彼どうしたんだ?」
「人間が多いのは嫌だと言って逃げたぞ」
「はは、まあ、流石に見世物なの理解してたか」
「頭いいからな」
グリフォンのことである。
俺たちは笑って今年の基礎論の受講者たちを見やる。俺たちの時はこんなの無かったな、なんでだろうと思ってハインドフット教授を見やると、苦笑して言った。
「今年は授業を2人ですることになってますからね。新任の先生がおっしゃったのですよ」
その先生、今日はいないのだが。
「確か、錬金術がメインの先生ですよ。フォンブラウにいついていると聞いていますが」
「……それ、もしかして髪が緑っぽい黒では?」
「ああ、そうだよ」
「……レスターか……」
レスター、就職したのね。王都の屋敷に来た時には驚いたけど。
ああ、最近作り過ぎたポーションやハイポーションと言った体力回復アイテムの簡易版、簡単に言うと即効性を高めた代わりに使用量が少なくて済む(というか少量じゃないと生物は発火する)ものであるとか、細々したコードを刻んで誰でも回復魔術が使える形にしてみたりとか、いろいろやってたんだよな。
レスターは解析魔術の練度が高いので、俺の解析魔術の師匠でもある。アウルムの方が上だが、彼の能力はできるだけ秘匿事項であると判断している手前、下手に頼りたくない。
「……レスター、高等部に就職したんですね」
「先代が去年で辞めちゃったからねえ」
ハインドフット教授の言葉に俺は苦笑するほかなかった。
久しぶりに、会いに行こうかな。
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