閑話 いつかどこかの
いつかどこかの御話。
とても不穏です。アウルム視点。
「こんなのっ……こんなの、絶対に認めないっ……!」
俺の目の前で、俺たちの人生を狂わせた女が叫んでいる。
歳は俺らとそう変わらないんだが、転生者だと言っていた。
へー、お前さんもかい。
「認めないっつっても、どうする気だ。それともこの状況をどうにかできると?」
俺は女に問いかけた。
女の髪は真っ白だ。元は金髪だった。
黒い瞳が場違い感すげえ。
ああ、その目は美しかった。
そんな風に濁りさえしなければ。
「そもそもあんたが裏切らなければこんなことにはならなかったのよ! キャラクターのくせに、シナリオ通りに動きなさいよ!」
「……ア゛ァ゛?」
キャラクター?
その言葉が出た瞬間に理解した、こいつはとっととぶっ殺しとくべきだったってな。
今更悔やんだってもう遅い。
俺は激情のままに叫んだ。
「うるせえ、全部テメエのせいだろうが!! テメエが逆ハー狙ったのが間違いだったんだろうがよ!! テメエさえんな馬鹿なマネしなけりゃ、俺は、」
ロキ(リョウ)を殺さなくて済んだのに。
親友になったんだ。
奴隷に落とされてもなあなあで過ごしていた俺を拾って面倒みてくれたんだ。
しかも、前世のクラスメイトっつーおまけ付きでさ。
たとえそれがお前らから見てシナリオに過ぎなくても!!
俺にとっては現実だったんだ!!
腕の中に抱えた銀髪の青年。
胸に突き立った刀。
「何よ、アンタ転生者だったのね! ロキもなんでか男になってるし、そいつも転生者だったってわけね! あんたたちが全部狂わせたのね!」
「黙れえええええっ!!」
なんで俺がダチを殺さなきゃなんなかったんだよ。
殺されるのにはもう慣れてたのにさあ、
ここにきて殺すのが俺かよ。
ただ見送るのとはわけが違うんだよ。
置いてかれるだけじゃねーんだよ。
ああ、ロキに心酔してた自覚くらいはあったさ!
でもこの手でやらせなくたっていいだろ!!
皆死んだ。
皆死んじまったんだよ。
ロキも、プルトス殿も、フレイ殿も、スカジ嬢も、トールも、コレーちゃんも、アーノルド様もスクルド様もメティス様も。
ソルもルナもエリスも、アル殿下もカル殿下もエリオ殿下も、セトもアレクセイ殿もリヒト殿もユリウス殿もロゼ嬢もアルトリア嬢もターニャ嬢も、ナタリア嬢も。
この戦争の引き金になったのは2人だった。
――状況がよくわかりませんが、責任をとって最前線で戦えばいいのですね。
そう言って最初に戦死したプラム王女は勇敢だったよ。
彼女はまず率先してやれることをしようとするやつだった。
ビッチだったのは否めねーよ、俺にまで声掛けてくるくらいだったしな!
でも、でもだ。
彼女はちゃんと責任とったじゃねーか。
責任とって戦って、ロード・カルマに捕まってお人形さん兵士やってたじゃねえか!!
なのにこいつは、王妃だか何だか知らねえが、治癒魔術使えるくせに、カル殿下が戦ってたのに、なのに!
何で戦争するのとか、不毛だわとか、ぬかしやがって、殺す、殺してやる、こんなアバズレが王妃やるような国のために皆死んだ!
「わけわかんないわよ! なんでエンディングの後に戦争なんてあってるのよ、何で戦争回避しないのよ、なんであんなバケモノと戦ってるのよ! なんで攻略対象が敵になるのよ!」
「俺たちからすりゃここは現実だったんだよこのアバズレが!! 攻略対象とか言ってゲーム感覚でこの世界生きてるからそんなことになるんだよばっかじゃねーの!?」
まくし立ててそいつを責め立てて、ああそうさこんなことしてたって不毛だ、無意味だ。
でもこいつさえいなかったら、って、思わないわけがない、俺だって聖人君子じゃねえんだもんよォ。
「大体、何で裏切ったのよ。ロキの差し金かしら」
「差し金ってほどのものじゃない。ロキが死徒と繋がりあったの知らねえの?」
「は、何それ!?」
「ばーか。この戦争は最初から形だけのものだったってことだ。死徒側にテメーらの情報はダダ漏れだった」
「そんな、内通者がいたってこと!?」
内通者なんて言ってるが、そういうものじゃない。
ああそうだ。死徒側は俺やロキなんかの一部しか助ける気が無かった。だから俺は逃がされ、ロキは国とともに死ぬことを選んだ。
「皆知ってたぜ、ロキが死徒側に情報流してるの」
「なッ、そんなの裏切りだわ!」
「都合いいようにばっか物事捉えやがってお花畑が。ロキにはゼロがいるんだから当然だろ、内通者がロキだけなんていつ言ったよ」
言い合うだけ不毛、さっさと殺すか、それともこいつの家族吊るすかな、
そんなことを考え始めたら、キィンと転移してくる音がした。
「シド、こっち来イ」
すさまじい突風と共に現れたのは、銀色のドラゴンに乗ったハドだった。
――他のルートはどうなってるんだろう。
どこかで、戦争の無いルートはあっただろうか。
あってくれたらうれしい。
だってこんなルートばっかりなんて嫌だぞ、俺。
「シド、早く来イ。その女はオレたちで処理すル」
処理、か。
ああ、そうだな。
俺はハドの手を取る。女が声を上げた。
「処理って、何よ、何様のつもりよ!」
「竜様」
ハドは眉根を寄せてそう言った。
「ロキ兄も連れて行こうカ」
「ああ」
俺はロキの身体を抱え上げた。
そして気付いた。
「ロキのヤロォ、笑ってやがる」
柔らかく笑んでやがる。
チクショウ、この野郎。
俺に殺されたのにな。
分かってた、とは言ってたけれどさ。
ホントに笑って死ぬなや、うわ、知り合いに殺してもらったことあるけど、そいつ二度と笑って殺されるのやめろって言ってたけどその気持ちわかったわマジで。
「なあ、アンタ、たぶんヒロインなんだろうけどよォ」
「……」
女は俺を睨みつけてくる。
「この世界、元々シュミレーションRPGらしいぜ」
「え……?」
「ロキはそっちをやったことがあったみたいでな、お前のこともプラム王女のことも止めようとしてたぜ。お前らは好感度が上がったとか思ってたみてーだけどな」
ロキ、カッコよかったもんな。
公爵家で、転生者で。
一緒にたぶん姉貴も死んでたのにな、一人って心細かったと思う。
頑張って挙句の果てにこれじゃあ、うかばれねーじゃねーか。
「だから人間ってあんま好きじゃねーんだよ……」
「今更だナ」
「こんなんでも一応人間から生まれてんだよチクショー」
いつかどこかの俺が、この阿保みたいなヒロイン脳の輩をどうにかするのを待ってみようか。でも俺、自分が関わるってだけじゃ動かねーんだよな。
我ながら信用できねー人間ナンバーワンだわ。
「なあ、アイツ、クーヴレンティのとこで飼い殺しとかどうよ」
「食事代がもったいないのでハ?」
「アイツが苗床の飯なんぞ用意するかよ、使い捨てだろ」
屈辱の中で死ねばいい。
もし次の俺に会ったら覚悟しておけ。
俺は忘れないのだから。
忘れることができないのだから。
不穏過ぎてすみませんでした




