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Imitation  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年生 後期編
72/154

Memoria

工房にやってきた俺とアウルムは、ひとまず椅子に腰かけて紅茶を淹れた。


「――で、話ってなんぞ」

「ああ、今日の魔物のあれだが」

「ああ、やたらフルド先輩を嫌ってたあれか」

「ああ」


紅茶を啜ったアウルムは小さく息を吐いた。


「ありゃ、あいつらも転生してることの表れだよ」

「は?」

「なんだよ、魔術程度しか使えねー人間が転生してんのに魔法使えるあいつらが転生しないなんて誰が言ったよ」


いきなり切り出された内容にも理解がなかなか及ばない俺。

は、何それ、と繰り返すことしかできなかった。


「え、魔物ってマジで魔法使うの?」

「そこからかよ」


魔物は魔法を使う?

魔術ではなく?


いや、そもそも魔術は人間が魔法を解体して理解しようとしたものである。

つまり、魔物は魔術が使えないのだ。


「魔物は科学を理解するようにはできてねーからな」

「……」


では、ならば、つまり?


「待ってくれ、あの数で最低限なのか、最大なのか教えてくれ」

「まだいるに決まってらァ。そうだな、今回初めて俺が会うのはミィだけだと言ったらどうする」

「は、」


ミィ以外に会ったことがある?


「スーにも、ナイトにも会ったってことか?」

「ああ。俺が知ってる限り、ナイトの名前は毎度ナイトだけどな」


スーも、ナイトも、え?


「……え? ()と会ったのは此処が初めてじゃないのか?」

「初めてじゃない。……はっきり言わせてくれ、ロキ。俺は何度もお前が国を追い出されるところも見てるし、ラックゼートが狂神になったのも見てる。吸血姫一派が全滅しててセトナのいない世界だって見たし、この大陸の人間の絶滅だって見た。いいか、ここは集束点だ。俺がいることがその証拠だ」


黙って聞けよ、と言われ、大人しく口をつぐんだ。何のリアクションを返せばいいのかわからない。


「俺はそもそも、沢山のパラレルワールドみたいなところにばらばらに生きてる。それがある一点で集束して次の転生へ移行する。でもな、今の俺は今までロキが転生した世界も転生しなかった世界も全部見てきた、集合体なんだよ。感覚的には、一昨日は涼たちと一緒に下校途中でアイス屋に寄った。昨日はロキに奴隷として仕えていた。今日は今こうしてお前と話してる」


つまり、アウルムの中では一つのパラレルワールドの時間軸が一定のとこで区切れていて。

でもそれは必ずしも続いていない?


「たとえるなら、箒とかハタキとかだな。それ一本が俺の一生で、毛先の別れた部分が平行世界。交わることはあり得ない。だからその時の俺はすべて独立してる」

「今は、独立してねえってことか?」

「その感覚だな」


だから、ロキが転生していたことも知ってるし他の誰が記憶を持っている可能性が高いかもわかっている。


アウルムはそう言って、俺の頭を撫でた。


「これを伝えた理由は、あの先輩がこの先死徒に狙われて死徒にされちまってお前らを襲うっつー未来分岐が存在してるってのを俺が知ってるからだ」

「!」

「分かるか。アンフィはソルを守れなかった。その分岐ではソルは学園にいない」


「スレイとミッドはロキを守れなかった。その分岐では戦争は起きないがロキは反魂を使われて死徒(ゾンビ)化する」


「コウはセトを守れなかった。コウはまともに大きく育つことはなかったよ、セトはいつもあの騎士精神で皆の盾になりに行くからな。自分を盾にして皆逃がしてアイツも死徒(ゾンビ)化しちまって、自分の手で主を殺さなきゃならなくなったコウの気持ち」


「ああ、なんで俺こんなの語ってんだ畜生、お前に背負えって言ってるわけじゃないんだ、本当だ、気負うなよ」


椅子にへたり込んだアウルムは酷くやつれていた。

シオンもそうだったけれど。

たぶん転生して同じことを繰り返す、その記憶があるというのは、相当な苦痛なのだろう。


「お前らに記憶が無くてよかった。お前らだったらきっと、記憶を頼りにいろいろ回避しようとするはずだからな」


ソルも俺もルナもエリスもクルミもロゼに至るまで、皆と何度もアウルムは会っていたそうだ。


「――」


ああ。

思い出した。


――はァ!? お前ここにも(・)転生したんかい!


「……お前、隠そうとはしてなかったんだな」

「……あー、そういやそうだな。もう、なんつーの? 隠し慣れた、っつーか、スルーし慣れたっつーか」


恐ろしい転生回数だと思う。


「……なんかあったら、マジで言えよ。俺、お前のこと親友だと思ってんだ」

「はは、俺も、お前のことは親友だと思ってるぜ、ロキ」


だからもう少しだけ、さ。

ここに居ていいか。

もう少し、震えてたい気分なんだよ。


アウルムはたぶん、ほとんど弱みを見せない人間だろう。

その弱みを見せられたことが少しうれしいのと。

必要とされるって、いいなあってのと。

こうなるまでにこいつはどれだけ時間が掛かったのか、元のこいつの性格がどんなんだったのか、デルちゃんたちがあそこまで構う理由が少し。


見えた気がした。





「そういやよォ」

「ん?」


2人でしばらく静かに横に並んで畳にごろんしていて落ち着いたらしいアウルムが口を開いた。


「俺の記憶のある限り、ゲームとよく似たルートがいくつかあった」

「へー?」


アウルムは俺の頭を撫で始めた。

子供を見ている気分なのだそうである。


「でもな、俺、会ったのほとんどお前なんだよ」

「……え?」

「んー。シオンとお前は基本同時には存在しないっつーの? シオンはそんなに回数こなしてるわけじゃねえ。そりゃ20回くらいは会ったけどな。でも、他の数万回のルートはお前だった」

「ちょ、数万て」

「あーあ、こんなことなら乙女ゲームもやりこんどきゃよかった。まー、後悔先に立たずだな」


俺の腰あたりに抱き着いてきたアウルムの頭を撫で返す。ホント、何考えてるか相手に読まれなくなるくらい時間が経ってしまったんだろうなあ。

どう考えても同世代の思考回路を残しているとは思えない。


ここまでで転生しているのが分かっているのが、シオン、ナタリア、プラム。アウルムはちょっと微妙であるにしても、これらのメンツがイミラブMEMORIAのメンツであるのがちょっと気になる。


もしかすると、MEMORIAだけに、転生している、とか。

そんなんだったらちょっとナタリアが可哀そうだ。


「あ」

「どした」

「……今ちょっとやベーモン生成したかもしれない」

「……どういう基準で金属生成してんのお前……」


何の金属を生成しているのかもよくわかってないらしい。


「だって俺この世界でも捕まったら一発アウトだぜ。知りたくねーことは調べない主義なんです」

「ま、苦痛が増えるよりはなぁ」


アウルムは金属を生成すると内側から皮膚を突き破って来るらしい。だから、定期的に身体を解体して取り出す。

これは彼らメタリカ族の特徴だったようで、アストが説明をくれていたので助かった。


アウルムがさっさと服を脱ぎ出したので明後日の方を向いておいてやり、少しして服を着直す音がしだしたので顔をそちらへ向けた。


「難儀だな」

「ホントな。半精霊って肉体的には強度低いのに生成能力だけは精霊並みにあって困るぜ」


アウルムが俺に放って来たのは、ママさんバレーで使うボールの直径ぐらいの床持ちの結晶だった。


「なんぞこれ」

「オリハルコン」

「なんでそんなトンデモ金属が出てくんだよ」

「苦痛を感じるからだ。メタリカは自分で生成した鉱物で自分の身体を強化するからな。より高位の金属を生成することと感じる苦痛の度合いが比例というより乗算」


メタリカ族が何で捕まるのかわかった気がした。


「絶対守るから安心して暮らせ」

「いや公爵家マジ心強いわ」


こんな隔離空間まで持っちゃって、こんなの初めてだ、女将たちすげえな、とアウルムは言う。まったくだ。

デルちゃんたちのことをこう言うということは、今までは介入していなかったのだろう。


「デルちゃんたちさまさまだな」

「女将たちも、たんに俺のためというよりは、のさばってる野郎をとっちめるために動いたってのが正しそうだけどな」

「そののさばってる野郎って結局何なんだ?」

「しらねー。俺最終決戦あんま見たことねーもん。死徒も負けて終わるぞ」


死なないロルディアとロードは記憶を奪われて幼子同然で荒野に放り出されるんだ。

ああでも1度だけ、ロルディアもロードも死んだとこがあったな。


なんというか、残酷なんだなあと、思った。

死んだがマシって、こういうことなんだろうか。


「でも、ロルディアってはっきり言って全部覚えてんだよな。だからロルディアなら今回は最終決戦行くかもな。お気に入りもいるっぽいし」

「なんだかんだでお前いれば死徒とのパイプできたんじゃね。なんで俺命張ってクーヴレンティとか会いに行ったわけ」

「そんな努力を列強が認めたんだろォがよ」


そんなことをしばらく駄弁った。

出来てしまったもんはしょうがない。

オリハルコンはこの空間に放置していくことにする。


「ところで、ここってやっぱリオの腹の中なのか?」

「ああ。この空間の擬人化みてーなもんだぞ、アイツに情報渡るのは諦めろ」


ここまで読んでくださりありがとうございます。

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