第2王子と転生令嬢
第2王子視点です。
カル・ハード・リガルディア。
それが、俺の名である。
第2王子でありながら、王太子は俺である。
兄が庶子であったためだ。
そんな俺はお披露目会に出席することとなってしまい、嫌々ながらも立食パーティ式のそれに参加した。
挨拶のためにやってくる貴族子息や令嬢たちと会話を少しずつしていくうちに、疲れてきた。そもそも、令嬢たちは俺の婚約者にぜひ、という感じがかなり強く、目が怖かった。
俺にも怖いものができました、父上、母上。
はてさて、そんな俺は3人の令嬢が気になっている。
恋愛的な意味はない、断じて。
ソル・セーリス男爵令嬢、クルミ・カイゼル伯爵令嬢、そしてロキ・フォンブラウ公爵令嬢の3名である。
彼女らはにこにこと笑って挨拶をし、社交辞令を述べ、さっさと踵を返していなくなっていった。男爵令嬢は分からなくもないが、カイゼル伯爵家は伯爵家の中でも1位2位を争う名家であるし、フォンブラウ公爵家は本人が望めばおそらく一番俺の婚約者の地位を手に入れるのが容易いはずであるのに。
まさか――興味ない?
いや流石に、そんなことは。
そんなことをぐるぐると考えていたら、兄上に心配された。
「あはは、流石にロキ嬢は色目使ってこなかったね。ちょっとびっくりした?」
「はい……あまりにも他の令嬢たちと反応が違ったものですから……」
俺は素直に率直な感想を述べる。
兄上は苦笑してこう言った。
「ロキ嬢の兄が、私と同じクラスなんだ」
「?」
どうやら、学校でのことを言っているらしい。
「彼らから聞いた話だと、ロキ嬢は、それはそれは男勝りだそうだ。自分のことを男だと言うくらいには」
「……あれだけ完璧な令嬢として振る舞った彼女が、ですか?」
「うん、さっきのあれは見事だったね。一見完璧な令嬢だった」
兄上は何か聞いているのだろうか。
でもねえ、と兄上は言った。
「さっきバルコニーで話しているのを聞いたんだけれどね」
どっか行ったと思ったらバルコニーに行っていたのか。
兄上だけずるい。
だがそう長い時間空けたわけではなかったからいいのだろうなぁ……。
俺も抜けたい。うん、抜けたい。
「そこで2人の令嬢と喋っているのを見た。確か、カイゼル伯爵家の令嬢と、セーリス男爵家の令嬢だったと思う」
「……」
男爵令嬢と喋っているというのがなかなか興味深いなと思ったが、直後、爆弾は落とされた。
「そこで、互いを呼び捨てにして、男口調で喋っているのを聞いた。それと、言い回しがなかなか難しかったよ。彼女は転生者と見て間違いないだろう」
「男爵家の令嬢の方もでしょうね」
「ああ。可能性はかなり高い」
転生者。
本来なかなかいないのだが、うちの国はやたらと多い。なぜかは分かりかねるが、おそらく神々の思し召しなのだろう。
「彼女が転生者だったら、どうする?」
「……ひとまず、接触してみない事には。推測だけでは何も」
「ふふ、そうだね」
兄上は俺の頭を撫でてくれた。さて、なら一度接触してきてみようかな。
俺は3人の令嬢が食事を摘まみに降りていったのを確認し、バルコニーに出た。目立たなように端の方に立ってみる。
空を見上げた。
星が瞬いている。月は金色に輝き、美しい。
風に俺の金髪がなびいた。
しばらくそこで放心していると、誰かがやってきた気配がした。
「あら」
「まあ」
「えっ」
3人分の声。そちらを振り向くと、探していた3人の令嬢がいた。
こちらへ近づいて来て、簡単なあいさつを交わす。
その対応から、精神年齢はおそらく高いであろうことに気付く。
何だって今倒置法を使った。
素直に向こうの問いに答えたら、それじゃ駄目じゃん、という旨の言葉を言われ、苦笑するほかなかった。こちらに伺いを立ててきて、そのまま俺から離れたところで雑談を始める。俺はそれを視界の端で捉えながら聞き耳を立てていた。
ほとんど聞こえないように小声で喋っている。言葉の端々から聞き取れる言葉から、どうやら勝手に下町に降りたらしいことも分かった。
恐らく、俺がいるから目立つ話題を話さないようにしたのだろうが、最後にツッコミを入れていることや、単独で行動している点から見て、危機意識が低そうだ。
男だったとするなら、ちょっとは分かる気がしなくもない。
そういえば父上の側近に居たな、女性に転生した人が。
ちょっと話を聞きに行ってみようか。
♢
無事パーティが終了し、俺は静かに息を吐いた。
「どうだった、カル」
「何とも言えませんでした。警戒されている節もあります」
「まあ、普通は教えるかどうか、酷く皆警戒するらしいからね」
兄上は現在14歳。
もう初等部は卒業なさって、中等部でお過ごしになっている。
ひとまず、彼女に俺が興味を持ったということにするか、はたまた――いや、うん、これが一番手っ取り早い。
「とりあえず婚約者候補に入っているのは確かなようですし、俺が何か言えばすぐに会わせていただけるかと」
「そうだね。うん、エレンに随伴してもらうのは確定ですね」
俺は兄上がもう何かに確信して喋っていることに気付く。まさか。
「……兄上、ロキ嬢を解析しましたね?」
「あ、バレた」
「分かります、あまりにも確定的にお話になっておられますよ」
兄上が小さく笑った。
俺はパーティが終わり、ごたごたが片付いた翌々日に母上にロキ嬢の話をしてみた。
すると、母上はロキ嬢を既に呼んであるとのことだった。
「行動のお早い……」
「大丈夫よ、他の令息令嬢も呼んであるからね!」
俺と兄の反応から、あの3人に何かあると察したらしい。その中で、男爵令嬢は流石に爵位が低すぎたので、公爵令嬢であるロキ嬢を呼ぶことにしたようだ。それと、ギリギリではあるが、伯爵令嬢であるクルミ嬢も呼んであるという。
話題の振りも考えておかねばならないだろう。いきなり転生者ですかと聞くわけにもいくまい。
さて、何かいい話題はないだろうか。
俺は自室で悩みぬいた末、錬金術に興味があるようなことをロキ嬢が口走っていたことを思い出し、それだ、と思って、エレンに話をつけに行った。
さあ、来るがいい男装令嬢。
……はて。
俺は一体何を待ち構えているのだろうか (´・ω・`)
あほの子になりかけている。メインヒーロー君があほの子になりそうだ←