騎士団長令息
またアホの子が現れた……だと
貴族貴族した生徒って、あんまりこの学校にはいないのだろうか。
ふと、そんなことを思った。
ものすごく甘やかされて育った者というのは複数いるはずなのだが、俺たちはそんな生徒にあまり会ったことが無かったからだ。
中心を避けてるって理由もあるだろうけど。
イミラブの悪役なる令嬢たちも悪役というよりは、ライバル令嬢であることの方が多かった。ということは、親の権力を笠に着る阿呆は居ないということだろうか?
それはそれでなんだかつまらない。国的にはとてもいいことなのだけれども。
俺は令息の姿で購買へ行ってパンを買い、物陰で令嬢の姿に戻り、よく日の当たる中庭のベンチへ向かった。
俺とゼロとアウルムは、もういろいろと面倒くさいということで、外で食べるようになっていた。
この国の四季は日本と同じだが、理由は精霊によるもの。近頃は火属性の精霊がよくこちらへ降り立っているようだ。
この世界は丸くないらしい。
「暑くなってきたなー」
「だなー」
俺たちの制服も夏服に替わり、女子は白いブラウスと膝丈のスカート。これが実は属性によって色が違う。属性で制服の色が変わり、学年で身につけるその他の物の色が変わるヘンな仕様である。
ちなみに、祖の場合は、他に使える属性があればその属性の色を身に着けることになる。ロキは火と水なので、そのうちの火を選択した。ということで、スカートもズボンも赤い。
俺たちの学年の色は青。1つ上は緑、2つ上は赤である。
冬服はローブというかコートというか、アレにフードを着けていたのでこっちの対策何も考えてなくて、ソルとルナとクルミとロゼでお揃いのを用意したので、ということで俺も青いスカーフを貰う羽目に。
ゼロとアウルムは別に俺が腕に巻くバンダナを用意していた。本当は首に巻くようだが。
ゼロは特にドラゴンなんかに乗ったときに首元が冷えるので首に巻くのがイミットの伝統だし、アストと同じ種族だと言っていたアウルム。アストが言うには鍛冶系の種族、いろいろあって口元をすぐ覆えるようにバンダナを巻いているらしいのでその名残だったんだろう。
何製だよこれ触り心地めっちゃいいんですけど、と尋ねたら「青いヘルハウンド」と返ってきた。
色違い種ですね。
色違い種はとても強力、本来持っているはずの魔力量を大幅に超えることで発色するのだが、そんなもんどこで取ったんじゃと問えばフォンブラウ領内にいたらしいよ。なんてこったい。
そしてそれを狩って来たらしい2人にはもう何を言えばいいのかさっぱりですわ。
お前らの性能がチートもびっくりなのは知ってる。
知ってた。
特にアウルム。お前チート主人公ちゃうんですか。
代わるぞ語り手の座を。
それはともかく、俺たちがゆっくりと昼食を楽しんでいると、居るのである、貴族様たちが。見えてんぞコラ。
公爵令嬢がこんなところで、となったらまあそうなるだろうが。
でもまあ、家の品位云々の話もあるので、ほどほどにしなくてはならないかもしれない。
「どうする、アレ」
「放っておきなさい。次の時間何もないのだし、訓練場に行きません?」
「行く」
黒い髪、というのはただでさえ闇属性を連想させるのでいい印象を持たれない。黒髪2人連れた銀髪とか、悪目立ちにもほどがあるが、気にしたら負けである。
だから今の令息の髪の色は気に入ってるんだぜ?
人工的なモノであることは分かってしまうらしいが、何が元の色なのかまでは分からないとのことなので、放置している。
俺は昼食を食べ終えてベンチから立ち上がった。
アウルムとゼロも合わせて立ち上がる。
さて、移動しますかね。
♢
訓練場へ着くと、そこには1人の少女がいた。
腰まで伸ばした長い瑠璃色の髪。青いスカート。この後ろ姿は知っている。
「アルトリア様?」
「!」
少女に声を掛けると、少女は振り返った。
ああ、やっぱり、アルトリアだった。
アルトリア・ファレン、セトの婚約者である。
ファレン伯爵家の娘で、とっても可愛らしい言動、小動物的扱い。
経験上ね。
ゲームではもっとはきはきした子だったらしい。これはソル、ルナ、エリスの証言である。
「ロ、ロキ様……アウルム……君、ゼロ、君」
「まーまー、そう緊張しなさんな――ッで!」(←叩かれた)
「軽い、チャラい、イコールチンピラ」
「ひっでえ、ゼロが酷い!」
漫才をし始めた黒髪共は放置して、俺はアルトリアに言葉をかける。
「どうなさいましたの?」
「あ、え、っと……」
ちなみに、訓練場は闘技場形式で中央が低くなっているので、ここはかなり上の方なのだが、そこでじっと1人で令嬢が立ってたら目立つぞ。
俺とは違う意味で目立つ。
「……あー」
ゼロにシメられていたはずのアウルムがいつの間にかゼロをシメて横に立っていた。こいつ、呼吸いらないらしい。シメの意味ない。もうお前は人間じゃない、半精霊じゃないよ、お前は精霊だ、大人しく精霊になるがいい。
アウルムの視線の先を追ってみると、俺も納得。
セトがいた。
セトが、剣を構えて戦っている。訓練だとは分かるが、真剣を使っているところを見ると、かなりの実力者として認められているらしいことが伺える。
真剣を扱うことができるのは、教官から許可をもらった者だけ。俺もアウルムもゼロも許可は貰ってる。
アルトリアは、どうやらセトを見ていたらしい。
「セト、かっこいいっスね」
「お前が言うのか」
「正統派って感じがするじゃねーか」
俺が言いたかった台詞まんま持って行きやがりましたアウルムコノヤロー。
こいつら一緒にしてたら漫才が尽きないんじゃないの。
しかし正統派か。なるほど。
余談だが、俺は令嬢姿はまだしも令息姿は我流である。
我流で強くなるには、いろんな派を見て、自分に合った形を探し、組み上げ、慣らさねばならない。
アウルムはかなりこれが顕著で、とにかく動きがトリッキーだ。金属化(グリフォンの時に見せたアレ)を行うと極端に鈍足になることでやるようになった方法なのだとか。
「ロキも正統派」
「ま、そうだな。それに、正統派の方が連携はしやすい」
カバーに入るタイミングも分かりやすいからな、と零したアウルムに、アルトリアがタックルをかました。
「!?」
「あ、あのっ!」
アルトリアさん、セトこっち見とりますよ。
「私に、戦い方を、教えてください!」
「……は?」
困惑した顔で俺を見るアウルム。
うん、分かる。
お前は何も悪くねーわ。
セトが脳筋だから起きるイベント……の、回避結果がこれっぽい。
「ちょい待て。セトこっち見てんぞ」
「ぴゃあああああ!?」
ビビり小動物アルトリア、セトの方を見て、セトがちょっとショックを受けたような顔をしているもので、混乱を極めぶっ倒れた。
無論、俺が支えたが。
「気絶したな」
「セトのあの顔見たか? あれは絶対“そんな……アルトリア、俺よりもそんなチンピラの方がいいのか……?”って思ってたと思うぞ」
「おめーの中で俺がチンピラなのはよーく分かった。だからそこに正座しろ、今なら膝の上に乗るだけで勘弁してやる」
「誰が座るか」
「よしかかってこい躾けてやるよマセガキ」
俺から見りゃどっちもチンピラだけどな。
「「どういうこった!」」
「声には出してねーのになんでわかんだよ」
じきに俺たちのいるところまで上がって来たセトを連れ、俺たちは医務室へと向かった。
♢
「――じゃあ本当に、アルトリアがアウルムに言い寄ってたわけじゃないんだな?」
「ったりめーだろ、それともお前にはアルトリア嬢ちゃんが尻軽に見えるってか?」
「そういうわけじゃない。ただ、その……」
俺たちは医務室のベッドの1つにアルトリアを寝かせて話し込む。
アルトリアが異性に跳び付いたのがショックだったんだろうなあ。ソルに話聞いとこ。
「うははははは、気にすんな、俺の方は完全にそういうの無いからよ! とっくに枯れた!」
「自分で枯れたとか言うやつ初めて見た」
「おま、俺が何年生きてると思ってんの」
俺も目を見開いてしまった、あれだけあのギャルかわいーとか言って声掛けてたくせに枯れてんのかお前。
ないだろ。
いや、可能性なくはねえな。
「まさかお前ヤンデレ以外に萌えなくなった……?」
「アルグの所為じゃねーし。だからってプラチナの所為でもねーぞ」
「プラチナて、それシロガネのことか」
「シロって呼んだら犬みてーじゃねーか」
後輩の名前だ、シロガネとクロガネで双子くんだった。
この調子でいくと、クロガネの方は鉄だろうな。
金銀白金鉄か。銅はいねーの?
そこじゃねえ、そこじゃなかった。
「マジで年数で枯れた感じ……?」
「言っとくけど、俺お前に殺された未来あったぞ?」
「ちょっと待て、お前どういう状況で転生してきてんの!?」
話反らされたけど、そっちを先に教えてくれ。ただ転生してるんじゃないよな、その説明!!
「まー、それはまた今度な。セト、とにかく、アルトリア嬢の努力は知らん顔しとけよ。傷が目立ってきたら聞けばいい。それまではそっとしといてやれ」
「でも……」
「今までそんだけ不安にさせてた罰ってこった。行こうぜ、ゼロ、ロキ」
「……ああ」
「ええ」
俺とゼロはアウルムに促されて医務室を出る。
アウルムって、ほんと、年上なんだなあと思い知らされる。
口が上手いし言いくるめるのも正論で。
今回はセトがあんまりにもアルトリアを構わなかったのが悪いわけだし。
「……アウルムはすごいな」
「……へへっ。そんなこと言われたら、ますます頑張っちゃうぜ?」
俺らを庇って死ぬのだけは無しの方でお願いしますよ。
乙女ゲームをプレイした経験がないせいでこんなことになった(と言い張る)
アルトリア……名前浮かばなかったんや……狙ったんじゃないんや……
今回はここでキリがいいのでここまでにします。
ここまで読んでいただきありがとうございます!




