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Imitation  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年生 前期編
43/154

上位世界の者たちⅠ

視点無し


『断言しよう、世界に修正力なんてものは、ないのだ。』

人間が1人死んだところで、世界は回る。

人間が滅んだところで、時間は歩みを止めたりしない。

魔族が死んだって、魔物が死んだって、亜人が死んだって、神が死んだって同じこと。


この世界にはパラレルワールド、という言葉を転生者が持って来た。

転生者が何億人いようが、この世界はこの世界でしかないのである。


修正力と誰が呼ぶか、それはどうでもいいな、と、デルちゃんと呼ばれていた女は空を見上げた。


鼻頭のあたりを通って顔を横断する一文字の切り傷と、オリーブ色に輝く瞳、緋色の美しい髪。極彩色に彩られていながら、その装いは黒地の軍服である。装飾品は一切ない。

階級を表すものも一切つけてはいないが、理由はごく単純である。


彼女はそも、人間ではない。

人間ではないのに、人間の規定に従う必要はないと彼女は考えている。


精霊が人間に従ったら不自然ではないか。


彼女の持論はこうである。

しかしそんな彼女も、世界が変われば――つまり、彼女らの住む世界へ行けば、立派な軍人で、案外人間臭い生活をしていたりするのだ。


上位世界と呼ばれる其処に住む者たちは皆、相当強力な精霊の分類がなされている。

1人1人の持ち合わせた魔力が、国を包み結界を張り、それでもまだ余るような世界である。しかしそれも、上位世界では普通、と呼ばれる部類。


一方彼女は、その上位世界でも指折りの魔力量の持ち主である。とはいっても、上位200に入ったことなどないので何の自慢にもならないと本人は笑う。

それでも、彼女は最強と謳われた。

よくわからない世界である。


この上位世界からは、近くにある世界がよく見えるもので、その中には無論、ロキやソルの転生元の世界もある。

地球と言って、誰が地球が1つだけだと言ったのか。


パラレルワールドの地球がいくつも存在するなどと言えば、科学者は混乱するだろうか。

そんなことは関係ない、これが彼女にとっての事実である。


魔法が、魔術が、残った地球。

異能力、超能力者のいる地球。

科学文明の発展目覚ましい地球。

ロキたちのいた、そこそこ科学技術の進んだ地球。


だが、だが、世界の真理というものは存在する。

例えばの話、時は逆には流れないであるとか、死人は基本的に蘇らないであるとか、そういったことである。


パラレルワールドを、いくつも、渡ることはできる。

時間を、渡ることは、できなくはない。

だが、それだけだ。


「デスカル」

「なんか収穫あったか、グランド」


声を掛けられ、デルちゃん――デスカルは黄昏るのをやめた。

声を掛けてきたのは、紅い髪とアイスブルーの瞳を持つ青年である。装飾品がなかなかジャラジャラとついていてやかましそうであるものだが、本人はほとんど気にしていない。


彼も上位世界の出自ではあるが、上位世界でも忌まれる“アンデッド”種である。悲しいことに元は人間に近い姿、本人たちはヒューマンと呼んでいるタイプだったのだが、それはもう弟が特殊であれヒューマンであるところからしか窺えなくなっている。

これは召喚先で人間がやらかしたことなので、彼らに非はないが差別対象だ。

おかげで彼らは傭兵という職以外選択肢がなかった。


名は、グランディータ。弟はシェイディータという。


「帝国が、力を貸してくれって。何人置いてけばいい?」

「あー、アツシとドルバロムいりゃ十分だわ。あと、戦う時竜人は使うな。ドラゴン皆叩き起こすことになるぞ」

「はーい」

「あ、それと」


デスカルはグランディータに言う。


「“原作”“世界の中心は私”“私がヒロイン”。この3つのワードが出たら殺せ」

「はーい」


グランディータは深い思考は苦手としている。ソルやルナ、エリスの立ち振る舞いから見て今の3つのワードで切れると思ったのだろう、デスカルは小さく笑う。


「世界の修正力も補正力もねえってことを証明してみせようじゃねーか、なあ、アツシ」

「こっち来てその名前で呼ばれんの久しぶりだわ」


アストと呼ばれている青年――アツシがふっと姿を現した。


「にしても、お前もホント、ゴールドのこと好きだな」

「義息子だもの、ちょっと気にしたって罰あたりゃしねーよ」

「確かに?」


ゲームの中に描かれていた登場人物が、ゲームの中で起きる事象を知っている状態で、ゲームの世界にそっくりな世界に戻って来たとするなら、そしてその人物たちが、その世界に囚われることのない強力な存在だったなら。


世界が守りたがるものを、破壊できるのだが。


この世界は残念ながら、描かれたヒロインを守ろうとする補正はないようで。

あるのはただ、幾つかあるであろう未来の中のどれかをこの世界が歩む、その為に全ての選択肢を用意するという修正だけ。


「世界って残酷なもんだよなぁ」

「俺は、ヒロインのために世界を回すヤロウの気が知れないね。巻き込まれていっぺん死んでみろ、発狂したくなるぜ」

「うわ、やだやだ、破壊神様の過去怖い(笑)」


力のあるヒロインのいる世界じゃなかったことに感謝しな、とデスカルは世界に吐き捨てる。


「世界を守る存在ってのが、居るもんなんだけどな、普通は」

「それを殺ったやつが黒幕ってことだよ。所詮ヒロインなんて小娘、いざとなったら俺が破壊するけどな」

「世界そのものの生命与奪権保持してんのお前だもんな、とんだチートに成長したもんだ」

「元素が関係するもの全て効かないっつーチート種族がどっかにいたなぁオイ」


楽しそうに罵り合ってるねえ、とリオが姿を現す。

彼が、ドルバロム、である。


「まーな、楽しいし」

「そうそう。あ、ゴー、じゃねえ、アウルムはどうしてる」

「友達と一緒に魔物、だっけ? あいつらの相手してる」

「そっか」


この時期はゲームでは一切書かれてないからな、自由にしてくれて構わねーよ、とデスカルは笑う。

彼らは今学園内に居るわけでは、ない。


「さて。俺たち3人はこの後もリガルディアに残り、ロキ()たちの護衛に当たることとする」


この世界にもまあ、悪くない点は、あった。

デスカルはそんなことを思いながら、再び空を見上げる。


「結構こだわってるね、デスカル」

「ま、自分が冤罪で処刑されかけた世界だしな。苛立ちっぷりもひとしおだろ」

「そこ、なんで知ってんだてめコラ」

「ドルバロムの親父に見してもらったぞ?」


ドルバロムの父。空間の神である。

デスカルは苦笑を漏らす。


じゃあ、行こうか、ロキたちのところへ。

理不尽なヤロウからは、守ってあげよう。


後は自力でなんとかしな、な放任主義の猛者たちである。

彼らのことにゲームで触れていたことを、ロキたちはなんというだろうか。


デスカルたちはそこから姿を消した。


今回はキリがいいのでここまでにします。


楽しんでいただければ幸いです。

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