とある伯爵令嬢への転生
私はクルミ・カイゼル伯爵令嬢です。
転生者です。
はい、転生者です。
友達の家に遊びに行って、買い物をしに行ったらその先で死にました。私は残念ながら即死できなくて、親友とその双子の弟が即死したのを見送った側です。それぞれ別の友人と話してたから私たちはあの時5人でいたことになる。まあいいか。
まさか私たち3人がドはまりしてたゲームの世界に転生するとかどんだけテンプレなの?って思っていたけれど、とりあえず、私は小説勢だったので、この世界は現実なんだ!と思って生活を始めました。
この意識はきっととても大事なもの。
だって私は、両親たちがただの紙の上に描かれ、データで外見を作られただけの機械的なものだなんて信じられなかった。
悪役令嬢モノのラノベの中に、相手を皆キャラクターとして見ている主人公の話が多々見受けられていたので、そんなことになったら怖いと常々思っていた。でも私にその心配はいらなかったようで。
今日は私が情報を集めるために興味のあるメンバーをお茶会に誘ってみた。
ちなみに私は、ゲームの中では全くと言っていいほど登場しなかった伯爵令嬢役のようだ。
誘ったメンバーは、私の持っているゲーム知識の中で重要人物だった人たち。
ロキ・フォンブラウという公爵令嬢とセーリス男爵令嬢の2人。
本当はエリス・イルディという男爵令嬢も誘う予定だった。
しかし、実は彼女は8歳時点ではまだ魔力を発動しておらず、10歳の時に魔力を発動してイルディ男爵家に養子として引き取られる子なので、まだこの時点では庶民なのだ。
そんな子はお茶会に誘えない。
私は3人だけ呼んで、小さなお茶会をしたいと母様にねだってみた。
母様は不振がったけれども、ここに来るまでも私はかなり奇行に走っていたからこんなのはまだかわいいはずだ。
私は歴史の本を読んでいてここが乙女ゲームしいてはシュミレーションRPGの世界であることに気付いた。
死徒とか国の名前とか、まんまだったんだもん。
死徒の名前が全部一致したのが一番私の確証に至った原因だった。
私が知っている死徒は有名どころの6人だけだけれども、全員いたからね。
そこからはひたすら、ヒロインが誰なのかを探した。そしたら、全員いるっぽくて混乱した。けど、考えてみればそれもそうなのだ。
男爵家の数が減るはずがない。生徒の数が減るはずがない。
ヒロインは全部で3人いる。内片方は双子だ。
ヒロインが入れ替わるのであれば双子ちゃんはいっぺんに消えるはず。だから、物語に絡んでこなかっただけで、セーリス男爵家の双子は普通に存在しているはずなのだ。
私は少なくともそう考えた。お稽古ごとに勤しんで勉強を頑張って、私は立派な淑女を目指すことにする。
エリスを確認できない分も合わせて、ね。
エリスだけは嫌!
あんなビッチにロキが蹴落とされるなんてありえない!
ロキはプライドは高かったし悪役然としていたけど、筋の通った子だった。
私はロキよりエリスを選んだ第2王子に軽蔑の目を向けた記憶だってある。
伯爵ならまだ王族との婚約の可能性は捨てきれない立場だ。よし、とにかく王族は監視対象だね。セーリス男爵家の双子は様子見かなあ。
私は今日は私の好きな、緑のドレスを着ている。
庭園のバラが綺麗に咲き誇っている。
お茶会の支度をして、馬車が到着し、3人が降りてきた。
母親たちも来ているが、それは8歳だからに過ぎない。
そういえばロキと第2王子の婚約は8歳の年だったな。今年のいつだろうか。もう婚約してたりするのだろうか。
そんなことをぼんやりと考えつつ私は3人を迎えた。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます。初めまして、ロキ・フォンブラウと申します」
完璧な礼を決めたロキは淡く紫がかった銀髪とラズベリルみたいな綺麗な濃桃色の瞳。スチルで見ていたよりもたおやかな印象を受けるのはメイクのせいかな?
悪役顔、と思っていたのはメイクのせいだったのかもしれない。
「ようこそお越しくださいました、ロキ様。初めまして、クルミ・カイゼルです」
こちらも礼を返して、ロキと目が合った。
ロキはにっこりと笑いかけてきた。こちらも笑顔を返し、ロキがそっと退いて、セーリス男爵家の双子が出てきた。
息ぴったりだわ。
「本日はお呼びいただきありがとうございます。ソル・セーリスと申します」
「ルナ・セーリスと申します」
「来ていただけてうれしいわ。クルミ・カイゼルです」
その後ロキと2人も挨拶をする。
ソルは赤い髪と瞳を持っている。流石令嬢というべき気品がある。卑しいなんて私には言えないわね。
ルナは金髪に近いオレンジの髪と瞳。流石光属性。
ちなみに私は茶髪に淡い緑の瞳だ。
つまり私は、土属性ということ。
属性には違う色でもいくつかの組み合わせがある。
髪や目の色が属性を表すため、色は大事なのだ。
まず、火。
これは赤以外は認められない。
実際は青赤黄の3色が入っているものは強烈な火属性特化だそうだ。リョウ――親友の双子の弟情報だけど。
水。
これは青と水色。明度は問わない。若干白が入っていても許されるのが水だそうだ。
風。
これは緑系の髪だ。あと、中には紫の子もいるみたい。これはおそらく雷のせいだろう。でももとをただしていくと雷を作る原因は風と氷なのでその風を生む火と水を扱える子に紫が生まれてくるのは雷を扱う素質を示しているらしい。
土。
茶色と緑の組み合わせが最も多いそうで、大体髪にどんな色が混じっていても許されるそうだ。木の実の白とか赤とか青とかあるものね。
光。
黄色系。あと、ピンク。淡いキラキラした緑や青も含まれるらしいけど、大体は金髪金目か金髪ピンク目らしい。
闇。
髪は黒。目は適当な色らしい。ただし、絶対にオッドアイにはならない。
オッドアイになっちゃうのは“祖”と呼ばれるタイプだけれど、普通に赤と青のオッドアイも存在しているので一概には言えない。
どの種族にも言えることらしくて、死徒たちなんかほんの一部以外皆オッドアイだ。皆“祖”なのだとリョウが言っていたのを思い出す。
銀髪は神子の証。強力な特殊魔法とその膨大な魔力量によって髪の色が抜け落ちた、神の力の体現者。
ロキはこれじゃないかって言われていて、大団円のトゥルーエンドで同じく魔力量がバカみたいに高いヒロインでさえ破れなかった敵の結界を無力化してしまう。
おっといけない。
私は3人の母親たちにも礼をして、ロキたちと話をするタイミングを計ることにした。
というか、転生したのは私1人なのかどうかとずっとこの8年間悩んできた。そうじゃないと祈りたい。また2人に会いたい。アキラとリョウに会いたい。
と、ロキの母親――スクルド様が、私の母たちに話があると言って、ここに私たちは残っておくことになった。
急にどうしたのだろうか、と思うが、ロキとソルの眼が私を見ていることに気付いた。ルナだけは花の方を見ているけれど。
席に着こうという話になったけれど、ロキが突然口を開いた。
「なあ……あんた、クルミじゃねえの?」
私はフリーズした。
ロキってこんなに男の子っぽい口調でしゃべるキャラだっただろうか?
ソルも驚いてロキを見ている。
「……なんでフリーズすんだよ……松橋クルミじゃないのか?」
「な、何であなたが私の名前知ってるの……?」
少し怯えてしまったかもしれない。
「なんでってそりゃ……俺が高村リョウだからだよ」
「!」
私が驚愕に目を見開くと、ソルが言った。
「リョウ!! あんたもやっぱり!」
「その反応ってことはアキラか?」
「そうよ! よかった、1人じゃなかったんだ!」
私はみるみるうちに涙を浮かべてしまって、ルナが大丈夫ですか、と小さく声を掛けてくれて、嬉しくて驚いたから泣いたんだって伝えて。
「クルミ、クルミだよね?」
「……うん!」
ルナをすっかり蚊帳の外にしてしまったけれど、ロキがフォローしてくれたみたい。
こうして私は、一緒に轢かれて死んでしまった親友たちに再び会い見えることができたのでした。
「ソル、その人たちが、ソルの言ってた“前世”の知り合いなの?」
「ええ、そうよ。クルミ様が、私の親友のクルミって子だったの。ロキ様は私の双子の弟だったのよ」
ソルがルナに応え始めた。そしたらルナがキッとロキを見て言った。
「ロキ様、いえ――リョウ、ソルは私の姉です。ならばアキラも私の姉のはず。リョウは私のなんですか!?」
「ソル様は私にとってはただの男爵令嬢ですが――俺にとっては双子の姉貴なんでな、あんたはさしずめ俺と姉貴の三つ子の妹ってとこだな!」
ロキの悪役っぽい顔で言うなよ、悪役っぽいよ、リョウ。
「妹……言質取りました! お姉様と呼ばせていただきます!」
「せめて俺が男装してるときにお兄様にしてくれ!」
あら?
「リョウ、あなた男装する気なの?」
「公式の場以外では基本男装する気でいる。それとも、ベルサイ〇の〇らみたいに男装の麗人で通すか?」
「そっちの方が疲れないんじゃない?」
「それもそうか……ちょっと考えとくわ」
リョウっぽいリョウっぽい。
ロキは本当にリョウだったのだと私は改めて思った。
ルナとソルとロキ、これで私が探していた人はほぼ全員が揃ったことになる。あとはエリスだけね。
「ところで、どうしてリョウはこんな伯爵令嬢が主催のようなお茶会に?」
「ああ、母上が参加しろと。クルミって名前だったから疑ってはいたんだ」
「だからって度胸あり過ぎよ……」
「でも俺らしいだろ?」
ロキの言う通り。私たちは笑い合って、友達になるって約束をして、私たちしかいないときは、お互いを呼び捨てにすることにした。
そのうち母様たちが戻ってきたので私たちはお茶会を開始した。
こんな風に書いてしまいましたが、ヒロインへのざまあの予定は――無い!
ブクマありがとうございます。
のんびりやっていきます。
感想等お待ちしてますm(_ _"m)