密猟
ちょっと展開が早いかもです
神々の印章、というのは、本来その神の名を冠された人間が体内に持っているものである。殺さなきゃ採れない。
つまり、誰かの墓をひっくり返したか、誰かを仏さんにしたかってことである。
何方にせよ大罪。
「何のことです? 我々はただ、清掃に来ただけですよ」
「それならそのアポロンとディオニュソスの印章は必要ないですよね?」
「これは、親の形見で」
バレたと知ってすぐに見せてきた。
ちなみに。
こちらでは、火葬の習慣はない。
ハイ論破。
「親の形見、ですか。それを採るためにわざわざ親御さんの死体を掻っ捌いて骨を削り、中からそれを取り出したと。どこのクソガキならそんな嘘で騙せると思った?」
ソルが食って掛かった。
ソルもルナも俺もセトも印章持ち。
自分らのことぐらい知ってる、ってな。
「チッ」
「おっと」
「!?」
セトが近くにいた友人を腕の中に収める。
「人質なんてとらせないぞ?」
「フンッ! だったらなんだ!」
男たちの内1人が残り、他2人がさっさとグリフォンの巣の方へ走り出した。
「卵さえ手に入ればいいんでな」
「この野郎!」
「卑怯者!」
相手の考えなど分かっていたが、口に出してくれたのは実に分かりやすくていい。
待て、考えろ。
皆が感情的に叫んでいる間に考えろ。
あいつらが巣に届く前に考えを纏めろ、阻止に動け。
さあ。
「――」
カルを掴んでぽいとスーに乗せた。
「!?」
「スー、飛べ。学校へ。カル、先生たちに知らせろ、グリフォンの密猟者が出たってな」
「!」
相手の足元に召喚紋が出る。こいつ、テイマーか。
「させるか! サラマンダー!」
「走れ、スレイプニルッ!!」
黒い毛と、銀色の鬣のスレイプニルが、空を駆けだす。裸馬で悪いな、カル。なんか今度作るから!
「え、え」
「邪魔だ、下がってろ!」
同級生はセトからの叱責を受けて大人しく下がった。エリスも戦えないから下がっているが、小さく魔術を唱え始めている。よし、セトに集中してくれるようだ、アイツが一番魔物の攻撃くらってヤバくなりやすいからな。魔力が少ない奴というのはそれだけで損をするのである。
「キマイラ!!」
「げっ、」
ライオンにヤギの頭と尻尾は蛇というグロッキー直行の魔物が出現する。
「ソル、頼めるか」
「もちろんよ。早く行ってあげて!」
「ああ!」
アウルムがいれば卵は何とかなる。パワーはアウルム。なら速度は俺が補わねばならない。
学園では真剣を先生の管轄外で持ち出すの禁止なんだが、仕方ないよな!
「小娘だからといって嘗めないでくださいまし」
「殺せ、キマイラ!」
ソルが赤――炎の魔力でコードを組んでいく。
俺は簡単に陣地を形成する。
「エリス、これを維持しろ。強力なサポートになるはずだ」
「陣地変化ね。分かったわ」
光属性は何でもすぐ引き継いで術の行使をしてくれるから助かる。
俺はキメラの向こう側に既に走り抜けているアウルムのところへ転移した。
「転移……!」
「アンタの相手はこっちですよ!」
「邪魔はさせませんわよ!」
ソルやロゼが頑張ってくれる間に俺たちはグリフォンの巣へ向かった2人組の方を追う。
「早く運ぶぞ」
「は、はい」
麻袋に卵を詰めている。
何故グリフォンたちが反撃しないか?
その為の印章だ。
地球の神話に於いて、グリフォンはそもそもゼウス、アポロン、ディオニュソス、あとはネメシスあたりだが、彼らの戦馬役を担っているのだ。
つまり、神々の印章を持つ者はその神に愛されているのだから、逆らう理由はないわけで。
本能的に印象が本物だと分かっているだろうから余計に。
「やめろ、こんチクショー!!」
「チッ、もう来やがった。援護しろ」
「うス」
大柄な方の男、片手剣と――投擲用ダガー!
援護側の細い男は魔銃か!
金持ちかよ!!
投擲ダガー=本数ないとダメ、魔銃=アホみたいに金掛かる。
どんな生活してんのこいつら!
俺はコードを組み上げる。
器用に巣と卵だけ外してやったさ!
グリフォンたちが飛び発った。
大柄な奴の方は何かに気付いたらしく、こっちにダガーを投擲しつつ防御コードを刻み始めた、器用な奴め!
元は貴族だろうか。
アイテムボックスから槍を取り出す。日本の槍の形で作ってもらった特注品である。薙刀と刀もあるが、リーチの長いものからが良かろう。
ダガーを弾いて思い切り踏み込む。
男は片手剣で流した。片鎌槍にしたのにうまいこと流しやがったなこいつ。
そのまま腕を強化し、槍を片手で薙ぎ払った。男をうまく叩けたのでよしとする。
「がッ……!」
俺側に弾丸が飛んでこないのは純粋に、アウルムが盾になってくれているんだろう。
ふらつく男にそのまま槍の長い柄を叩き付け、しならせ、弾き飛ばし、脚の骨がいい感じに割れた感触があった。
「ぐぁっ……!」
「ふ、は」
俺は男がひっくり返ったので近付く。ダガーなんて中らなきゃいい。丸腰のクソガキだとでも思ってた?
アイテムボックス持ちで悪かったな?
「ああ、あなた方には聞きたいことがいくつかあるんですよ――」
男の目がきらりと光った。
「――なんて言うと思ったか、バーカ。魔力回路閉鎖、声帯破壊、失明効果」
「――ッ!?」
男の声はもう、聞こえない。
「死ぬなよ? 死のうとしたら君の家族たちをなぶってあげよう。奴隷に落とされるのがいいかな? ああ、可愛らしい娘さんだな?」
「――!! ――!!」
どっちが悪役よ、とツッコミ入れたくなったけれども、これたぶん、ロキの神格の影響来てるな。
スイッチ入ったって感じだろう。
ちなみにイメージで浮かんだのは焦げ茶色の天然パーマの女の子、目の色も焦げ茶色、顔は普通だけど、笑うと愛嬌があるね――あれ、俺なんか魔術行使したかしら。
「ナイト、メイ、その男を見張っておいてくれ」
俺が視線をアウルム側にやった時、丁度向こうも終わったところだった。
「な、なんなんすか、魔銃が全く効かない奴なんて、そんなの、居るわけないっス!」
「いるんスよこれがぁ~♪」
アウルムもかなりキレている。
脚。
脚全体が、金に変わってるんじゃねえか、アウルムのやつ。
「に、肉体の金属変化なんてっ……! 禁呪だ、呪われた子だッ」
「なァに言ってるんすかぁ、もっと簡単な答えがあるじゃないスか~」
その答えを教えてやる必要はない。
俺はアウルムの肩に手を置いた。
「!」
「終わり」
「……ん」
ふわり、とアウルムはワイヤーをアイテムボックスから取り出す。
「ホレ」
「ありがたい」
ワイヤーで男たちを縛ったところでソルたちもやってきたが、結構ボロボロだった。
男3人を縛ったらあとは大人が来るまで待つか、ということになったのだが、そこで、グリフォン夫婦がこっちに寄ってきた。
で、気が付いた。
グリフォンが大人しく従っていた?
んなわけなかったのだ。
「え……すごく、衰弱してない?」
「印章に逆らってたのか……! なんて無茶を」
気付いたセトの言葉に俺たちは息を呑んだ。
印章に逆らうのは、彼らにとってはかなりきついことのはずなのに。
神に逆らったら天使は消されてしまう。
悪魔なんてもんは存在しえない。
それがこの世界。
「……卵、守りたかったんだな」
アウルムの言葉。
分かる。
もう、雌の方のグリフォンは助からない。
「回復……してあげられないんだね……」
「グリフォンは誇り高い魔物だ。彼らのプライドを傷つけるようなことは、やめておけ」
回復と補助しか能がないと自負しているエリスにはかなり堪えるだろう。セトの言葉にエリスは俯いた。
ゆっくりとグリフォンが俺たちの前に卵を置く。
卵は4つ。
これらはきっと本来なら2つ孵ればいい方。育つのは1頭がいいところ。
「……」
グリフォンが俺にその頭をこすりつけてくる。
俺だけじゃない。
アウルムにも、ソルにも、そして。
「皆ッ――!?」
走り寄って来たカルにも。
お帰りと言いたいが帰って来るの早すぎない?
「こ、れは」
「卵。託された」
雌のグリフォンがどさりと倒れた。
「間に合わなかったな」
「だなー」
この声は、
俺は声のした方を見る。
デルちゃんとアストがいた。
「デルちゃん、アスト……」
「よう、ロキ」
「おひさー」
まったく、緊張感も雰囲気もへったくれもねーな、と言おうとして。
涙がこぼれた。
「……このグリフォン、いい顔してんじゃねーか。いいねえ、こんなグリフォンはもうあんまりいないんだ」
デルちゃんが武器を手に持ち出した。その大きな鎌を見て、死神のようだと思った。
「悪用されしかつての主君の証に逆らわんとした心意気、確かに見届けた。安らかに眠りなさい」
「よく頑張ったな、ありがとう」
死ぬことは、生まれることと見つけたり。
なんて、
どこかで聞いたことのあるようなセリフになぞらえて。
どうか、このグリフォンが安らかに眠れるようにと、祈った。
♢
「で、見事にグリフォンの卵まで手元に持ってきちまったわけか。そら災難だったな」
「笑い事じゃねえよデルちゃーん!」
男3人は先生たちに預け、どうやって彼らが入って来たのかを調べるために人員が割かれた。大変だなー。
でも本当に、どうやって入って来たのだろうか。
数日後、俺たちの言い分がまとめられた文書を提出した。
簡潔に言えば、今回のことは転生者が関わっている可能性が大きい、ということだ。
理由は単純だ。
この国はギリシャと北欧の神々が混在しているが、それはつまりこちらに地球と同系統の神話が存在しない可能性を示唆する。
ちょっと神話を調べてみたが、こちらでは戦馬に関する記述が何もなかった。
つまり、グリフォンにアポロンとディオニュソスを向けるのが効果的だと知っていた人間がいたことになる。
それはきっと、神話を知っている人間。
こちらでその系統の神話がないとすれば、転生者か転移者かって話になってくる。
「きちんと相手が見つかりゃいいがなー」
「そこは気にすんな、確実にそういうのを潰しにかかるやつらが居るから」
「そうなのか」
デルちゃんが安心しろ、と俺に言う。
だからとりあえず、彼らに任せることにした。
本日はここまでです。
お楽しみいただけると嬉しいです。




