魔物学と卵
祝・ブクマ80件(*´▽`*)
今後ともよろしくお願いいたします。
ロゼが俺とソルにわざわざ会いに来たのを見て、俺は口元を綻ばせた。
まさかなあ、こんなとこで会うなんて思ってなかったってのが大きくってさ。
「まさかちゃんと会えるとは思ってなかったよ、佳代」
「私もよ、涼君。おまけにTS転生とか、冗談きついんじゃない?」
「ハ、違いない」
あの場所で死んだ俺たちの知り合いのラスト2人のうち、片割れが、結構近いところに居た。
皆で今日は集まっている。
入学パーティから数日後の今日、俺たちは魔物についての授業を受け、1人1つずつ、小さな卵を貰うことになっている。
「今日の授業は楽しみね」
「はは、確かに」
ところで、彼は大丈夫か、と問うてくるロゼに俺は頷いた。
「信頼できる人たちに解呪を任せてる。あ、来た」
「お嬢!」
制服に袖を通したならちゃんと着ろと言いたいが、アウルムにそれはちょっと無理かな。前を思いっきり開けて着崩している。
アウルムに掛けられた魅了はデルちゃんとアストにその日の内に解除してもらったが、なにぶん強烈なものだったらしく、ある程度打ち消すために香の類を使用することになったそうである。
アルグが知ったらブチ切れ必至、だそうである。
ちなみにアウルム曰く、「アイツは大体人間嫌ってるから。俺が殺されすぎて」。
まずお前が死ななきゃいいわけだなと俺は理解したわ。
にしても、和服のやり方を此処でする羽目になるとはな。
服に香を焚いているのだ。本来は魔術の効きを多少悪くできる小道具である。
今日は藤ですかな。
「藤?」
「ん、よくわかったな」
「馬鹿にすんなよ」
ちなみにこの世界、匂いに敏感な人が結構いる。でもまったくわからなくてどぎつい香水つけてる人もいるから、そういう人と会うと俺たちは涙目だ。
「しかし、ゲーム内で書かれてないところでイベントが起きてくのかー困るなー」
「それはどうしようもないわな。ま、悪役令嬢同士仲良くやっていきましょうや」
そろそろ講義が始まる。
俺たちは魔物学の教室へ向かった。
♢
魔物学の先生はハインドフット教授、である。
ハインドフット教授は長年魔物について研究している人物で、教科書通りには進まない先生として有名。なおかつ、平民出身でハインドフット男爵位を貰っている当代貴族だ。まあ、気位の高い貴族の子弟とは反りが合わない。
「では、まずは皆がどれくらい魔物を知っているか、聞いてみましょうか」
授業開始早々こんな言葉が飛び出し、10分程度で知っている魔物の種類を思い浮かべ、各自1つずつ発表させられた。
ゴブリンだのオークだのはかなりレベルの低い魔物であるらしい。
まあ、図鑑で知ってたけど。
ドラゴン、セイレーン、ハルピュイア、不死鳥、ケルベロス、ヘルハウンド、皆よく知ってるね~、オルトロス、アルミラージ、グレムリン、なあそろそろ俺らヤバくね、分かんなくなってきた、――。
周りの反応が面白くて、でも俺自身言える選択肢が少なくなってることに気付いてヤバいなーってなってきたところで、俺の横に座ってたアウルムが立った。
「えーっと……鳳凰?」
「おや。鳳凰を魔物に数えたということは、君は鳳凰を孵したことがあるね?」
「あ、はい」
なあこれやばくね、どうしようと俺に目で訴えてくるアウルム。いつものチョーシはどこ行ったこいつ。
そしてお前の経験はこういう時役に立たないのね――立たないね、お前中等部でここに来たの初めてなん?
「ふむふむ、いいんだよ、人によっては鳳凰を神獣と呼ぶ人もいるってだけだからねえ」
どこの中国人スかね、それ。
で、俺の番か。
無茶言うなよ!
グリフォンもヒッポグリフも言われたわ!
俺ほとんど知らねーよ!
「……えと、ス……」
「……」
先生の笑顔、周りめっちゃ見てくるわー、やめてー。
「スレイプニル……」
「……」
何それ、って言われそうなんだよね、スレイプニルって。
何でって?
マイナーすぎたんだよ図鑑に載ってなかったんだよ言いたくねえだろこんなの!!
地球と違って、神獣と呼ばれる類――今世代だと殿下たちが孵したことのあるペガサス辺りはいいが、それ以外の神獣は基本“いないもの”とされている。
おとぎ話の中にのみ存在しており、現実に会うことは不可能とされているのだ。
何の動物が好きですかって聞かれてツチノコって答えるレベルだぞ。
無理。
「……な、」
憐みの目をこっちに向けてくるやつらがいた、スレイプニルなんて言わなきゃならんかったんかどんまいみたいな目をやめろ、公爵家だからってそんな折れないプライドは持ってねえわ。
今?
女ですが。
「素晴らしい! スレイプニルをどこで知ったのかね!?」
「!?」
ハインドフット教授が寄ってきた。目がキラキラしている。小太りしたおっさんなんだが、愛嬌のある人だ。
「え、と、あの、貰った卵から」
「おおおおお! 連れてきているかい!?」
「あ、はい」
「今度ぜひ見せておくれ!」
「あ、はい、あの子が嫌がらなければ」
「うんうん!」
なんか勝手に納得して教壇へと戻っていった。
ちなみに、俺で最後でした。
「と、いうわけで、一通り魔物たちを出してもらったわけだが、これらの魔物が全て、元は同種であるということは知っているかな? 魔物は魔物族という種族であって、個体の形によって人間が呼び分けているだけだ」
この世界ではインキュバスだのサキュバスだのも魔物区分だったりする。人間と魔物の差があまりなく、魔物は精霊とあまり変わらないときた。が、人間と精霊ははるか遠い存在だそうである。たぶん、階段とエレベーターみたいなもんだろう。
昔はもっと細かく分けていた時期もあったらしいが、どっちみち魔物を生み出すのは魔物に変わりないので、魔物は魔物、ということだろう。
「魔物たちは基本的に、自分の近くにある魔力を吸収して、その性質に最も合った魔物に変化して生まれてくる。人間だけでは通常は植物系も動物系も生まれない。人間から生まれてくるのは、人型の魔物ばかりだ」
デュラハンとか、バンシーとか、ジャック・オ・ランタンとかのことらしい。
「だが、近くに異なるものの魔力があるほど、適応しやすいように、身を守りやすいように、強力な形になっていく」
これはドラゴンやスレイプニル、グリフォンなんかがそれらしい。
ヒッポグリフだけはやっぱりグリフォンが馬に産ませたものらしい。なぜそこだけ地球と一緒なんだよ。
「基本的に皆動物型の方がカッコいいって思っている子が多いけれども、強い魔物ほどプライドが高いんだ。卵から孵せば基本的に反抗はあまりしないけれど、野生のものより弱くなりがちだ。この授業では、まずは卵を孵すところから始めるよ」
さあ、皆、選んで。
ハインドフット教授はそう言って皆に卵を取らせる。小さな卵だ。魔物の卵としては、という話であって、マンゴーくらいの大きさはある。
皆ばっと立ち上がって我も我もと並んでいくが、まあ。
俺たちは並ぶわけないんだよな、これが。
卵の中には確かに、いい卵と悪い卵が存在する。
でもそれをいい個体にできるかどうかは、卵のあずかり知るところではないのだ。
まあ、ほら。
確実にハイレベル魔物で孵化させちゃいそうな人がいらっしゃいますしね。
横を見たら、「こっち見んな( ´∀` )」と返って来たのでネタにされるのは分かっているらしい。
「君たちは選ばないんだね」
「やっぱり一番大事なのは育てる過程だと思いますしね」
いや、単に卵ですべてが決まるなら人間の魔力の伸びとかも存在しないでしょって話なだけだが。
「うんうん、その考え方、いいと思う」
どうしても、才能ってもんはある。
それを最大限引き出して孵してやれるなら、それが一番そいつ自身のためにもいいと思う。
ちなみに、だが。スレイプニルなんぞは、最初っから個体値云々はぶっちぎりのトップクラス、神の末端に座っているようなやつなので、気にすることはなんもない。同種がそもそもほとんど出現しないからな。同種の中ではやはり優劣が出てくる。
皆が卵を取り終わって、俺たちも席を立ち、卵を覗き込んだ。
「あら、可愛い」
ソルの声に確かに、と思う。
柄はない。
「親はバラバラなんですね」
「うん」
卵、と端的に言ってしまえば基本的に白いのばかりなんだが、ここにあるのは赤だったり黄色だったりする。
面白いことに、残ってるのが銀、金、朱、紅、蜜柑、桃、茶色、翠と黒、黄、藍、黒とカラフルである。
「うわー、マジ俺らじゃね」
「じゃあその色とるか」
って、おい。
お前らも残っとったんかい。
「殿下もこの授業受けるんですね」
「ああ、ロゼに勧められてね」
どちらにせよ魔物については学ばねばならないから、と言って、丁度面白そうだったので取ってみたとのことである。
銀は俺に、金はアウルムに、朱はソルに、紅はロゼに、蜜柑はルナに、桃はエリスに、茶色はクルミに、翠と黒はセトに、黄はカルに、藍は――何故お前がいる、アレクセイ。黒はゼロに。
他の皆のも見てみればカラフルである。
いろんな柄付きを皆は選んだようだった。
「ちなみに、去年一番早かった子は1週間ほどで孵しました。出てきたのは、ゴブリンでしたよ」
「早いからっていいわけじゃないんですね」
「すぐに逃げる態勢を整えるには、ゴブリンは有利ですから、何かに追いかけられていたんじゃないでしょうか」
どっと笑い声が上がったが、おそらくそうだろう。
逆に、だ。
「……どう思う」
「ゴブリンのまま終わるとは思えねえな。進化でもしたんじゃね」
「お、分かるかい」
魔物には進化の概念が存在している。
かつては人間にもあったらしいが、神々がここを離れた時に一緒に消えてしまったと言われている。
「今は鬼人になっているよ」
「成長早すぎやしませんか」
「オーガの時に魔物との戦闘訓練に連れて行ったら鬼人になっちゃったらしくてねえ」
そらなるわ。
なんつー無茶を。
ポケットに入るあいつらもあんま変わらんか……。
「知能の高い形になったときは気を付けて扱わないと、親を殺そうとする個体も居るからね」
図鑑とにらめっこしているだけじゃこの授業は分からない、だから次回からはいろんな魔物たちとの触れ合いを中心にしていくことになるよ、とハインドフット教授が言った。
「いろんな魔物との触れ合いは、卵に多大な影響を与えるから」
俺の隣で大事そうに卵を抱えている友よ……お前の卵、いかにも授業終わり待ちですってくらい膨らんでません?
もう出てくる気満々じゃね?
アーユーレディ?
「……大丈夫か、そいつ」
「んー……ちょっと元気あり過ぎだな、はは……」
アウルムは柔らかく微笑んで卵をさすった。
「お前、一体どんな顔してるんだろうな」
紡がれだした言葉に、一瞬で教室が静かになる。たぶん俺が気を配れてるのは、俺がこうなることを知っているからだ。
皆の目がアウルムに釘付けになった。
授業終わりまであと3分。
教授すらも声を発さない。むく、とまた卵が大きくなった。
卵の殻って何で出来てんだコラ。
カルシウムじゃねーのかオイ。
「早く会いたいなぁ」
あと2分。
風すら鳴らない、
ここはゆりかご。
卵はどんな気持ちだろう。
「いつ出て来てもいいんだぜ。待ってるからな」
あと1分。
突然、尋常じゃない魔力量がアウルムに収束し、俺はとっさに自分に結界を張った。
キーンコーンカーンコーン……
この教室にもチャイムを鳴らすための拡声器はあるにもかかわらず、音が小さい気がする。ひでえもんだぜコノヤロウ。
「ロキ、大丈夫!?」
「ええ、平気ですわ、結界も間に合いました」
無詠唱かつコードを複数同時でやったから多少緩かったが、同時進行で組んだ身体強化と防御力上げで耐えた。
「――で、俺は合格かい、ドラゴンさんよ」
俺は、アウルムの腕の中の存在に問いかけた。
今後のストーリー展開に合わせて修正してから投稿していますが、おかしな部分があった場合はご指摘をお願いします。




