表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Imitation  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年生 前期編
34/154

入学パーティ事変

エリス視点


知り合いがまた死んじゃうのは嫌だと、オレンジ色の髪の少女が言った。


ルナ・セーリス。

彼女はとてもとても可愛らしい子だ。

私たちが死んだ後、姉とその親しい友人たちを喪って、兄や姉をなくした気分だったと彼女は語る。


で、あるからして、私――最も彼女が問題のあるヒロインであると考えている私に声を掛けてきた。

ここまでは理解できる。

私も同じ立場ならそうしただろう。


「――つまり、私が逆ハーに行ったとしても、アウルムは死んじゃうわけね」

「はい。だから、なんとしてでも逆ハーにはいかないでほしいんです。それに」


ルナは、泣きながら言った。


「続編では、少しだけ未来も描かれるんです。最初の選択肢で世界観が、時代が変わります。その中の一つで、エリスは――争いの女神の名を持つあなたは、死んでしまう」


死徒との戦争になる少し前の、続編ヒロインのハッピーエンドでのことだという。その時のエリスは、光属性を見込まれて侯爵家に養子に出されたうえで、そこの次期当主と婚約していたらしい。


俗にいう、悪役令嬢の世代が変わったことによるデスマッチ。

私まだ死にたくない!


私もイヤー、と意識の片隅でエリスちゃんが声を上げた。

うんうんわかるよ。


そんな中で私は中等部から皆と同じ学校に入れるようになった。残念だけれど、私は皆と違ってきっちりマナーを仕込まれなくてはいけないので、皆よりも休み時間は少ない。大学と同じ形式だー、とルナが騒いでいたあたり、ルナは大学に行けたんだろう。





入学パーティではエスコートを他の男爵家の令息に頼み、会場で何曲か躍ってご飯を食べる方に夢中になった。


「ロキ様大変ねー」

「だからスズで来たがってたのよねー」


私が言えばソルが苦笑した。


「ロキ様はあの外見、毅然とした立ち振る舞い、家格も申し分ない。なんでカル殿下の婚約者辞退しちゃったんだって上ではめちゃくちゃな憶測が飛び交ってるよ」


クルミが言った。


ソルのドレスはワインレッド、ロゼ様の真っ赤なドレスを見た後だとワインレッドがものすごく落ち着いた雰囲気に見えるから不思議だ。

ブレスレットを1本だけ身に着けている。


ブレスレットやアンクレットは娼婦がつけるものとされているのであまり好まれないのだ。特に、何本もつけるのはよくない。


私のイェスタ男爵家は恐妻家だったもので、私の母は後妻に収まったという状態だ。今日のために身に着けるペンダントやネックレスは一通り揃えてもらっていたけれど、やっぱり私は母さんが最初に買ってくれたペンダントが好きだった。

エリスちゃんの思い出の品なのだ、大事にしたい。


ルナの姿は、柔らかなオレンジ色のふんわりしたドレス。こそっとソルとアウルムが整えていたのを見て、過保護、の一言。


ロキがアウルムに「こんの節操無しが!」と蹴りを入れるのを見ていると、笑ってしまう。

ちなみに、ロキとアウルムのスカーフとストールはたぶん元は逆だったのだと思う。

分かり辛いけれど、アウルムのシャツが少し青っぽいんだよね。

たぶんお互い似合わないからってことで交換したんだろう。


ロキの銀髪は綺麗に編み込まれ、結い上げた髪に月光が当たるととってもきれいだった。黒と白と青と銀。それがロキの色。黒と白と赤と金、それがアウルムの色。


しかし、平民枠で彼はこの学校に入れたらしい。後ろ盾の大きさよりも、たぶん彼は頭いいんだろうというのが率直な感想だ。


外見がチャラそうなのはもう、仕方ないよ。

ああいう主人公の漫画、知ってる。

ていうか雰囲気そっくりだもん。


でも、すっごい似すぎてて怖いねってロキに話を振ったら、まんまだぞ、突然俺たちのために死ぬぞアレ、と返されたのには驚いた。

心配するところは一緒らしい。


クルミのドレスは芥子色と薄い柿渋色、なんでそんな地味な色チョイス。

でもそのおかげか緑のワンポイントがすごくよく映えていて綺麗だ。


「はぁ、皆綺麗……」

「あらあら、エリスちゃんも十分綺麗よ?」

「私はまだ滲み出るものがないんですよ~」


ソルの言葉にそう返すと、そうね、と笑われて、小さく分けられたステーキが乗った皿を差し出された。


「いいんですか?」

「うん、ほら、アウルムがとってきてくれるから」

「じゃあ遠慮なく」


頂きます。


そのうちダンスを終えて疲れたと言いつつ戻って来たロキにジュースと軽食を渡すアウルムを見て、面倒見がいいんだろうなあと思った。


「ロキ様お帰りなさい~」

「ふはははは、もう躍らねえぞ畜生」


チクショウなんて言っちゃいけません、と私たちは笑いながらパーティを過ごした。

なので、忘れていた。


パーティ途中、誰かさんとカル殿下が偶然一緒に躓いてカル殿下が誰かさんを押し倒す形になるというイベントがあることを。


どよめいた方を見て、ルナが言ったのだ。


「あ、忘れてた」


何を。

そう問い返す前にルナがロキをつついた。


「ん?」

「私たちがイベントを起こさなかったルートのページ、読んだ?」

「ええ」

「いま、イベント起きました」

「……さらっと起きたな」


ちなみに、アウルムはアレに巻き込まれてるはずですよ、とルナが言ったためにロキが飛び出していった。


何がどうなってああなったのか、修羅場だ、と周りの声。私とルナとソルは野次馬根性で見に行った。


そこには、顔を真っ赤にしているピンクパールのストレートヘア、ありきたりの薄い水色のドレスに身を包んだ男爵令嬢がいた。

殿下とのキスは終わってたか、チッ!

あら、ロゼ様に失礼かこれ。彼女、カル殿下の筆頭婚約者候補なのだ。


そして巻き込まれてとばっちりをくってしまったらしい、服を濡らしてしまったアウルムが呆然と立っていた。


「シド!」


ロキがアウルムを呼んだ。アウルムは弾かれるようにロキの方を見て、目を伏せた。

汚すな、って言われてたらしいからな、と思って、ギョッとした。


その服は、金糸銀糸のふんだんに使われた、かなり高級なものだったのだ。


ルナが小さく舌打ちした。


「あのピンクパール頭、転生者だけどなんか被害者になってる」

「え?」

「あのヒロイン、ナタリアっていうんだけど、本当はもっと目立つフリフリの黄色で来るはずなの。回避しきれなかったって感じかな」


ルナの方を見る。

ルナは苦々しく言った。


「――なんか変だとは思ってたけど、納得がいったわ。イミドラの中では主人公たちはそもそも存在が出てすら来なかった――この世界は、ヒロインが動くことで乙女ゲームが始まるんだわ」


つまり。

行動を起こさなければ、何もしなければ、乙女ゲームにはなりえない。

けれど、その動くというのはおそらく、日常そのもののことであって。

ナタリア、って言ったよな、あの子と話をしなくてはいけないのでは?


ロゼ様がつかつかとカル殿下の前に出ていく。


「カル殿下、私ちょっと気分が優れませんの。早めに抜けますわね」

「あ、ああ……」


ロゼ様はロキと目を合わせ、ロキがばっと飛び出していき、アウルムの手を取った。


「アウルム、戻りましょう」

「おじょぅ、すんま、せ」

「いいのです。服なぞ違うものを着ればよろしい。さ、早く戻りますわよ」


魔術できれいにしようとしないところを見ると、やっぱり。

あの服、身を守るために守護魔術かかけられた特注品だったに違いない。


「……今の見た、ソル」

「ええ。強力な呪詛が降って湧いたわね」

「あれ、【魅了(チャーム)】でしょ。てかロゼ様、王子とられるぞ」

「金目見られてるからね、最悪アウルムによっちゃうかもよ」


ソルとルナはそんなことを言いつつも、私たちも抜けようと言い出す。クルミだけ置いて行くわけにもいかず、私たちは皆でその場を後にすることにした。





「大丈夫!?」


私たちが転移した先では、うなだれたアウルムと、かけられた魔術のコード解析をしているロキと、それを手伝っているロゼ様がいた。


「う……?」

「来たのか」


ロキはロゼ様の前だけどもう取り繕う気はないらしい。


「ねえ、さっきのって」

「ああ、してやられた。こら、アウルム、顔上げんな」

「うー……」


コード解析できた、とロキが言う。

ロゼがうわ、と声を上げた。


「これ、なんてデタラメな術なんですの!?」

「魔法版【魅了(チャーム)】だ。ルナ、シドの情報寄越せ」

「う、うん」


声を急に掛けられたルナは説明してくれた。


まず、シドのストーリーは奴隷に落とされるところからだから、これは回避している。けれど、まだいくつかあって、呪いの如く掛けられた【魅了】の魔法で、ものすごく色っぽい青年になってしまうらしい。色目を使っているわけじゃないのにそうなって、女性嫌いにもなって、奴隷に落とされたうえでこれになっちゃうものだから人間嫌い。これが、彼が最後死徒側につく一番の理由。


魔法は、彼の瞳を見ることでかかるらしい。


「しかも男性しか解けませんわよ、これ」

「は?」

「これ、対男性用の術式ですもの」

「このシナリオ考えたやつ出せ、消し飛ばしてやる!!」


メタい発言を始めたロキ。ルナはけれど、ロゼ様をじっと見つめている。


「……まさか。ゼロ、お前外に出てろ。誰も近づけるな」

「はい」


ゼロが出ていった。

ロキがアウルムに顔を上げさせた。


「……あーらら、こんな蕩けちまってまァ」

「……う、りょう、やだ、アルグ……」

「まだアルグは見つかってねーだろ」


きつそう。

でも、ロキはロキだから平気みたいだ。

スズだったら駄目だったんだろうな。


服、濡れっぱなしだ。

ああ、もしかして。


「その液体のせいでかかってるのかな?」

「本当ならとっとと拭いてやりたいんだが、いかんせんこいつは男で裸を見られて平気なほど女慣れはしてないらしい」


意外とピュアだった。


「だから放置中なんだが……ちょい待てよ……」


ロキが何か考え始めた。

もしかして、と呟いて、ロゼ様に言う。


「ロゼ、乾いたタオルとか用意してくれ。俺はちょいと魔法使うわ」

「あら、もう私を敬いはしないのですね」

「どっちにしろ公と公で一緒だろ」


ロキが魔法を組み始めた。周囲に何人か気配がしたけれど、ゼロらしき魔力に流されて消えてった。


私もイミラブをプレイしていたから思ったことなのだけれど、ふと、とある疑問が浮かんでくる。


ロキが使えてヒロインの使えない魔法って何だろう?

それはおそらく、破壊魔法と創造魔法の同時進行というアホみたいなことだとは分かるのだけれども。


そしてそれを、確か。

欠損魔法。


奴隷に落とされて、これを掛けられた後もロキから離れさえしなければ普通の生活が保証されていた彼を作るためには、これしかない。


――おそらく。

欠損魔法を、ロキが掛けたのだ、彼に。


そしておそらく、その魔法の対象人数は1人。

だから、大団円のトゥルーエンドでしか出てこないし、最後まで使わなかった、使えなかった。


「よし、どうだ」


光が晴れ、収まると、そこにはもう、瞳のうるんだ煽情的な表情をした、アウルムは居なかった。


「……くそ」

「ふー、よかったよかった」


今回のは何だったんだろうか、という問いかけは、調査を命じたというロゼの口から、後日語られることになったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ